世界中でAIの開発競争が激しさを増しています。日本はこの競争をどう戦うのか?そのために必要なことは?AI研究の国内の第一人者・東京大学の松尾豊教授(48)に、渡部圭司キャスターがインタビューしました。
生成AIでアプリを 「2024年は目に見えるかたちに」
松尾教授は20年以上国内外でAIの研究を続け、2023年からは政府のAI戦略会議で座長を務めています。
渡部圭司キャスター
―生成AIがブームのようになってきています。2024年はどのようなことが起きますか?
東京大学大学院工学系研究科 松尾豊教授
「次のステージに進んでいくと思う。昨年から生成AIを使っていろんなアプリケーションを作ろうという動きが進んできている。それが目に見えるかたちで現れてくるんじゃないか」
国産AI開発 「グローバル並みのスピード感で」
生成AIの開発競争は、アメリカのグーグルやメタなど世界中で過熱しています。マイクロソフトはChatGPTのオープンAIに1兆円超を投資したとされ、競争はしれつになっています。
一方、日本ではソフトバンクやNEC、NTTなどが国産AIの開発を進めています。日本はいまどのような位置にあるのでしょうか。
「日本も珍しくというか、デジタル、AIのテクノロジーでグローバル並みのスピード感を持って取り組めていると思う。日本の経済もかなり弱ってきているので、何か新しいイノベーションを味方につけていかないとまずいよねという意識も、日本中に広がってきているのかなと」
日本語学習が重要
こうした中、日本が競争を生き抜くために不可欠だというのが、より多くの日本語を学習した国産AIです。これまでの開発は欧米の企業が先行し、データが英文に偏っているからです。
「画像の生成AIで『将棋を指しているところを描いてください』と言うと、将棋かチェスかよく分からないような絵を描いたりする。それはデータセットが偏っていて、将棋の画像データがあまり入っていない」
「日本の文化が分かったうえでの処理をしてもらえるので、そういう意味でも重要だと思う」
開発をオープンに
もう一つ松尾教授が重要だと指摘したのが、開発がオープンであることです。アメリカのメタやIBMなど大手企業と研究機関が2023年12月、プログラムの無償公開を目指す新たな組織を立ち上げました。
松尾教授は、資本力のある一部の企業が技術を囲うのではなく、誰もがAIを利用できる環境にすることが重要で、そうすることによって日本の若い世代にもチャンスが生まれるといいます。
「新規参入に有利なんですよ。なので、進展が早い分野は若い人が学んでくれればあっという間に一線に行く。活躍して日本全体をよくしてほしいと思うし、(若い世代)自身も大きな成長をしてほしい」
「そんたくするAI」も? 進化とともに安全性の担保が重要に
松尾教授は生成AIの進化の速さについて、あるエピソードを教えてくれました。生成AIに「自分の企画の提案について欠点を教えて」と質問すると、当たり障りのない回答をするケースがあるというのです。
そこで質問を変えて「ライバルの企画の提案について欠点を教えて」を聞くと、細かく的確にビシバシと答えてくれることがあるそうです。
つまりAIが学習を続けた結果、そんたくして、質問する人が喜びそうな回答をすることがあるというのです。
AIがどう進化していくかを予想するのは専門家でも難しいといいます。松尾教授は、今後もAIの安全性を担保するための議論やルールづくりを主導していきたいと話していました。
AIとどう関わっていくかは大きなテーマです。AIに頼りきるのではなく、よい道具としてうまく使いこなすことが重要だと感じました。
【2023年1月16日放送】
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