日本の国産の土鍋、シェア8割を占めるとされているのが、三重県の「萬古焼(ばんこやき)」です。
直接火にかけても割れない土鍋として日本で初めて開発され 、300年の歴史を持つ萬古焼。しかし今、製造に欠かせない原料を巡って岐路に立たされています。
土鍋の原料に使われる「ペタライト」
年間40万個の土鍋をつくる窯元。原料に使われるのが「ペタライト」という鉱石です。
ペタライトを使った土鍋の生産が本格化したのは、一般家庭にガスコンロが普及した1950年代です。
直接火にかけられる土鍋を開発する過程で、アメリカの論文に「高温に耐える鉱物」としてペタライトが挙げられていたのを地元の生産者が発見しました。
その後、土にペタライトを混ぜる製法で土鍋の開発に成功。ペタライトを利用した商品開発に力を入れてきました。
価格が7~8倍に?
この窯元では、現在確保しているペタライトの量では2024年以降の土鍋の生産が不安な状況に追い込まれています。
ペタライトは、アフリカ・ジンバブエの鉱山1か所から輸入しています。
しかし、電気自動車の開発を進める中国企業が、車のバッテリーに使うリチウムがペタライトに含まれていることに目をつけ、2022年にその鉱山を買い取ったといいます。
萬古陶磁器工業協同組合の理事長、熊本哲弥さんは、鉱山を買い取った中国企業と交渉を続けてきました。
萬古陶磁器工業協同組合 熊本哲弥 理事長
「いま提示を受けているのは(以前の価格の)だいたい7~8倍くらい。(中国との交渉が)半年でめどがつくのか、2~3年かかるのかという問題はあるので、引き続き鉱山のほうと交渉しながら、とにかく価格と品質を安定させる」
ほかの原料と組み合わせたら…試行錯誤する窯元
ペタライトが手に入りにくい状況の中、生産者たちは試行錯誤を繰り返しています。
別の耐熱原料と組み合わせることでペタライトの量を減らせないか、実験が続けられています。
萬古焼 窯元 2代目 山口典宏さん
「ネガティブな状況にある中でこれをどうやってチャンスにかえていくか。産地でやっていかないと、この先この業界自体は繁栄しないんじゃないか」
ペタライトに頼らない土鍋に挑戦
ペタライトに頼らない土鍋作りに挑戦する人もいます。ガラス製品などに使われる「シリカ」という物質を配合して、窯の温度を調整するなど、商品の改善に向けた取り組みを続けています。
萬古焼 窯元 5代目 内山貴文さん
「社会の流れがどうなっても何とか乗りきれるように、選択肢を複数持っておくということは、自分たち生き残るうえで大事なことなんじゃないかな」
土鍋の原料が入ってこないという状況。三重県の生産者によると、ペタライトの在庫は24年6月までの分をすでに海外から集めたということですが、原料の安定確保のための模索が続いているということです。
【2023年11月10日放送】
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