日本国内で排出される二酸化炭素(CO2)のうち、産業部門の4割近くを占めているのが「鉄鋼業」です。
日本では鉄の大半が「高炉」でつくられていて、その過程で大量の二酸化炭素が排出されます。この方法は、鉄鉱石と石炭からつくる原料のコークスを炉に入れて高温の熱風を送り、鉄をつくります。
いま注目されているのが「電炉」を使って鉄をつくる方法です。原料は鉄スクラップで、廃車のボディーや空き缶などを電極の熱で溶かし鉄を再生するやり方で、二酸化炭素の排出を抑えられるとされています。
「電炉」の鋼材 受注が増加
愛知県田原市にある製鉄所は、ビルの鉄骨や家電などに使われる鋼材を生産しています。
ここでは、電気の熱でスクラップを溶かす「電炉」が使われています。石炭からつくるコークスを燃やす「高炉」に比べ、同じ量の鋼材を生産する際に出る二酸化炭素の量を約4分の1に抑えられます。
脱炭素への機運の高まりを背景に受注を伸ばし、2022年度の生産量は340万トンと3年前から6割増えました。
原料はスクラップ 鋼材の品質は?
ただ原料となるスクラップはものによって金属の成分がまちまちで、ゴムやコンクリートなどの不純物も含まれています。そのため電炉でつくる鋼材の品質をどう維持するかが課題となっていました。
そこでこの鉄鋼メーカーは最新のITを取り入れ独自のシステムを開発しました。スクラップを6種類に分け、製品に合わせて配合する割合を自動で調整しています。
例えば、銅やクロムを含むスクラップを入れると硬い鋼材が出来上がります。またニッケルなどを含むスクラップを入れると変形しても割れにくくなります。それぞれをうまく調合すると、硬さと割れにくさを兼ね備えた鋼材が出来るといいます。
電炉で製鉄を行う鉄鋼メーカー 中西宣文さん
「電炉材を使わないと(脱炭素を)達成できないと、お客様にもモチベーションが出てきた。社会に発生している鉄スクラップを使ってどんどん拡大していきたい」
自動車のフレームに採用できるか?
脱炭素を進めている企業も、電炉でつくられた鋼材に注目しています。電気自動車(EV)を開発している横浜市のベンチャー企業は、電炉でつくられた鋼材を車のフレームに採用できないか検討しています。
一般的に自動車のフレームには高炉で生産する丈夫な鋼材が使われ、走行性能を妨げない軽さと強度が求められます。
この企業は10月、電炉でつくられた鋼材を使って試作した車の衝突安全試験を茨城県つくば市で行いました。
担当者によると、車の前面がうまく潰れて衝撃を吸収する一方、人が乗る部分は変形せずに安全性を確保できるかなどを試験します。
今後さらにデータの分析を進め、安全性に問題がないか確認することにしています。
この企業は、原料の生産過程にこだわることが商品の競争力にもつながると考えています。
電気自動車を開発しているベンチャー企業 伊藤雅彦 取締役
「材料を含め、CO2の削減をこれだけやっているというアピールになる。大きくわれわれのメリットとして結果的には返ってくると思っている」
高炉から電炉へ 鉄鋼大手も検討
気になるのは、電炉と高炉のコストの違いですが、スクラップの価格や電気料金の変動で単純に比較するのは難しいそうです。
ただ最近は二酸化炭素の排出量が少ないという理由から、電炉のコストが高くても電炉の鉄を購入する企業もあるということです。
鉄鋼業界では大手も高炉から電炉へ転換する検討を始めていて、脱炭素に向けて動きが加速しそうです。
【2023年12月26日放送、初回放送11月6日】
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