生産現場の本当の姿とは?「ネイチャーポジティブ」へ状況把握に乗り出す企業

ネイチャーポジティブ」とは「生物多様性の損失を止め、回復させていくという意味のことばです。

企業の間でいま、生産活動が生態系の破壊につながらないように、みずからの責任でチェックする動きが出始めています。

スマトラ島のパーム農園 乱開発が問題に

インドネシア西部のスマトラ島に広がるアブラヤシのプランテーションに、日本の大手日用品メーカー「花王」の社員が視察に訪れました。

アブラヤシから作られる「パーム油」はシャンプーなど日用品の原料となります。このメーカーが世界中で仕入れるパーム油は年間40万トン以上。農園の数はインドネシアだけでも数十万に上ります。

パーム油の工場

いま問題になっているのが、生産者が農園を拡大しようと大規模な開発を行い、生態系を破壊してしまうケースがあることです。

破壊された森林

企業に求められるサプライチェーンのチェック

このメーカーは、生態系を破壊するような行為が行われていないか、現場の状況把握を進めています。

現地の農家(右)に聞き取りを行って状況を把握する

アブラヤシのプランテーションの視察では、メーカー側が、現地のアブラヤシ農家に対し「畑の生活を何年くらいやっているのか」「苗は1ヘクタールに何百本くらいか」などと質問。農家の男性は「若い時、子どもの時から(畑の仕事をしている)」「(1ヘクタールに)143本」などと答えていました。

メーカーが現場の状況把握を進める背景には、企業の原材料調達の過程にまで顧客や株主などが厳しい目を光らせていることもあるといいます。

大手日用品メーカー ESG活動推進部 高橋正勝 部長
「投資家の皆さんからのコミュニケーションでも話題に上がる。社会の関心が高まってきて、われわれも責任を持って対応していかないといけないと感じている」

ウェブ上で情報公開

このメーカーは、これまでに調べた海外の工場の1100余りの情報をウェブ上に公開。2025年には小さな農園に至るまで状況を把握することを目指しています。

ESG活動推進部 高橋部長
「森林が破壊されるということが起こった場合に、契約しているパーム農園が関わっていないかどうかを確認する必要がある。われわれにとっては(自然に対して意識を向ける)必要な活動だと思う」

「ネイチャーポジティブ」へ現地農家を支援

さらにこのメーカーは、「ネイチャーポジティブ」の取り組みを進めるために農家への支援を行っています。その一つが、農薬の効果を上げてアブラヤシの収穫量を増やそうという薬剤の配布です。

限られた農地でより効率的に生産することで、生態系を破壊する農地を最小限に抑えようというのです。

取り組みを通じて、アブラヤシ農家の環境への意識も変化してきています。農家の男性は「(環境への意識が)確実に変化した。環境に配慮するべきだと意識を持った」と話しました。

大手日用品メーカー 購買部門統括 仲本直史 執行役員
「われわれは天然資源によっているところが多いから、パームの調達をするにあたってサプライチェーン上のさまざまな問題をしっかり企業が認識して改善していく意味では非常に大切なことだと思っている」

このメーカーは、現地の農家が、環境に配慮しているという国際認証を取得できるよう支援したり、収益を増やすためのノウハウも伝えたりしているということです。
(ジャカルタ支局 伊藤麗、経済番組 梅本肇)
【2023年9月22日放送】
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