半導体生産強化に動き出すヨーロッパ

ヨーロッパではEV=電気自動車などの需要が拡大し、必要な半導体の不足が懸念されています。こうした中、海外ではなくヨーロッパの域内で半導体を調達しようという動きが本格化しています。

半導体の「地政学的リスク」を懸念

ドイツの大手半導体メーカーは5月、ドイツのドレスデンで新たな工場の起工式を開きました。式典にはドイツのショルツ首相をはじめEUのフォンデアライエン委員長ら首脳が駆けつけ、ヨーロッパで半導体を生産する意義を強調しました。

EU フォンデアライエン委員長
「われわれは最近、『地政学的リスク』の高まりを目の当たりにしている。ここヨーロッパで、重要な半導体を、より大量生産する必要がある」

この「地政学的リスク」とは、半導体の生産が、受託生産で世界最大手の「TSMC」がある台湾などに集中している現状を指しています中国が軍事力を増強する中、台湾情勢によっては供給網の寸断などが懸念されているのです。

台湾情勢の行方次第で供給網が寸断?

欧州 世界シェア20%目指す

こうした状況を改めようと、EU加盟国とヨーロッパ議会は半導体の世界シェア20%を目指し、ことし、官民で約6兆円規模を投じる法案で合意しました。

建設する工場も投資額の2割は主にEUからの補助金を見込んでいます。

ドイツ半導体大手「インフィニオンテクノロジーズ」 ヨッヘン・ハネベックCEO
「EUの法案は、ヨーロッパの半導体産業のエコシステム強化の重要な手段だ」

人手不足 「大きな課題」に

ただ、半導体の工場ができるドイツの地域では課題も表面化しています。製造工程を効率化するロボットなどを開発する会社「ファブマティクス」では、かつてない需要の高まりから人手不足に直面しているといいます。

この会社は社員200人余りですが、この半年で新たに50人も雇用しました。それでも人手が足りず、退職した人を呼び戻すなどしてやりくりしています。

半導体の製造工程を効率化するロボットなどを開発する会社 ローランド・ギーゼン社長
「製品の需要はかなり増している。大きな課題の一つが適切な人材を見つけることだ。(EUの目指す)世界シェア20%に向けやるべきことは多い」

専門家「日本企業と連携強化も」

マッキンゼー・アンド・カンパニーで半導体部門共同責任者を務めるオンドレイ・ブルカツキ氏は、人材不足は半導体産業の成長を制限する要因になりうるとしたうえで、今後ヨーロッパは日本企業との連携を深めることも選択肢の一つだと言います。

オンドレイ・ブルカツキ氏
「ヨーロッパでは日本企業にとって有益な研究が行われている。日本も(半導体産業向けの供給などで)すばらしい能力がある。同じような需要を持つ国どうしが連携し競り合いを避けることで、全体的によい状況になる」

半導体を巡っては、日本政府も熊本でTSMCの半導体工場の建設を後押ししています。アメリカ政府も生産や開発に巨額の補助金を出すなど、各国が競って半導体工場の誘致を進めている状況です。

ただ半導体はすそ野が広く、高度の半導体の設計や生産、そして素材や製造装置といった関連産業まで、すべてを一つの国でまかなうのは難しいという面もあります。専門家が指摘するように、国境を越えた連携がますます重要になってくるのかもしれません。
(ベルリン支局 田中顕一)
【2023年6月8日放送】
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