廃棄繊維とメタバースで新ビジネス!?

かつて繊維産業の集積地として栄えた岐阜県の若手経営者が、廃棄される繊維「残反(ざんたん)」と、ネット上の仮想空間「メタバース」を活用して新たなビジネスを立ち上げ、地場産業の復活を目指しています。

捨てられる生地 安く販売

岐阜県美濃市。コンテナの中に、衣料品を生産する過程で余った布地「残反」が積まれています。色や大きさがまちまちで使いみちがなく、多くが廃棄されていました。

コンテナに積まれた「残反」と、宮島大輔さん

宮島大輔さん(37)は2022年、この「残反」を全国各地の縫製会社から買い取り、個人で服などを手作りする人たちに販売する会社「BISITS」を立ち上げました。

残反を販売する会社を経営 宮島大輔さん
「正規品で手に入れようと思うと価格がとても高くなるが、うちの場合はそれを皆さんに安く提供して、ハンドメード作家さんたちが自分の作品を販売する時に原価を落とすことができる」

出荷額が大幅減 岐阜の繊維産業の現状

岐阜県は国内有数の繊維産業の集積地として栄えてきましたが、近年は、外国製品やファストファッションと呼ばれる低価格商品に押され、出荷額が大幅に減少しています。

シャッターが目立つ現在の街並み

宮島さんは「幼いころ、縫製をしていた祖母と歩いた街に活気を取り戻したい」と考えました。それまで地元で中小企業向けのコンサルタントをしてきましたが、畑違いの業種に飛び込みました。

メタバースでハンドメード作家の交流を

事業の核に据えたのが、ネット上の空間「メタバース」です。現在メタバース会員数は350人ほどで、「アバター」という分身を操作して利用します。

利用者は会費を払って入会すると残反の値引きが受けられるほか、ネット上で作品を見せ合うなど利用者どうしが交流することもできます。

メタバース上での交流

福岡県の会員は「例えば、襟元にステッチを入れるか入れないか、入れたらこうなるよ、みたいなことを見せ合ったり。今までは会わなければできないことだった」と話しました。

交流から生まれた障害児向けの服作り

メタバース上の交流から新たな取り組みも始まりました。障害児向けのオーダーメードの服作りです。

宮島さんは2月、兵庫県尼崎市の会員のもとを訪ねました。この会員は、子どもの障害の特性や成長に合わせて服を手作りする難しさを感じていたといいます。

宮島さん
「機能性の部分もそうだし、デザインとして自分が気に入るもの、体と心に合ったものを提供してあげられると、すごく喜んでもらえると思う」

メタバースを活用して、さまざまな作り手に障害児向けの服を製作してもらえば、同じ悩みを持つ人たちに服を届けられると考え、事業化も視野に入れています。

宮島さんは、仕事の発注や取り引きはメタバースで行う一方、事務所や倉庫は岐阜に構えることで地元の繊維産業に貢献したいといいます。

事務所や倉庫は地元・岐阜に置き、繊維産業の活性化を目指す

宮島さん
「メタバース上に販売ができるマーケットができた時に、モノは岐阜県に送ってもらって岐阜県から発送する仕組みをとろうと思う。全国に発送することができると、岐阜県がもう一回、経済的に栄えていくんじゃないか」

この取り組みは、現在はクラウドファンディングを活用して無償で行っているということですが、今後は事業化を目指していきたいとしています。
(岐阜局 豊田将志)
【2023年5月12日放送】
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