“デジタル貿易”交渉の舞台裏 国境を越えたデータのやりとりにルールを

デジタル時代は、膨大なデータが価値を持っています。例えばネット通販で何が売れているかというデータが新商品の開発に役立ったり、医療データを集めてAI=人工知能で分析することで新薬の開発につなげたりと、データが新たな利益を生み出すのです。

ところが、国境を越えてこうしたデータをやりとりする「デジタル貿易」を行う際のルールが整備されていません。そこで今、日本が中心となって新たなルールづくりが進められています

ルールを整備しないとどんなリスクが?

デジタル貿易のルールを整備しないと、どういう問題があるのでしょうか。例えば個人のプライバシーや企業の機密が漏れてしまうおそれがあります。

また、ある国の政府がデータの国外への持ち出しを禁じた場合には、その国に現地法人を置く日本企業が、現地法人が持つデータを入手することができなくなるという不都合も生じかねません。

交渉の“まとめ役”期待される日本

スイスで行われている交渉

デジタル貿易のルールづくりを巡る交渉は、WTO=世界貿易機関を舞台に行われています。

日本の交渉チームを率いているのが、経済産業省デジタル通商ルール室長を務める寺西規子さんです。

寺西規子・経済産業省デジタル通商ルール室長

経済産業省デジタル通商ルール室長 寺西規子さん
「一つ試金石になるような取り組みなので、気を引き締めてやっていきたいと思う」

交渉には、デジタル貿易のルールづくりに関心をもつ87の国と地域が参加し、共通ルールの妥結を目指しています。

日本は4年前から、オーストラリア、シンガポールとともに共同議長国を務めていて、“まとめ役”としてWTOからも期待が寄せられています。

WTO オコンジョイウェアラ事務局長
「日本は共同の代表として電子商取引交渉に非常に積極的で、称賛すべきことだ」

WTO オコンジョイウェアラ事務局長

自由なデータ流通 対 ”保護主義” 着地点見えず

交渉を進める中で課題となっているのが、データを囲い込む「デジタル保護主義」です。

例えばデータを国外に持ち出す際、中国などは政府が審査できるようにすべきだという立場ですが、アメリカや日本などはそういった制限はかけるべきでないとして着地は見いだせていません。

こうした各国の主張の違いを、寺西さんたちのチームは注意深く分析しようとしています。

チームのメンバーは「例えば一部の途上国は、自分の国に進出している先進国企業から技術を学ぶ権利が正当にあるんだと考えていて、だからこそ企業秘密を自分たちは開示できると思っている節がある」という見解を示していました。

寺西さんは交渉を少しでも前に進めようと、態度を決めかねている国や地域の担当者と個別に会談し、自由なデータの流通への理解を求めています。

 

2023年末までの妥結目指す

1月、日本を含む共同議長国は2023年末までに交渉の妥結を目指すと表明しました。参加者の利害の調整を図るのは難しいものの、一定のルールのもとで自由にデータをやりとりできる世界を目指し、今後も交渉を続けることにしています。

寺西さん
「これからやることはたくさんあるので、交渉を加速して、目標をひとまず実現できるようにしていきたいと思う」

各国の企業が安心してデータをやりとりできるルールづくりを進め、世界経済の成長とつなげていけるか。日本がリーダーシップを発揮できるかが注目されています。
(プロジェクトセンター 福田健吾、経済部 渡邊功)
【2023年2月17日放送】
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