アメリカ景気減速の兆し ローン払えず車の差し押さえ急増

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アメリカでは記録的なインフレが続き、中央銀行にあたるFRB=連邦準備制度理事会がさらなる金利の引き上げを行おうとしています。一方、金利上昇による景気減速の懸念が広がり、ジレンマを抱えています。

長引く物価上昇 ローン払えず車の差し押さえ増加

自動車産業で知られる中西部ミシガン州デトロイト近郊。ずらりと並ぶのは、ローンが払えなくなった人たちが差し押さえられた車です。

長引く物価上昇で生活に困り、車のローンが返済できなくなった人の割合は、2021年5月に2.5%でしたが、22年12月は5.6%と、1年半余りで2倍以上に増加しました。強制的に車を回収されるケースが増えているのです。

回収を代行する会社によると、22年夏ごろからは保管のスペースが常に埋まっている状態だといいます。

回収代行会社の共同代表 ジェニー・リエーガーさん
「台数は夏までにさらに2倍に増える見通しです。食事を優先するか、家賃の支払いをするか、車のローンの支払いをするか、決断しなければならない状態で、残念ながら最初に手放されるのは車です」

度重なる利上げの効果は?

FRBは22年3月から利上げを始め、政策金利を4.25%から4.5%の幅まで引き上げました。景気の熱を冷まし、インフレを抑えるねらいです。

FRB パウエル議長
「歴史は早まった金融緩和を強く戒めている。インフレ抑制を任務完了までやり遂げる」

しかし度重なる利上げにもかかわらず、一部の産業ではインフレ抑制の効果が表れていません。その一つが観光業です。

冬でも温暖な南部フロリダ州のタンパのビーチは、国内外の観光客であふれています。釣り船業者の一人は「クリスマスシーズンは多くの家族連れが来て最高だった」と話します。

街の中心部のホテルは22年の1年間の売り上げが記録的な水準に達しました。最近は人件費が上昇し宿泊料金が値上がりしているにもかかわらず、稼働率が7割以上に上っています。

地元観光協会 会長 サンティアゴ・コラーダさん
「観光産業はとても盛り上がっている。予約は非常に好調で、ことしは過去最高の年になると思う」

景気減速の兆しも

こうした中、FRBはさらなる金利引き上げを行う構えを見せています。しかし大幅な利上げは確実にアメリカ経済に影響を与え始めています。

同じフロリダ州内のピネラス郡では、行政と企業が共同で住宅を整備するプロジェクトを進めています。しかし96戸を建設する予定の地区では、原材料価格の上昇で建設費が日本円で約2億円増加したうえ、利上げで金利負担が増えたことで資金の確保が難しくなり、工事が大幅に遅れるケースが相次いでいます。

工事が遅れる現場

フロリダ州ピネラス郡担当者 キャロル・ストリックリンさん
「特に働いている世帯に影響がある。住宅整備のプロジェクトを続けられるか、とても心配している」

「ことし後半に景気後退入り」の観測も

今後の見通しについて、クリントン政権で経済政策を担ったサマーズ元財務長官は、次のように指摘しています。

サマーズ元財務長官
「インフレを抑え込むためには高い金利を続けざるをえない。ことしの後半に景気後退が始まる可能性が高い」

利上げは進めるが、景気への影響も考慮しないといけないという、FRBにとっては難しいかじ取りが続くことになりそうです。
(ワシントン支局 小田島拓也)
【2023年1月26日放送】
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