陸上養殖広がるビジネスの可能性 新たな雇用の場にも

エビや魚などの水産物を陸上の施設で飼育する「陸上養殖」は、天候に左右されず安定的に生産できることなどから新規参入が相次いでいます。

民間の調査会社の試算によると、陸上養殖に必要な設備の市場規模(国内)は2021年には90億円でしたが、30年には200億円規模と倍に増えると予測されています。水産資源の安定供給につながるか、陸上養殖の最前線を取材しました。

近海でとれなくなったアオノリを陸上養殖で

高知市内の料理店は、陸上養殖で育った海藻の一種「スジアオノリ」を使っています。香りがよく、地元の名産として観光客にも人気だといいます。

この店の板長は「香りも強くて品質もいいし、助かっている」と話します。

スジアオノリを育てる陸上養殖の施設

そのスジアオノリを育てているのが、高知市の沿岸にある陸上養殖の施設です。

スジアオノリは5日で5倍ほどの大きさに成長します。光合成で育つことから、密集しないよう大きくなるごとに水槽を移し替えていきます。

施設を運営する森田浩平さんによると、スジアオノリは初めは2ミリぐらいの大きさですが、5週間たつと長く成長するといいます。

最初は2ミリくらいのスジアオノリが…
5週間ほどで長く成長する

施設を立ち上げた高知県のスタートアップ企業「シーベジタブル」は、環境の変化などによってスジアオノリが近海でほとんどとれなくなったことから、陸上での養殖を始めました。

ほかにもさまざまな種類の海藻を収集して養殖ができないか、試行錯誤を続けています。

スタートアップ企業 共同代表 友廣裕一さん
「おいしいものを、ちゃんと安定して出していくことが大事だと思っている。食文化が途絶えそうになっているものを僕らの技術で残していきたい」

駐車場1台分のスペースで養殖ビジネス

手軽に陸上養殖ができる設備の開発も進んでいます。スタートアップ企業「ARK」は、駐車場1台分の広さで養殖ができるユニットを開発しました。

通信機能のあるカメラを搭載して水槽をモニタリングできるほか、エサやりは遠隔操作で行います。

カメラで水槽内をモニタリングする

この設備では今、高級魚のハタ類を試験的に育てています。ほかにもチョウザメやエビなどの養殖もできるということで、飲食店などから問い合わせが相次いでいるといいます。

スタートアップ企業 共同創業者 栗原洋介さん
「陸上養殖という産業がこれから大きくなっていくうえで、いろいろなバリエーションの必要性がでてくる。小型・分散型でやることがベンチャー企業としての強みだと思っている」

障害者の雇用につなげる取り組みも

このユニットを活用することで働く場をつくり出そうという動きもあります。障害者の就労を支援する事業所が22年12月、この設備を導入しました。

養殖事業を軌道に乗せ、水質の検査などで障害者の雇用につなげたいといいます。

福祉施設経営 三好征吾さん
「水産業でも障害者さんが携わることができる。仕事としてしっかり成り立つと思っている」

日本の水産業は漁獲量の減少が課題になっていて、漁獲量が減少する水産物や海外からの輸入に頼っている魚などを、陸上養殖の技術で安定的に供給できる可能性があります。

陸上養殖はコストの高さが課題ですが、小型化によって500万円ほどから導入できるユニットもあり、初期投資を抑えた取り組みも進んでいます。

農林水産省は環境への影響も調査しながら陸上養殖の取り組みを後押ししたいとしています。
【2023年1月23日放送】
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