重機もリモートワークで!?

人手不足や技術者の高齢化が課題の建設業界。解決策の一つとして、重機の遠隔操縦の技術開発が進められています。自宅や事務所からのリモートワークが可能になるほか、若い世代の取り込みにも一役買うのではないかと期待されています。

数百キロ離れた遠隔地の重機を操作

神戸の現場で動いている重機。操作しているのは…
東京の展示会場にいるオペレーター

神戸市で作業する重機を操縦している場所は、400キロ以上離れた東京・江東区の展示会場です。大手建設機械メーカー「コベルコ建機」が2022年12月、重機の遠隔操縦システムの提供を始めました。

東京でレバーを操作すると、専用の光回線と無線LANを通じて信号が送られ、神戸にある重機を動かします。

このシステムでは、映像だけでなく音や振動、傾きといった情報もほぼリアルタイムに東京の操縦席に送られて再現されます。予期せぬ岩にぶつかった場合なども、操縦者が分かるようになっているそうです。

重機の操縦歴が35年という男性は、遠隔操縦システムについて「感覚的には実際に重機に乗った感覚に近い。慣れれば実際の現場と同じような感覚でできると思う」と話しています。

特に役立つと考えられているのが、1人のオペレーターが1か所で複数の重機を操作できる機能です。

例えば、広島で土砂の積み込みを終えたら神戸で廃棄物の仕分けを行うなど、約5分で重機を切り替えることができます。

大手建設機械メーカー 山﨑洋一郎 ICT推進部長
「力量のあるオペレーターの方々に、いかにいろんな現場で力を発揮してもらうか。人口密集地である都市圏にリモートオペレーションセンターをつくって、そこから全国の仕事を回していく」

鉄スクラップのリサイクル事業を行う「産業振興株式会社」は、このシステムを開発段階から先行して導入しました。今後、台数を増やして全国の事業所に広げていくことで、労働環境の改善とともに若手の人材確保にもつなげたいとしています。

鉄スクラップのリサイクル事業を行う会社 河村圭造 生産技術部長

「私たちの現場は“危険源”が多く、行かずに済めばそれ以上の安全はない。採用と定着が大きな課題だが、若い人たちがこれを見て、俗な言い方だが『かっこいい』と思ってくれれば。例えばリゾート地などにオペレートセンターを置けば、お互いにハッピーかもしれない」

導入や人材の“垣根”を下げたい ベンチャーも始動

人手不足を背景に、遠隔操縦の技術開発は別の企業でも進んでいます。東京大学が出資するベンチャー企業「ARAV」が目指すのは“垣根の低さ”です。

まずは、遠隔操作を導入する時の垣根を下げること。重機のメーカーや年式を問わず、遠隔操縦の仕組みを後付けできるようにしました。30社以上で導入されているということです。

開発したベンチャー企業 中本武範 統括マネージャー
「大企業のみならず、中小企業のお客様にも導入していただきやすい費用感にしたい」

もう一つは“人材の垣根”を下げることです。22年10月には、このベンチャー企業がシステムを提供した遠隔操縦の競技会が東京で開かれ、重機の操縦が未経験の大学生なども参加しました。

遠隔操縦の競技会

操縦にはゲームなどで使われる「スティック」を使います。事前に何度か練習することで一定の操作ができるようになるということです。

競技会に参加した就職活動中の男性(25)は「直感で操作できる部分が多かったと思うので、ハードルがすごく下がって『自分でもできるかもしれない』という気持ちは強くなった」と話していました。

国がルールづくりなど議論

“自宅からベテランが現場をかけもちできる””建設業界を志す若手が増える”などの可能性が広がる一方で、私たちの身の回りで無人の重機が動くとなると、どうしても安全性が気になります。

今回紹介したシステムは、現在は廃棄物の集積場など限られた場所で、監視カメラや安全管理者を置くなどの対策を施した上で使われています。

今後は、街中の工事現場などさまざまな場所で利用が進むと考えられ、国土交通省では協議会をつくってルールづくりなどの議論を進めています。
【2023年1月11日放送】
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