肥料高騰対策のヒント 下水汚泥の活用や“耕畜連携”

日本の食料の供給や安全を守ろうとする全国各地の動きを取材するシリーズ「食料の未来を考える」。「おはBiz」での1回目のテーマは、農業に欠かせない「肥料」。ロシアによるウクライナ侵攻などで肥料価格が高騰する中、身近な資源を生かしてまかなおうという取り組みが広がっています。

下水の「汚泥」から肥料生産 神戸

神戸市西区でキャベツを生産している農家の山本正樹さんは、年間6トンの肥料を使っています。

キャベツ農家 山本正樹さん
「(肥料の)高騰で『やめたい』という人も話に聞く。(価格を)抑えられたら、僕らにはいちばん有効な肥料になると思う」

山本さんは神戸市などが生産している“ある肥料”を使うことで、価格高騰の影響を受けずに済んでいるといいます。

その肥料の主な原料は神戸市東灘区の下水処理場で作られています。

肥料が作られる下水処理場の施設

下水をきれいにする際に出る「汚泥」を発酵させたあと化学反応させ、さらに乾燥させて、肥料に必要な「リン」を回収しています。これをほかの栄養素と調合して肥料にします。

汚泥から回収された「リン」
ほかの栄養素と調合して肥料になる

この取り組みは10年ほど前から始められました。輸入肥料の高騰で価格の面でも遜色がなくなってきたということです。市は、肥料の生産量を増やし全国展開を目指す方針です。

神戸市 下水道部 寺岡宏 計画課長
「資源循環ということで非常に好評を得ている。需要が見込めるようであれば、ほかの処理場にも展開していきたい」

「耕畜連携」で肥料とエサ代を安く 山梨・北杜

山梨県のコメどころ・北杜市では、市が「耕畜連携」を進めています。コメを生産する農家と畜産農家とが、経営を助け合う取り組みです。

畜産農家は牛のふんや尿で作った「堆肥」をコメ農家に販売します。一方コメ農家は、刈り取った「稲わら」を、農協を窓口にして畜産農家に牛のエサとして販売します。

この堆肥と稲わらは、堆肥の購入時には一部で市の補助金が出ることもあって、輸入された肥料や牧草の半額ほどで取り引きされているといいます。

北杜市 農業振興課 浅川裕介さん
「地域で資源としてあるのに、手間だからとか大変だからということで利用されていなかった堆肥。そういったものを再注目することでこの危機を乗り越えていけたら」

肥料高騰に悩むコメ農家とエサ代の値上がりに苦しむ畜産農家。双方のメリットをねらうこの仕組みには現在、市内の農家で組織する農業団体4社と畜産農家約20人が参加しています。

参加した農家の一人
「ものが入ってきていない、そんなところにきて今こういう事業を展開したということで、非常にいいタイミング」

「お金出せば食料や生産資材を買える時代は終わった」

専門家は次のように指摘しています。

東京大学大学院 鈴木宣弘教授
「お金を出せば食料や生産資材が変える時代はもう終わった。新しい食料供給体制を考えることは喫緊の課題」

各地で行われている取り組みの中から有効な対策のヒントが見つかればと思います。
(神戸局 塘田捷人、甲府局 飯田章彦)
【2022年12月6日放送】
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