飼料高騰 放牧に注目!

ウクライナ情勢などの影響で、海外から輸入される飼料、エサの価格が高騰しています。廃業を考える畜産農家も出るほどです。

国内でいかに飼料をまかなうか。注目されているのが牛の放牧です。宮崎県のある畜産農家のもとに全国から見学者が相次いで訪れています。

配合飼料なし、エサ代0円

宮崎県北部の山あいの町、日之影町。朝9時、牛たちが標高250メートルの急斜面にひらかれた広大な牧草地に向かいます。ここの牧草をエサにしているのです。

繁殖農家の岩田篤徳さん(71)は、子牛を産む母牛21頭を育てています。15年前に輸入飼料に頼らない自給自足の畜産を目指したいと考え、配合飼料なしエサ代0円の放牧にたどり着きました。

岩田篤徳さん

繁殖農家 岩田篤徳さん
「(輸入飼料が)安い時は、ほかの人は『何をあんなことしてるんだろう』と思ったと思う。実際は輸入穀物で育てるというのは、やっぱり本来の姿じゃないと思う。こういうふうな国際的な紛争があったら、もう何というか“砂上の楼閣”ですもんね」

耕作放棄地を活用 費用を抑える

岩田さんが活用したのは耕作放棄地です。長い時間をかけ、みずから切り開きました。広さは東京ドーム2個分にもなりますが、使われていなかったため格安で借りることができて、費用は抑えられています。

9年前は木が茂っていた耕作放棄地(左) 岩田さんが切り開いた(右)

見学者が続々

岩田さん流の放牧は、かつては関心を持たれなかったといいます。しかし飼料価格の高騰が現実になった今、見学者が相次ぐようになっています。

見学者たち(奥)が相次いでいる

取材した日は約30人が訪れ、岩田さんは放牧について「牛によし、人によし、環境によし」と説明していました。

岩田さんのもとを訪れた一人で繁殖農家の甲斐耕一郎さん(57)は、エサにかかる費用が2021年に比べ約1.5倍に膨れ上がったといいます。

そこで自分の土地を使い、まずは数頭の規模から岩田さん流の放牧を始めようと考えています。甲斐さんは「これから先、自分の牛は自分でエサを作らないといけないと改めて感じた」と話しました。

国内でエサをまかなう方法 放牧以外には?

岩田さん流の放牧は、海外情勢に左右されるリスクが少なく、耕作放棄地も利用できる一方、土地をどう確保し整備するかという課題もあります。ただ岩田さんの取り組みには農林水産省も注目しています。放牧に補助制度を設けて推進しています。

また農林水産省は、国内でエサをまかなう方法として、放牧以外に「国産飼料の開発」や「エコフィード(食品ざんさ)」の活用を進めています。

このうち国産飼料で注目されているのが「青刈りとうもろこし」です。とうもろこしを実が熟す前に収穫することで、茎や葉も含めてまるごと飼料になります。

土地が狭い日本に向いていて、21年度は490万トン余り生産されています。

またエコフィードは、人間の食べ物を作る時に出る残り物・余り物のことです。残り物といっても、「とうふかす」や「しょうゆかす」、廃棄される野菜など量は膨大で、活用が欠かせないと考えられています。

専門家「お金出しても飼料を買えなくなるリスクも」

こうした動きについて、農業経済学が専門の広島大学大学院の長命洋佑准教授は次のように話しています。

広島大学大学院 長命洋佑准教授
「ほかの国でも輸入飼料の需要が高まっている。いくらお金を出しても買えなくなってしまうリスクもある。国内でまかなう仕組みづくりは今しかない」

持続可能な新たなかたちをどうつくっていくのか、岩田さんのような挑戦の価値がかつてなく高まっていると言えそうです。
(宮崎局 坂西俊太)
【2022年10月19日放送】
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