キリンホールディングスの磯崎功典社長。主力の「ビール事業」がコロナ禍もあって大きな影響を受ける中、いま取り組むのが、本業のてこ入れと「健康関連」の新規事業の育成を同時に進める“両利きの経営”です。その戦略を聞きました。
国内ビール市場は縮小傾向 クラフトビールでてこ入れ
まずは本業のビール事業について、先行きは楽観できないと見ています。
磯崎功典社長
「成熟したマーケットにおいてはビールというのはなかなか伸びなくなっている。これは世界中のビールメーカーのトップがたいへん頭を抱えている。どのようにしてこの苦しい低迷している中で乗り切っていこうかと」
ビール類の国内の市場規模は17年連続で減少傾向にあり、コロナ禍が追い打ちをかけています。
会社がいま注力しているのは味に特色があるクラフトビール事業です。「高くても飲みたい」という顧客層が潜在的に多いと見て、家庭にビールサーバーを置いて定額で購入してもらうサブスクリプションモデルなどを手がけています。
磯崎社長
「当然、人口の減少もあるでしょうし、消費者の方の価値観の大きな変化ということによって(ビール類の市場は)大きな減少が見られている。あの手この手でビールの楽しさをお客様に提案しなかったら、そっぽを向かれてしまう。もっともっとメーカーはビールの魅力・良さをお客様に伝えていかなければならない」
ヘルスサイエンスを柱の一つに ビールの“敵”を新規事業に応用
一方、新規事業として育成を図っているのが「ヘルスサイエンス領域」です。ビール事業で培った「発酵」技術を健康分野に応用しようという考えでした。
磯崎社長
「やはり原点に帰って発酵バイオテクノロジーで何かできないかということで、われわれの技術のことをもう一度棚卸し総点検して、これだったらいけるだろうと思ったのが、ヘルスサイエンス事業」
しかし当初は投資家などから反対の声もあったといいます。
「その時の(投資家からの)提案は『ビール事業だけに特化しろ』と。『医薬事業をやめる』『ヘルスサイエンスもやめる』ということ。ビール事業が永遠にずっと右肩(上がり)で伸び続けていくならばそれはいいだろうと。しかし、そうは思えない。必ず厳しい時代がくる。その時にでもこのグループが持続的な成長を果たすためにやらなきゃいけない」
中でも有望視しているのが、健康な人の免疫機能の維持をサポートする「プラズマ乳酸菌」です。
乳酸菌はビールを劣化させてしまう、いわば“敵”でしたが、研究し尽くしている敵だからこそ強みに転換できたといいます。本業の知見が生きた形です。
プラズマ乳酸菌の入った食品や飲料は機能性表示食品の認可を取得。将来的にはヘルスサイエンスを5000億円規模まで拡大させて、ビールなどと並ぶ柱の事業にしたい考えです。
磯崎社長
「やはり会社というのは、もともとのオリジナルのものであり続けられればそれは幸せかもしれないけれど、これだけ大きく社会が変わってくる、世の中が変わってくる、環境が変化していく中で変わり続けなければならない。社会が抱えている課題を自社の強みで解決する。それこそが、世の中の人から認められて、この会社が存在する意義があるということにつながってくると思う」
ビール業界ではほかにも、アサヒグループホールディングスが海外ビールメーカーなどの買収を進めているほか、サントリーホールディングスは飲料や健康食品の強化を図るなど、厳しい環境をどう生き抜くか模索を続けています。
磯崎社長は「いまは頭のかなりの部分を新規事業が占めている」と話していて、両利きの経営の今後が注目されます。
【2022年11月9日放送】
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