“スマートな田んぼ”で洪水対策

「田んぼ」にはもともと、雨水を一時的にためて洪水を抑える「ダム」のような働きがあります。これに最新の技術をプラスして治水の効果を高めることをねらった「スマート田んぼダム」という取り組みが始まっています。

スマホ操作で田んぼの「ダム」機能を強化

兵庫県たつの市では2021年から「スマート田んぼダム」という取り組みが実証的に進められています。

大雨が予想されると、市の職員が水門をスマホやパソコンで遠隔操作して、あらかじめ田んぼの水をすべて外に排水します。

水を出し切った田んぼは雨をより多くためることができるので、周辺の浸水被害を減らすことにつながると期待されています。「田んぼ」が「ダム」のような働きをするのです。

あらかじめ田んぼの水を排水し、大雨の時により多く水をためる

遠隔操作できる水門は、市が農家の協力を得て現在24か所に設置しています。

大雨の時に浸水面積が減少?

この取り組みでどれくらいの効果が期待できるのでしょうか。農林水産省が21年に新潟県で行ったシミュレーションの結果をみてみます。

24時間に約170ミリの大雨が降ったという想定では、スマート田んぼダムを導入しない場合、次の地図に色のついた場所で浸水が予想されました。

色のついたエリアで浸水が予想される

一方、スマート田んぼダムを導入した場合は、浸水する面積を3割程度減らせるとされています。

シミュレーションでは、スマート田んぼダム導入で浸水予想エリアが減少と予測

たつの市の場合、約9ヘクタールの田んぼを使って約9000トンの雨をためることができるということです。

たつの市 産業部農地整備課 山口賢三 課長
「田んぼは農地として保水効果があるので、それ以上の効果をもっと出して、河川の増水、例えば下流域の浸水がなくなる。それがいちばん大きい」

スマート田んぼダムは、農家側にもメリットがあるといいます。この取り組みに参加している農家の岸野昇さんは、これまで、水位や水温の調整といった田んぼの水の管理を、直接出向いて行ってきました。

その作業を今はスマホで行えることで、作業時間を短縮できるようになったということです。岸野さんは「基本的には何もしなくていい。水がどういう状態になっているか見に来る必要もない。スマホを見たらいい。農家にとっては非常にありがたい」と話します。

排水作業の自動化目指す

開発したメーカー「クボタケミックス」は今後さらに機能を向上させたいとしています。

開発したメーカー スマートアグリ推進課 齋藤英樹 課長
「現在は大雨の予報が出たら自治体の方が田んぼダムを作動、操作するという、ひと手間が入るが、これからは田んぼダムの作動を自動化していくことを目指している」

このスマート田んぼダムは、排水のタイミングを誤ったり一斉に排水してしまったりすると、かえって下流の水位を上げてしまいかねない点が課題です。

このため将来的には、こうした操作を雨の予測データと連動させて自動的に行うことが考えられているということです。
【2022年8月24日放送】

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