アメリカで対中関税の見直し論が浮上 なぜ?今後の行方は?

アメリカは、中国からの輸入品の6割以上に当たる約3700億ドル分に最大25%の関税を上乗せしています。

もともとはトランプ前政権時代の米中対立をきっかけに一方的な制裁措置として課したものですが、それがインフレの要因にもなっていることから、いま見直しの議論が巻き起こっています。

「関税上乗せ分だけでも負担をなくして」

アメリカ東部のデラウェア州にある衣料品店。店内にあるさまざまな衣類の約7割は、中国からの輸入品だといいます。

3年前に中国製の衣料品に高い関税が上乗せされたことで、商品を値上げせざるをえなくなりました。店のオーナーのトレイ・クラウスさんによると、例えば10年前に115ドルだったシャツは、制裁関税で148ドルに値上がりしました。

そして今、さらなる値上げを迫られています。世界的なインフレで原材料費や輸送コストが上昇し、仕入れ値が上がっているからです。

クラウスさんはせめて関税上乗せの分だけでも負担をなくしてほしいと訴えています。

トレイ・クラウスさん
「とてももどかしい。とにかく何とかしてほしいと求めている」

制裁関税を見直し? バイデン政権の思惑

こうした声に反応し、バイデン政権は関税を見直す可能性に言及しました。

バイデン大統領
「(関税引き下げを)検討している。この関税は前政権がやったことだ」

アメリカではモノの価格が記録的に上がっています。消費者物価の上昇率は5月に8.6%となり40年半ぶりの水準に拡大しました。

暮らしが厳しくなるほど大統領の支持率は落ち込み、6月19日には39.7%と、40%を切って就任以来最低の水準になりました。

街で話を聞いてみると、ある女性は「ガソリン代が負担。(満タンで)40ドルだったのが今は60ドル以上」と訴えました。またある男性は「すべての食品が値上がりしている。政府は何とかするべきだ。今すぐに」と話しました。

最大の輸入相手国である中国への制裁関税をなくせば、消費者物価の上昇率を最大1.3ポイント抑え込めるという分析もあり、バイデン政権にとって“わらをもつかむ思い”なのです。

「中国への圧力を失う」 “身内”からも反対意見

ところが、中国への“締めつけの後退”ともとれる関税見直しには、身内の民主党からも反対意見が出ています。

労働組合を支持基盤とする民主党議員は5月4日、連邦議会上院で「中国製品への関税を外していくなら、中国に態度を変えさせる圧力を失うことになる」と意見を述べました。

さらに貿易交渉を担当する閣僚であるタイ通商代表も、中国に改革を迫るための手段を失ってはならないとくぎを刺しています。

タイ通商代表
「バイデン政権にとって本当に重要なのは(中国と)どう対じしていくか。戦略的で慎重なアプローチをとることだ」

インフレ対策か、中国への対抗か

トランプ前政権は、価格の安い中国の輸入品からアメリカの製造業労働者の雇用を守るとして高い関税をかけました。それだけに、関税を引き下げればアメリカの労働者からも批判が出ることが予想されます。

また、バイデン大統領の与党・民主党は労働組合の支持を受けているので、制裁関税は「前政権がやったこと」とは言っても、みずからの意思で続けていたところもあります。

それが今、インフレ対策をとるか、対中強硬姿勢を続けて関税上乗せ措置を継続するか、2つの大きな難題のはざまで極めて難しい決断を迫られています。

バイデン大統領は7月にも、何らかの判断を示すとみられます。アメリカのインフレの行方は、中央銀行であるFRBの今後の政策金利の引き上げ幅や、それに伴う円安の行方にもつながってきます。どのような判断が下されるのか注目されます。
(ワシントン支局 記者 吉武洋輔)
【2022年6月30日放送】

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