2022年11月09日
(聞き手:梶原龍 黒田光太郎 芹川美侑)
物語に没入する体験が人気を集める「リアル脱出ゲーム」。生みの親の加藤隆生さんですが、実は20代の大半は仕事をせず実家で過ごしていました。30歳になる目前で焦って動き出した途端にやりたいことが見えてきて、いまのビジネスにたどり着いたといいます。その経緯、詳しく聞きました。
新卒でリアル脱出ゲームの会社を立ち上げたんですか?
いや、僕、ニートだったんですよね。長いこと。
SCRAP代表 加藤隆生さん
リアル脱出ゲームを企画運営するSCRAPの代表。自身のバンドの宣伝イベントで始めたが、まるで物語の中に入り込むような体験が人気を集め、現在までに940万人を動員するエンターテインメントに成長。アメリカやヨーロッパなど海外へも進出。加藤さんは代表として、SCRAPの名のもとに世の中に出ているすべての企画の監修を行っている。
もともと音楽が好きでミュージシャンになりたかったんですけど、親に「一回は就職して欲しい」って言われたので新卒で印刷会社に就職しました。
でも、その会社は1年半ぐらいで辞めてしまいました。
どうして印刷会社を退職されたんですか。
印刷会社の営業という仕事と自分が一致しなかったんですよね。足しげく通って断られることに慣れてなくて、どんどん疲れていっちゃったんです。
ミュージシャンになりたいっていう気持ちもあったので、会社はいいかってすっぱり辞められました。
会社を辞めたあとはどうされていたんですか。
6年間実家でゴロゴロしていました。ニートで引きこもりでお母さんが晩ご飯作ってくれていました。
ただ28か29歳の時に、係長になったとか子どもができた友達が現れ始めたので、わりと強めの焦りがあったんですよね。
30歳を目前にして怖くなって、一念発起して29歳の時にやっとちゃんとしたバンドを作ったんです。30歳の時にはメジャーデビューしました。
すごいです!
でも、全然CDが売れなくて、4、5年で辞めちゃうんだけど…。
ニートからミュージシャンになって、どうやってリアル脱出ゲームにたどりついたんですか。
自分たちのバンドの宣伝のためにフリーペーパーを作ってイベントも企画していたんです。
【加藤さんが企画したイベント】
人気イベントの1つだった「乙女チックポエムナイト」。参加者が自作のポエムを読み、お客さんがどのポエムがより乙女チックだったかを判断する。
ある日イベントの企画会議でスタッフの1人がオンラインゲームの脱出ゲームで徹夜しちゃいましたって言ったんです。
じゃあそれ、イベントでリアルでやろうかって。
それが人気になって、もっと作れもっと作れって世の中に言われたから、請われるがままに作っていったら、こうなりました。
最初に作ったリアル脱出ゲームはどんなものだったんですか。
最初は謎解きとカレーとパズルの宴、みたいなコンセプトで、地元の京都で開催しました。
パズル博物館みたいなところから面白そうなパズル10個くらい持ってきて、僕のおばさんにカレーを作りに来てもらって。
そこに脱出ゲームもついていますみたいなイベントでした。
それがビジネスにつながったんですね。
ビジネスのつもりで作った訳じゃないんだけど、作れば信じられないほどお金が入ってきたから、これってビジネスなんだと思いました。
なのでフリーペーパーを一緒につくっていたボランティアスタッフに「会社作るけど入りたい人いる?」って聞いて。
そこで入ってくれた5,6人がいまの会社SCRAPの最初のメンバーです。
経営者として今までで一番大きな決断は何でしたか。
新宿にある謎解きのテーマパークを作る時は何億っていう借金をしなくてはいけなかったので、これまで築き上げてきたもの全部失うかもしれない怖さはありました。
どうして踏み込めたんですか。
謎解きのテーマパークがある世界とない世界なら、それはあった方が良いだろって思ったんです。
ないものを作ろうっていう思いがあったんですね。
そうです。ただ思いつかれていないだけで、今世の中にあるものよりも、ないものの方が多いと思うんです。
ないものの方が多いから、それを何か1つでもたくさん、世の中にあらしめたいっていうのが、僕が一番やりたいことかもしれないですね。
ミュージシャンもリアル脱出ゲームも、やりたいことを言葉や形にされてきた結果なのかなと思いました。
仕事や就活もやりたいことを言葉や形にしていく作業かなと思うのですが、何かコツはありますか。
僕は多分そんなにアドバイスできないかもしれません。やりたいことが体の中から浮かんでくるまで待ったタイプの人間で、それはとてつもなく恵まれていたと思うんです。
6年間ニートをしていた経験は今になにもつながっていないけど、あるタイミングで自然と体が動いて、やりたいことも見えてきたみたいなところがあって。
だから小さくていいから今までやったことがないことをやるために行動を起こせば、行動がやりたい事を連れてくると思うんです。
行動が?
例えば、今まで手に取ったことがない本を手に取ってみるとか、行ったことがない場所に行ってみるとか。
あるのは知っているけど触れたことがないものは多分いっぱいあると思います。それに1個1個応えていくことが大事だと思います。
例えば、僕らの会社を受けに来る人の中には、リアル脱出ゲーム大好きで200本行きましたっていう人もいるんですけど、それだけだと受からないんですよね。
どうしてですか。
リアル脱出ゲームを発展させていくために必要なことは、リアル脱出ゲーム以外にもたくさんあるんです。
その「その他」のことがぱっと言語化できる人っていうのは、ものすごくいろんなところからたくさんのことをインプットしていると思うんです。
それが必要なんです。
たくさんのことをインプットするためには、どこから手を付けていけばいいでしょうか。
やりたい事を見つけるっていうのは、好きになれるものを見つけることだと思うので、まずは好きなエンターテインメントから始めたらいいと思います。
例えば、アニメが好きなら、アニメの中に出てきたちょっとした事象について調べるとか、好きな脚本家さんの別の作品を見るとか。
好きになれるかもしれないものをたくさん増やして、好きになるための行動を起こすと、その行動がやりたいことを連れてくると思うんですね。
好きなものをきっかけに、さらに好きなものを増やしていくんですね。
ただ、好きなYouTuberがいて、その人の動画を見終わってまた別の人の動画が流れたから、好きなYouTuberが増える、ではだめです。
なぜならそれは与えられていて、自分で探していないから。探すっていうプロセスを通して1個自分の中の経験値が上がるんですよね。
だから獲得するために行動しなくちゃいけなくって、その行動が経験になっていくと思います。
やりたいことを見つける前にまずは行動を起こしていく。
きれい事の部分もあると思うんです。それで自分たちの就職がうまくいきますかって聞かれるといやそれは分からんごめんっていう。
(笑)
僕が新卒の方によく話すのは、みんなには絶対に才能があるってことです。
才能ですか?
これもきれい事に聞こえると思うんですけど、みんな「これが自分の才能だ」って気が付いてないんじゃないかなと思ってて。
要は、無理なく長い時間できることってもう全部才能だと思うんです。
4日間連続でずっとソーシャルゲームできたらそいつ結構すごい。無課金なんだけど国内で18位なんです、みたいな人がいたら、話聞いてみたい。
確かに!
そういう意味では、僕は多分、行動する才能があったんだと思います。
思いついたことを何で形にできたんですかって聞かれても分かんないですよ。しないっていう発想がなかったからとしか言いようがなくて。
クラスで1番になれること、学年で1番になれるぐらいのことが必ずあると思うので、それをまず見つけることだと思います。
そのためには行動していく必要がある。
そうです。自分の中から湧き起こってくる、本能的にこういうことしてみたいなとか、こういう人と会いたいなとか。
もしこうだったらうれしいのになとか、そういうことを考え続ける。
こんなゲームがあったらやりたいなって思って、万が一そのゲームがこの世になかったら大金持ちになれるかもしれないですからね。
最後に就活生へのメッセージをお願いします。
就活で人生が決まると考えている学生さんも多いと思うんですけど、決まらない人もたくさんいますよ、ということだけ伝えたいです。
就活は人生を決める一大事の1つではあると思いますけど、しなやかに転職していく人も多いですよね。
はい。
もちろん僕だってこの仕事をしながら音楽だってまだやっています。
好きなこと、やりたいことは、今1個見つけたとして、一生そのスローガンを掲げてやっていくわけじゃなくて、毎日毎日どんどん増えていきます。
その時に一番やりたい場所に行けばいいし、一番面白い人のそばにいればいいし、自分の中から聞こえてくる一番大きい声に従えばいい。
やりたいことをやっていけばいいってことですね。
話をまとめるなら、就職活動は人生の大きなイベントではあるけど、クリスマスぐらい、お正月ぐらいの重要さ、という気持ちでいる方が、結果うまくいくんじゃないかと思います。
自分の人生について考える超重要なチャンスでもあると思うから、当然一所懸命、やれる範囲のことをやればいいと思う。
ただそれで一生が決まるほどの一大事じゃないぞ、とだけ、お伝えしておきますね。
はい。ありがとうございます。
撮影:幕内琴海 編集:谷口碧
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