2022年11月04日
(聞き手:梶原龍 黒田光太郎 芹川美侑)
FBIの捜査官になって犯人を追い詰めたり、時空を超えてタイムリープして不良と戦ったり…。そんな物語の登場人物になるような体験ができる謎解きイベントが人気を集めています。
参加した人たちは時には大きな拍手で互いをたたえ合い、時には頭を抱えて本気で悔しがることも。イベントを世に広めた加藤隆生さんに人をひきつける企画の秘けつを聞きました。
学生
黒田
そもそもリアル脱出ゲームって何ですか。
色んな場所に人を閉じ込めて、制限時間内に仲間と協力して全ての謎が解けたらここから脱出できますという、体験型の謎解きゲームイベントです。
SCRAP代表
加藤隆生さん
一番の特徴は物語の中に入る体験ができるっていうことかなと思います。
【加藤隆生さんプロフィール】
リアル脱出ゲームを企画運営するSCRAPの代表。遊園地や列車、刑務所など様々な場所やシチュエーションを舞台に、制限時間内に謎を解いて脱出する体験型のイベントを、現在までに940万人を動員するエンターテインメントに成長させた。アメリカやヨーロッパなど海外へも進出。すべての企画の監修を行っている。
どうして作ろうと思ったんですか。
僕自身が物語の中に入りたいと子どものころから思っていたんです。
家にドラえもんが来るとか、空から女の子が降ってくるとか、そういうことが実際に起こるといいなって。
リアル脱出ゲームを思いついた時に、これは物語を体験できる場所だと思いました。
アナログな場所で人と物語を共有することが面白いとこなのかなと思います。
実際に体験して、日常では体験できないハラハラ感を味わいました。
学生
梶原
物語に没入してもらうために、どんな工夫をされているんですか。
重要なのは「分かりやすさ」ですね。
例えば、2億年後の話とか世界は6次元になっているとか、複雑なルールがあると難しいですよね。
難しいです。
必要とされているものをシンプルに自然に配置するということが、没入感があるゲームを作るために一番重要な点だと思います。
僕たちはアニメや漫画とコラボすることも多いんですけど、例えばルパン三世とコラボするとなったら、「盗む」っていうキーワードは外せない。
学生
芹川
それがルパンの世界ですね。
であれば、ルパンと協力して盗むか、盗むのはルパンがやるから参加者は暗号を解く手伝いをするとか、シンプルな設定にします。
設定を追加しなくても、原作に寄り添えば物語に没入できます。没入するのはすごく重要なことだと思うし、一番お客さんに感じてもらいたいことです。
リアル脱出ゲームの魅力の1つは謎解きだと思うんですけど、どうやって考えているんですか?
毎日これは謎にならないかなと思いながら色んなものを見ています。
例えばお弁当を食べているときには、このお弁当の形とまったく同じ形の箱が別にあってその表面には字が埋め尽くされていたらおもしろいな、とか。
「唐揚げを読め」っていう謎があって、本物のお弁当に入っている唐揚げにはもちろん何も書いてないけど、もうひとつの箱の唐揚げと同じ位置の文字を読めばなにか意味が通じるとか。
この机の木目っていかせるのかな、とかを日々考えながら生活していると、謎はいくらでも作れるようになります。
正直、気が休まらなさそうです…。大変じゃないですか。
そうなってから20年くらい経つので大変というよりも面白いですよ。
謎解きを作る上で一番大事にしていることは何ですか?
謎を解けなかった人が答えを聞いた時に納得するかどうかです。
解けた人は喜んでいるので良いんですよ。解けなかった人が答えを聞いて、そんなの分かる訳ないじゃんって思ったら負けです。
負けなんですか?
お金をもらって遊んでもらうビジネスであって、打ち負かすためにやっているわけではないので、楽しんでもらえる謎を作らないといけないと思っています。
謎の難しさの調整って、どうされているんですか。
前回こういう謎を出したときにこのくらいの正解率だったとか、全部データベース化しているんですが、難易度は経験をもとに調整しています。
私はシンプルに難しいなって思いました。
脱出成功率は以前は10%とかでした。ほとんどは失敗しますね。最近はみなさんの謎解き力が上がってきていて、成功率は20%くらいです。
成功率2割は低い気がするのですが…。
一番盛り上がるのがその比率だったんですよ。「謎を解ける人がすごい」の方がどうもいいみたいです。
謎解きは本来の頭の良さというよりは、運もあるしチームワークもある。
解けた人がすごい、解けなかった人は普通という状況が、みんなが気兼ねなく遊べる比率だと思っています。
年間でいくつくらいの企画を実現させているんですか?
月に3本くらいです。ただ、企画書の段階で落ちるものは10倍くらいあります。
クリエイター30人くらいでアイデアを出す合宿みたいなものがあって、それこそ何十という数の企画を出してそこから実現するものが決まっていきます。
企画を考えていく上で大事にしていることはありますか。
「面白そう」かどうかを考えることです。
面白そう?
「面白い」と「面白そう」があったら、「面白そう」の方が偉いと思っているんです。
端的に言うと僕らのビジネスって、チラシ1枚で3000円払ってもらうというビジネスなんですよね。
遊んでみて面白かったからお金を払うんじゃなくて、「面白そう」にお金を払ってもらっているので、面白そうの方が偉いんです。
具体的にはどういうことですか。
例えば、『ある会議室からの脱出』より『沈みゆく潜水艦からの脱出』の設定の方が面白そうじゃないですか?
謎を解いて暗号を入力して脱出するっていう、やることは一緒だけど、会議室だと「はい解けた、おめでとうございます」で終わってしまいますが、潜水艦だと「生き残りました」って言える。
ただ、昨日面白そうなことが今日面白そうじゃないこともあるので、一人一人が感性を研ぎ澄ませながら、重要なものを見逃さないようにしていくことが大事だと思います。
数多くの企画を世の中に出されていますが、失敗することって怖くないんですか。
意味のある失敗であればいいんです。
例えば、3歳児向けの謎解きが今までこの世界にないとして、まずはやってみたほうがいいんですよね。
その結果、想定ほどの売り上げがなかったら、「3歳児向けの謎解きは需要がない」ということを知っている世界で唯一の会社になれるんですよ。
なるほど!
でも、お客さんにつまらないと思われたら嫌だな、とかって思いませんか。
失敗するかもしれないからやらないってなったら、なにもやれなくなってしまいます。
作ったものを世に出して後悔することはないですが、もちろん、評判が悪かった時に悪いところを分析してよりよくするためにどうすればいいのかは考えます。
でも、それも出さないと分からないから、とにかくいっぱい出します。
そのときは全力で作るので、評判は次のものを作る時に生かせばいいかなと思います。
対面の接触ができないコロナ禍をどう乗り越えたんですか。
まだ乗り越えられてはないと思いますが、オンラインリアル脱出ゲームっていう、矛盾に満ちたタイトルの企画をたくさん作りました。
リアルで体験してもらっていた興奮とか感情をどうやったらオンラインで体験してもらえるのかということを一から考えて、配信しています。
どんな工夫をされたんですか。
やはり物語の中に入るという体験が重要なんです。
でも、参加者はパソコンの前に座っていて画面の中に主人公がいるという状況だったら、ただのテレビゲームで参加者は物語に入れないじゃないですか。
物語の登場人物にはなれないですね…。
画面をのぞき込んでいる参加者が主人公であるという状況を作らないとリアル脱出ゲームオンラインにはなれないんですよ。
だから、例えば、あなたは超高級ホテルの警備員で、今いるのは警備室。画面上にいろんな部屋が映っているので、怪しい人物を見つけたら通報してくださいという設定にする。
これだったら、画面をのぞき込むっていうことが物語体験になっていますよね。
なっています!
コロナは逆境だったけどその中で作れる一番面白いものは何だろうということを考え続けることが、逆境を乗り越える唯一の方法かなと思います。
例えば、オンラインリアル脱出ゲームの1つは、パソコンを開くとテレビ会議の画面みたいになっていて、9人の村人たちがしゃべりかけてくるんです。
画面を見ながら誰が犯人なのかを当てるゲームなんですけど、これは逆にコロナ禍じゃないと作れなかったと思うんですよね。
その発想はどこから生まれるんですか。
退屈力っていうのがあると思っています。「はあ退屈」って思った時に、絶好のチャンスが訪れているというか。
退屈なら、今何があったら面白いかってことを考える。今ないものについて考えて、それが面白ければ、形にすることで新しいエンターテインメントになりますよね。
深いです。
今後の展望はありますか。
うちは「ビジョンを持たない」というのが社訓としてあります。将来こうなりたいから頑張るんじゃなくて、そんなことよりも、今できる一番面白い事を思いつけと。
ビルを作ったりする仕事じゃないから、5年後にこんな事ができたらいいな、なんて考えてもしょうがない。
だから、今できる一番面白いことを、今すぐやる。一番面白いことを毎日毎日やり続けていれば、どんどん面白くなっていくだろうと考えています。
最後に、加藤さんにとって、仕事とは何ですか。
日々の生活です。
さっきも言ったけど、この模様見たら、ここに謎作れるな、とか、あらゆるところにヒントがあって。
日々の生活の中から、少しでもたくさんのヒントをもらう、つまり、日々の生活をきちんと行うことが僕の仕事だと思っています。
ありがとうございました。
多くの人が夢中になるエンターテインメントを生み出し続ける加藤さんですが、20代のころは新卒で入社した会社を1年半ほどで退職。その後はおよそ6年間ニート生活を送っていたといいます。どうやって今のビジネスにたどりついたのか、後編で詳しくお聞きします。
撮影:幕内琴海 編集:谷口碧
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