目指せ!時事問題マスター

1からわかる!台湾(1)台湾と中国の関係は?

2023年05月17日
(聞き手:佐藤巴南 正木魅優)

  • お問い合わせ

「中国軍が台湾の周辺で軍事演習を行った」とか台湾に関するニュースを見聞きするけれど、そもそも台湾と中国ってどういう関係なんだっけ…?

 

国際ニュースを理解する上で知っておきたい台湾の成り立ちと基礎知識を、台北支局の逵 健雄支局長に1から聞きました。

台湾と中国、どういう関係?

学生
佐藤

あらためて、台湾と中国の関係について教えてください。

中国は、台湾を「中国の一部だ」と主張しています。


支局長

しかし、中国の一部だと思っている台湾の人はほとんどいませんし、台湾のいまの政府も「台湾は中国と関係ありません」という立場です。

中国政府から見ると、「何だ、お前たちは」っていうことになっています。

逵 健雄(つじ たけお)台北支局長は2005年から2008年までと2020年から現在の2回、台湾に駐在。北京の中国総局にも駐在経験がある。

2回目の台湾駐在では、台湾有事に備える軍や民間の動きを取材することが増えています。

そもそも台湾って国…?ですか…?

台湾の人たちは、自分たちは国だといっています。正式な国名は中華民国といいます。

面積は、3万6000平方キロメートルで九州よりやや小さいくらい。人口は、およそ2,331万人(2023年2月時点)です。

台湾には総統府や行政院と呼ばれる政府機関があり、独自の通貨も、税金制度もあります。

また、中国とは違って、直接選挙で総統を選出する民主主義です。

パスポートも中国とは別にあって、日本から留学に行くとなったら台湾のビザが必要です。

台湾のパスポート(左)と中国のパスポート(右)

学生
正木

そんなに独自の制度が整っているんですね。

それでも、世界で台湾のことを国だと認めているのは13か国しかありませんし、日本も台湾のことを国だと認めていません。

どうしてですか?

中国が2つ???

それを説明するためにちょっと歴史を振り返ってみたいと思います。

台湾は昔、17世紀に中国大陸を統治していた「清」の支配下にありました。

その後、1895年に日清戦争で日本が勝ったことで、日本の植民地になりました。

2023年3月に台北の逵支局長にオンラインで取材しました

歴史の授業で聞いたことがあります。

台湾を日本が統治している間に、中国大陸では清が倒れて「中華民国」が建国されました。

そして、日本が太平洋戦争に敗れたあと、この中華民国が台湾の管轄権を行使するようになります。

このとき、中華民国を率いていたのが、国民党の蒋介石です。

戦後、中国大陸では、国民党共産党が主導権を争うことになり、共産党を率いていた毛沢東が勝って、中国大陸に「中華人民共和国」を作りました。

それがいまの中国です。

このとき負けた蒋介石率いる国民党は、台湾に逃げ込みました。1949年のことです。

これについて、中華人民共和国の主張は「中華民国はわれわれが倒した」というものです。

一方、台湾に逃げた中華民国の蒋介石は、「正統な政府はわれわれであり、やがて大陸を取り戻す」と。

「自分たちが正統な中国だ」という政権が2つ、存在するようになったんです。

そうなんですね。

その後、中華人民共和国は「自分たちが中国の正統な唯一の合法的な政府です」という主張を続け、世界のいろんな国と外交関係を結びましょうとアピールしていきました。

そして、中華人民共和国と関係を持つ国がだんだん増えていったんです。

日本が台湾を国として認めていないワケ

日本もそれまでは中華民国と外交関係を持っていたんですけども、1972年に、中華人民共和国と国交を正常化することになりました。

日中共同声明の調印式で文書を交換する田中角栄首相(左)と中国の周恩来首相(右)(1972年9月)

中華人民共和国は、外交関係を結ぶときに必ず「中国を代表している唯一の合法的な正統な政府はうちです。だから中華民国を名乗っている当局とは、関係を切ってください」と要求するんです。

日本も、1972年に国交正常化する時に、「分かりました」ということになりました。

えぇ。

ただ、日本は、中華人民共和国の「台湾は中国の一部」という主張は丸のみせずに、言っていることを「尊重します」という言い方をしました。

だから、台湾と政治・外交関係は断つけれど、全くつきあいをやめるわけでもなかったですし、台湾が中国の一部かどうかということも完全に中国の主張を認めたわけではないんです。

アメリカも同じような対応をしていて、これが、最近の米中対立や台湾海峡の緊張につながっている原因のひとつです。

なぜ多くの国が、中華人民共和国が正統な中国だと主張したときに、それを認めたのですか?

「中華人民共和国が中国」という国際的な見方が広がったのは、1971年に国連(国際連合)で、中国の代表権は中華人民共和国が持つと決まったことがきっかけです。

国際連合の本部

その前から、中華人民共和国は自分も貧しかったのに、アフリカで独立した国々を積極的に援助して味方を増やし、西側諸国にも接近して、1970年にはカナダやイタリアなどと外交関係を結んでいました。

でも、やはり国連で認められたことは大きなインパクトがありました。

1945年に国連ができたとき、初めから議席を持っていたのは中華民国で、安全保障理事会の常任理事国も務めていました。

常任理事国だったんですか。

はい、中華民国は国連の創立メンバーでした。

中華人民共和国は、1949年に成立した直後から「うちが中国の代表です」と世界で訴え続けました。

そして1971年に国連総会で「中華人民共和国を中国の代表とし、蒋介石の代表を国連から追放する」という決議が多数決で決まりました。

蒋介石側は、自分たちのほうが正統な中国だという考えを持っていたので、「反乱軍の共産党の中国とは両立できない」と、国連が多数決をとる前に自分から出て行ったんです。

出て行ってしまったんですね…。

実はこのとき、アメリカや日本は、蒋介石に全中国を代表しなくとも別の形で残ればいいと勧めたと言います。

この時、彼に違う判断があれば、台湾はいまとは違う状況になっていたかもしれません。

“中華民国”と“台湾”

中華民国という呼び方は、最近は台湾でもあまりしないのでしょうか?

中華民国が正式な国名ですけれども、蒋介石が台湾に逃げ込んでからすでに70年以上たっています。

台湾で生まれて大陸の中国とはあまり関係がない人たちが増えてきました。

中国とは別という意味で、あちらは中国、こちらは台湾と呼んだ方が分かりやすいという意識を持っている人も多いと思います。

いっそのこと自分たちの呼び名を「台湾」に変えようという動きはあるのでしょうか?

そういうふうにしようという人たちは少なくありません。そうしたらわかりやすいですし。

でも、中華人民共和国が絶対に反対します。

なぜなら中華人民共和国の人たちは台湾を自分たちの一部だと思ってますから、独立するとか、名前を台湾に変えるとかっていうのは断じて許せないんです。

ほかの国に後押ししてもらったりはできないんですか?

それはなかなか簡単にはいきません。

日本も含め各国は経済的にも中国とのつながりがあり、中国の主張をむげにはできない状態です。

そうなんですね。

国連に台湾の名前で加盟することを模索した陳水扁総統

実際、2008年に当時の台湾の陳水扁総統が「国連に台湾の名前で加盟することに賛成か反対か」という住民投票をする前に、アメリカや日本が「中国と戦争になるかもしれないでしょ。そんなことしないでよ」と働きかけたこともありました。

そんなことが…。

独立や国名変更については、「そうしたい」と思ってる人はいっぱいいるけれど、なかなかそう簡単にいかないということになります。

中華人民共和国から圧力をかけられていたりするんですか?

そうですね。陳総統を「台湾独立派」と見て警戒した中国は2005年、「反国家分裂法」を作りました。

反国家分裂法?

「反国家分裂法」

「台湾独立の分裂活動を抑え、国家の平和統一を実現する」ための中国の国内法。2005年3月に全人代会議で正式に採択された。

中国から見れば台湾も中国の一部ですから、台湾が独立するとか、国連に台湾の名前で入るというのは国を分裂させる動きになり、それを止める法律です。

その中には独立を宣言するなどした場合、「平和的でない手段をとる」と書いてあります。

どんな手段か、具体的には言っていませんが、武力行使も含まれるはずです。

わぁそうなんですか。怖いですね。

台湾の人たちは、そもそも「中華人民共和国」に支配されたことは一度もないわけですが、当然戦争になるのはいやですから、中国から距離を置きたいという思いがあったとしても、言いにくいというのはあると思います。

台湾の定期的な世論調査では、「あなたは自分のことを何人だと思いますか?」という質問があります。

選択肢は、「私は台湾人だ」「私は中国人だ」「私は台湾人かつ中国人だ」です。下の表が直近3年間の調査の結果です。

この「台湾人かつ中国人でもある」の中国は何を指すのかというと、中華民国だと思います。

中華人民共和国のほうではなく?

はい。30%の大半が「台湾人でもあり、中華民国人でもある」という意図で答えていると思います。

ただ「自分は台湾人です」と答えると、独立したいと考えているように取られかねない。

中国を怒らせないように「台湾人でもあるし中国人でもあります」と言っておくと。どっちにも取れるようにと考えて答えている人もいるんじゃないか、という見方もあります。

アイデンティティーについての世論調査の結果や近現代の歴史から、台湾と中国の複雑な関係性が見えてきました。

次回は、台湾と中国、アメリカの3者の関係についてわかりやすく解説します。

編集:岡野宏美

あわせてごらんください

時事問題がわかる!

目指せ!時事問題マスター 1からわかる!台湾(2)なぜ台湾をめぐって米中が対立するの?

2023年05月24日

時事問題がわかる!

目指せ!時事問題マスター 1からわかる!台湾(3)台湾有事って?今後はどうなる?

2023年06月07日

時事問題がわかる!

目指せ!時事問題マスター 1からわかる!中国「一帯一路」ってなに?【上】改訂版

2022年08月30日

時事問題がわかる!

目指せ!時事問題マスター 1からわかる!中国「一帯一路」【中】改訂版 起爆剤か?債務のワナか?

2022年09月06日

時事問題がわかる!

目指せ!時事問題マスター 1からわかる!中国「一帯一路」【下】構想が変容!?米中対立の根源に? 改訂版

2022年09月13日

時事問題がわかる!

目指せ!時事問題マスター 1からわかる!香港の混乱【改訂版・前編】なぜ、デモは激減したの?

2020年09月18日

時事問題がわかる!

目指せ!時事問題マスター 1からわかる!香港の混乱【改訂版・後編】中国VS.「ファイブ・アイズ」

2020年10月07日

時事問題がわかる!

目指せ!時事問題マスター 1からわかる!ミャンマー(1)なぜクーデターが起きたの?

2021年05月28日

時事問題がわかる!

目指せ!時事問題マスター 1からわかる!ミャンマー(2)軍が政治にこだわる理由は?

2021年06月01日

時事問題がわかる!

目指せ!時事問題マスター 1からわかる!ミャンマー(3)今後どうなる?

2021年06月03日

詳しく知りたいテーマを募集

詳しく知りたいテーマを募集

面接・試験対策に役立つ時事問題マスター