目指せ!時事問題マスター

1からわかる!ミャンマー(3)今後どうなる?

2021年06月03日
(聞き手:白賀エチエンヌ 小野口愛梨)

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クーデター後、市民と軍の対立が激しくなる一方のミャンマー。国際社会は、どう動こうとしているのか。日本は、どんな手を打とうとしているのか。長年、ミャンマー情勢を取材してきた藤下解説委員にわかりやすく教えてもらいました!

中国はどう出る?

学生
白賀

ミャンマーの現状に対して、国際社会がどう対応しようとしているのかが気になります。

学生
小野口

中国がミャンマー軍をバックアップして、欧米は、アウン・サン・スー・チーさんをバックアップしている。

そんな二極化した構図かなって思ったんですけど、実際どうですか?

藤下解説委員は、1994年に軍事政権時代のミャンマーを訪れて以降、たびたび現地を取材。タイ、カンボジア、インドネシア、インドでも勤務するなど、アジア地域での取材経験が豊富。

昔の軍事政権時代は、二極化していました。

解説委員
藤下

各国がどんどん支援をやめて、ミャンマーが国際的に孤立していくなか、中国がミャンマーにテコ入れをして軍事政権を支えていました。

ただ今回は、必ずしも中国は、軍を支援しているわけではないです。

そうなんですね。

スー・チーさんと中国の習近平国家主席(2017年)

もともと中国は、スー・チーさんとも、すごく良い関係を築いてきました。

どうしてですか?

中国にとって、非常に戦略的な位置にミャンマーがあるからです。

中東からの石油などを船で中国に運ぶには、マラッカ海峡を通って南シナ海に抜けないといけません。

しかし、中国と国境を接しているミャンマーからの陸路を使えば、マラッカ海峡を通らなくても中国に行けるんです。

なるほど。

中国はミャンマーに石油とガスのパイプラインをひいて、中国の内陸部に送る仕組みをつくりました。

パイプラインはすでに動いているので、中国にとってミャンマーは本当に重要なんです。

パイプラインが止まったら、中国は大変ですよね。

中国は、いまの混乱が早く収まってほしいと思っているはずです。

だからといって、どちらか一方を支援するわけではなく「とにかく当事者の間で平和的に解決してほしい」として、基本的には静観する姿勢です。

単純に二極化している話でもないってことですね。

実際は複雑ですね。昔の構図とは、変わってきています。

ただ、事態が全然動かなければ、当然、欧米はいま行っている経済制裁を強めてくるでしょう。

日本もG7の一員ですので、欧米と歩調を合わせるとなると、欧米や日本がいなくなった隙間に中国が入ってくることはあり得ると思います。

変化した欧米の経済制裁

ちなみに、欧米諸国が行っている制裁は、どういうものですか?

軍をターゲットにした制裁です。たとえば、軍が関係する企業の資産凍結です。

資料:ミャンマー軍(2021年3月)

軍が関係する企業?

軍系企業って呼んでいるんですけど、国営企業のなかで軍が持っているものです。

軍系企業は、子会社も入れると、ほぼすべての業種をカバーしています。

民政移管の果実として、軍もビジネスを通じてお金を儲けられるようになっているんです。

なるほど。

かつて欧米諸国は、ミャンマーを国際経済から閉め出すほどの制裁をやっていましたが、影響を受けたのは国民で、軍はさほど影響を受けなかったと言われています。

それだと制裁の意味がないですよね。

そこで、いまは慎重に対象を絞った制裁をやっているわけです。

なるべく市民を困らせない制裁ですね。今後、制裁を強める可能性はありますか?

あると思います。制裁そのものが目的ではなく、ミャンマー軍の姿勢を変えさせることが目的です。

例えば、スー・チーさんを解放させるとか、民主化を求める人たちとの対話に乗り出させるための制裁です。

だから軍の出方を見ながら、少しずつ制裁を強めていくと思います。

事態打開の道は?

中国は静観、欧米は経済制裁と対応が分かれていますが、これで、事態は改善に向かうのでしょうか?

残念ながら、いまのところ全く効果をあげていません。

中国やロシアは、内政不干渉の原則を盾に、経済制裁に反対していて、国際社会は一枚岩になれない状況が続いています。

国連安保理 議場

国連でなんとかできないんですか?

国際社会のシステムとしては、国連の安全保障理事会の決議があれば、ミャンマーに軍事介入することさえできます。

でも、中国とロシアが反対するのは分かっているので、無理なんです。

なぜ反対するんですか?

自分たちに跳ね返ってくるからです。

ミャンマーに介入できるなら、ウイグルや香港の問題にも、外国が介入していいっていう話になってしまうので、絶対に受け入れられないんですよ。

では、どうすればいいんですか?

いま、ASEAN=東南アジア諸国連合が、仲介外交に乗り出しています。

4月に、ミャンマー軍トップのミン・アウン・フライン司令官も呼んで、ASEANの首脳級会議を開き、5項目の合意を発表しました。

どんな合意をしたんですか?

暴力の即時停止、すべての当事者による対話の開始、ASEAN議長国の特使が対話を仲介することなどです。

各国は、このASEANの仲介外交に期待しています。

各国というのは、中国もですか?

アメリカも中国も期待感を示しています。

米中が対立している時代ですが、ASEANはアメリカとも中国とも良好な関係を保っています。

そういう意味でASEANは国際社会の後押しを得て、5項目の合意をプッシュしていける立場にあると思います。

日本の外交カードは?

日本は、どういう立ち位置ですか?

日本は、ASEANと欧米のちょうど中間の立場です。

ASEANと共同歩調を取りつつ、アメリカとも連携していくという形になっていくと思います。

日本の場合、完全に対話でもなく、完全に制裁でもなくってことですよね。

そうですね。ただ日本にも、独自の外交カードはあります。ODA(政府開発援助)です。

日本は、ミャンマーの最大の援助国なので、そのODAのカードをいつ、どのような形で切るか、日本外交の力が試されます。

現時点で、ODAのカードは、まだ切っていないんですか?

切っていないです。新規のODAについては見送っていますが、継続中のものについては、軍の対応次第で停止も検討するとしています

ミャンマーの人たちからは、欧米のような厳しい対応を求める意見も出始めています。

日本はミャンマー軍とパイプがあると聞いたのですが、それは使えないんですか?

難しいところです。

もともと日本は、軍にも民主派勢力の側にもパイプがあり、独自外交と言われていました。

そのパイプを使って軍を動かすことが期待されていますが、いまは何を言っても動かないようなんです。

いまは、ですか?

事態がどんどん動いていますので、今後、状況がどうなるかにもよると思います。

パイプを維持しつつ、ODAのカードを手元に置いておき、タイミングを見る。そういう外交を日本はしていると思います。

ミャンマー情勢から何が見える?

いまのミャンマーから、私たちが学ぶべきことって、何ですか?

民主主義が重要なんだということを私たちに教えてくれている気がします。

抗議活動がここまで広がったのは、昔のミャンマーを知っている私には予想外でした。

以前であれば、軍事政権がすぐに支配を固めて、国民が意思表示できない状態になっていたと思います。

はい。

でも、この10年間の自由な社会を経験したミャンマーの人たちは、民主主義の大切さを、すごく分かっています。

だからこそ命を懸けて、民主主義を守ろうとしているんです。

こういう力強い動きは、ミャンマーだけでなく、アジア各地の若者たちの間で出てきています。

香港でのデモ(2020年)

香港とかですか?

香港の人たちも、タイで王室改革を求める人たちも同じように民主主義を訴えています。ただ、必ずしもうまくいっているわけではありません。

アジアの民主主義は、ここ数年、むしろ後退してきています。

そうした中で、ミャンマーの今後は、アジアの民主主義の行方を見る上で、大きな試金石になると思います。

ミャンマーでアジアの民主主義が試されているということですね。

ミャンマーがうまくいけば、アジア全体がうまくいくような気がするし、逆にうまくいかないと、アジア全体もうまくいかない。

そうはっきりとは言えないかもしれないですが、私はそんなことを考えています。

私たちみたいな大学生は、いま大変な状況にあるミャンマーとどう向き合っていけばいいと思いますか?

一市民として、ミャンマーの人たちの側にいると、意思表示することが大事だと思います。

意思表示ですね。

例えば、ミャンマー人の友達がいたら勇気づけてあげるとか。困っているミャンマーの市民を支援しようというクラウドファンディングもあります。

いろんなやり方がありますが、重要なのは、自分の立ち位置をしっかり示すことだと思います。

ヤンゴン市内でのデモ

向き合っていかなければいけない問題というか、ちゃんと自分事として見ていかなければいけないと思いました。

民主主義や人権は、私たちが守るべき共通の価値観です。

それを守るために、どうしたらいいのかを考えることは、私たち日本人、特に学生の皆さんには求められることだと思います。

ありがとうございました。

ありがとうございました。

ミャンマー情勢について藤下解説委員の解説でした。

編集:小宮 理沙・廣川 智史

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