2022年08月31日
(聞き手:小野口愛梨 田嶋瑞貴)
近年、日本に大きな被害をもたらす台風が相次いでいます。昔と比べて台風の勢力が強くなっているって本当?原因はなに?気になるギモンについて1から解説します。
ここ数年、台風による被害が以前と比べて増えているような気がします。
そうですね。まだ記憶に新しいのが2019年の台風19号。
大雨によって全国各地で河川が氾濫し、災害関連死を含めると死者・行方不明者は120人を超えています。
また、同じ2019年の台風15号では、房総半島に暴風が吹き、ゴルフ場の鉄柱が倒壊して、多くの住宅に被害がでました。
また、大規模な停電も起きました。
ほかにも、2018年の台風21号では、関西空港が浸水する被害を受けるなどしています。
確かに、近年、日本では台風による甚大な被害が相次いでいます。
教えてくれるのは、社会部災害担当(取材当時)の島川英介デスク。2013年にフィリピンで台風被害を取材して以降、継続的に被災地や研究機関を取材。災害報道のスペシャリストです。
下の図のように、台風は風の強さで階級が決まっています。
「強い」台風は平均風速が秒速33メートル以上、「非常に強い」台風は平均風速が44メートル以上、「猛烈な」台風は54メートル以上のものを指します。
強い台風ってやっぱり大きいんですか?
そう感じますね。
でも、台風の大きさは強さとは関係ありません。
台風の大きさというのは、強風域(風速15メートル以上の半径)の広さを表します。
超大型の台風だと、本州をすっぽり覆っちゃうくらいの大きさです。
ものすごい強さの台風だと思ってしまいがちだと思うんですが、台風の大きさは、あくまでも、強風域の範囲を示しているものなんです。
よくニュースや天気予報で「大型で強い台風」なんて大きさと強さを組み合わせた言い方をするのは、このためです。
やはり、最近、強くなっているってことなのでしょうか?
気象って揺らぎがあるので、台風の強さも毎年、一定しているわけではない、というのが前提にあります。
1959(昭和34)年の伊勢湾台風など、勢力が強いまま上陸し、大きな被害を出した台風は過去にもあるわけで。
伊勢湾台風
1959年9月26日 紀伊半島に上陸し東海地方を通過した台風。上陸時の気圧は929hPaで、高潮によって明治以降では最多の5000人を超える犠牲者を出した
その上で、やっぱり地球温暖化が影響を及ぼしていると指摘されています。
2014年に、地球温暖化の影響で台風などの熱帯低気圧の勢力が最も強くなる位置が、だんだん北上(南半球は南下)しているという論文が科学雑誌「ネイチャー」から出されました。
発表された当時は懐疑的な意見を持つ人もいたんですが、今では定説になりつつあります。
温暖化が台風にどう関係しているんですか?
台風が発生したり、発達したりするのに適している海水温はおおむね27度以上なのですが、温暖化が進んでどんどん海が温かくなり、その海域が北へと(南半球は南へと)上がっていっているとされています。
それで台風が以前よりも勢力をあまり落とさずに日本に近づいている、ということなんです。
台風が発生する詳しい仕組みについては「1からわかる!台風(1)なぜ日本にくるの?」をご覧ください
台風が発生する場所も、どんどん北上するんですか?
台風って赤道付近の海の上で生まれるんですが、もちろん、海水温が上がっていけば、この先、日本により近い場所で台風が発生することもありえると言われています。
ただ、問題なのは、先ほどお伝えしたように、強い勢力を維持したまま、日本に近づいてくることです。
100年に1回くらいしか来なかったような勢力の台風が、30年に1回とか、10年に1回来るようになる、なんてことになるわけです。
こういうとてつもなく強い台風を「スーパー台風」といいます。
「スーパー台風」?
日本の台風の強さの階級で一番強いのは「猛烈な台風」ですが「スーパー台風」は、そのさらに上、風速がだいたい秒速60メートル程度のものを指します。
先ほど説明した温暖化の影響などにより、この「スーパー台風」に該当するまで強くなる台風が、この先、増えていくだろうと言われているんです。
より、大きな被害が想定されるということですか?
そうです。
これは、2013年にフィリピンを襲った台風30号の被害を現地で取材したときの写真です。
この台風では、フィリピンで7000人以上が犠牲になりました。
7000人以上…。
まるで津波の被害を受けたかのように、たくさんあった家がすべて押し流されています。
これは、台風による高潮や高波の被害の跡です。
上陸したとき、この台風は「スーパー台風」に該当する強さだったと見られています。
気圧も895hPaとものすごく低くて。
気圧が低いということは、いわば水の上の空気が軽くなることを意味します。
その軽くなった空気を埋め合わせるように、水面が“吸い上げ”られるように上昇するんですね。
さらに、陸に向かって暴風が“吹き寄せ”続けると高潮が発生します。
考えただけでも怖いです。
5メートルから10メートルの波が陸地を飲み込み、多くの人が亡くなってしまいました。
スーパー台風が日本に来るようなことになれば、このような高潮の被害、今後、東京や大阪、名古屋などでも起きるおそれがあるんです。
どうしてですか?
3つの都市には、いずれも湾がありますよね。
南に開いた湾の場合、台風が北上する際に南からの風が吹き寄せ続けると高潮が高くなりやすいんです。
ちょっとした台風の進路の違いでも、大きく変わります。
先ほど触れた伊勢湾台風でも、高潮によって大変な被害が出ました。
東京だと、足立区や荒川区、江戸川区などの海抜ゼロメートル地帯(満潮時の海の高さよりも低い土地)で、もし堤防を乗り越えるような高潮が来たら、大変な被害が出るおそれがあります。
そんな…。
2018年の台風21号では、関西空港などで浸水被害が出ましたが、もうすこし高潮が高かったら、より大規模な浸水被害になっていた可能性もあります。
知りませんでした…。
このように、かつては、シミュレーションの中だけで起きていたことが、現実になりかけています。
近い将来、最悪の被害が起こりうる想定で、避難計画などを真剣に考えていかなければいけない時代になってきたといえます。
編集:岡野宏美 撮影:梶原龍
温暖化の影響でより、強い勢力を維持したまま日本に近づいてくる台風。どうしたら被害を避けることができるのでしょうか。次回、詳しく解説します。
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