目指せ!時事問題マスター

1からわかる!南海トラフ巨大地震(1)死者は最悪32万人?!いったいなぜ?

2022年03月09日
(聞き手:白賀エチエンヌ 本間遥)

  • お問い合わせ

「いつ起きてもおかしくない」と言われ続けている南海トラフの巨大地震。最悪の想定では、3分で津波が押し寄せ、死者は32万人にも上ると想定されています。想像もつかない話だけど、起きたらいったい、どうなるの?社会部災害担当の島川デスクに1から聞きました。

本当に起きるの?

学生
白賀

「南海トラフが危ない」ってよく聞くような気がしますが、本当に地震が起きるんですか?

起きると考えられています。

島川
デスク

なぜかというと、いつか大地震が起きることがほぼ確実にわかっているからなんです。

学生
本間

どういうことですか?

教えてくれるのは、社会部・災害担当の島川英介デスク。気象庁や内閣府防災、国土交通省などの担当を歴任し、現在は災害ニュースや緊急対応の取材指揮を担っている防災・減災報道のスペシャリストです。

南海トラフ地震は、これまでに起きた歴史がかなり分かっている地震なんです。

いつ起きたのかというのが、文章などの記録として残っていて。

ばらつきはありますが、この図を見てもらうと大体100年から200年の間隔で起きていることがわかります。

100年から200年…。

もう70年以上たっていますよね。

こういう過去のデータからもうすぐ、地震が起きるんじゃないかと言われているんです。

国の地震調査研究推進本部が出した数字だと、この30年の間に70%から80%の確率で起きるとされています。

そんなに高いんですか?

一定の仮説に立った方法で、高知県の港でとられた地殻変動のデータを使い、前回の地震の規模から次の発生時期を予測しています。

前回の地震の規模がそれほど大きくなかったので、近いうちに大きな地震が起きるだろう、といった感じです。

でも、実は、別の計算方法もあって、それだと3%から20%の確率だとされています。

全然違いますね。

こっちの数字はあまり知られていませんが、確率って条件をどう設定するかによって、大きく変わるんです。

だから、どう受け止めたらいいかってすごく難しいんですよ。

80%の確率だからといって、30年後も地震が起きていない可能性もあるし。

20%の確率だからといってあした地震が起きない保証もない。そういうものなんです。

それだけ予測が難しいってことなんですね。

そうですね。

ただ、プレートの沈み込んでいる部分に、大地震を引き起こすおそれのあるひずみがたまっているということは確実に言えます。

そして、もう1つ確実に言えるのは、ここで巨大地震が起きると、日本全体に甚大な影響を及ぼすということです。

どれくらい揺れるの?

実際に、南海トラフが起きたら、どれくらい揺れるんですか?

震源に近いところだと、高知県や静岡県などで震度7の揺れが。下の図で赤く塗られている部分になります。

東京もかなり揺れますか?

東京は、最大で震度5強の揺れを観測するとされています。

東日本大震災と同じか、場合によってはより強く揺れると思ってください。

当時、結構、揺れた記憶があります…。

さらに、南海トラフ地震では、四国や近畿、東海地方の広い範囲で震度6強や6弱の激しい揺れが想定されています。

このほか、関東から九州にかけての広い範囲で震度5弱以上の強い揺れが想定されているんです。

死者32万人の衝撃

こんなに大きな地震が来たら、どんな被害がでるんでしょうか?

東日本大震災を踏まえて、最悪の事態を想定して考えましょうということになりました。

その結果、死者32万3000人、負傷者62万3000人という想定が出されました。

32万人…。

東日本大震災の死者は1万5000人余り、行方不明者はおよそ2500人と甚大な被害です。

ただ、南海トラフの想定をみると、改めてその影響の深刻さがわかると思います。

ことばが出ません…。

津波到達まで3分!

ここまで被害を甚大にする大きな要因が津波です。

沿岸部では、最大34メートルの高さの津波がくると想定されています。

34メートル…。

8階建てのビルと同じくらいの高さですね。

東日本大震災での津波被害(2011年)

その津波は地震が発生してからどれくらいで来るのですか?

津波の高さが3メートルに達する場合でみると、最も早いところで3分。到達時間がものすごく、早いんです。

えぇ、3分!?

3分というと、まだ揺れている最中に津波が襲ってくることになります。

どうしてこんなに早くくるのですか?

東日本大震災の時は、東北の沿岸に高い津波が到達したのは、地震発生からおおむね、30分余りたってから。

震源域が陸地から100キロくらい離れていて、これぐらいの時間で津波がきたんです。

でも、南海トラフは震源域がほぼ陸の真下。だから津波が到達するのが早いんです。

日本の約半分が被災!?

震度6弱以上もしくは津波の深さが30センチ以上になる市区町村は、全国の32%。人口でいうと6800万人が影響を受けることになります。

日本の人口って確か1億2500万人くらいですよね…。

人口の約半分が被災…。

さらに、生活面にも影響がでます。

水道・電気・ガスといったインフラはすべて止まりますし、地震の直後は、携帯電話も通じなくなります。

ご覧のように、関西国際空港などの主要な空港が浸水。鉄道や道路も被害を受け、物流網がまひします。

そして、当然、そうなれば、全国に影響が及ぶことになります。

全国に…。

新潟県中越地震で脱線した新幹線(2004年)

国家予算の2倍以上の被害

さらに、経済的な影響も膨大です。

予想される経済的な損失額は220兆円

日本の年間の国家予算の2倍以上の額に上っています。

ちょっと想像ができません。

東日本大震災の被害総額の10倍になるとも言われています。

10倍…。

南海トラフの被災地というのは、工業製品の出荷額が国内シェアの7割を占める「太平洋ベルト」と重なっているんです。

太平洋ベルト、社会の授業で習った気がします。

ここが一気に被災することによる、影響は計り知れません。

建物や施設などの被害が甚大ですから、復旧にかかる額は大きくなります。

さらに、工場が被災した場合、生産能力が低下し、供給が止まることも想定されています。

このように、工業地帯が被災地となって、経済的な被害額が大きくなることが予想されているんです。

▶なぜ巨大地震が起きる?

このような巨大な地震が発生してしまう理由って何なんですか?

南海トラフ地震の想定される震源域ですが、下の図を見てもらうとわかるとおり、東は静岡県、神奈川県のすぐ手前まで。

西は九州の宮崎県まで及ぶと考えられています。

これは震源域なので、揺れる範囲は、もっともっと広くなります。

地震のニュースで画面に×印が出るじゃないですか。

はい。

あれって、断層が壊れ始めた場所を示しているだけで。

地震の規模が大きくなればなるほど、ずれ動く範囲は大きくなるんです。

南海トラフでは、最大マグニチュード9.1の巨大地震が起きるおそれがあると言われています。

そうなると、数百キロ四方の海底がずれ動くことになります。

そもそも南海トラフってなに?

そもそも「南海トラフ」ってなんですか?

「トラフ」って、何だか分かりますか?

断層?プレートみたいな。

近いですね。トラフっていうのは、直訳すると「お盆」とか「くぼみ」なんですよ。

南海「お盆」だと格好がつかないので南海トラフって言われています。

どういうものなんですか?

海盆(かいぼん)といいますが、くぼんでいる部分です。

 

南海トラフは、日本列島が位置するプレートの下にフィリピン海プレートが沈み込んでいる場所です。

この2つのプレートの境界に、「ひずみ」がたまっていて。

海上保安庁が観測機器でデータをとっているんだけど、年間6cmぐらい、プレートが沈みこみ続けているんです。

年間6cm?それってあまりたいしたことないような…。

6cmと言っても100年で6m、1000年で60mにもなるんです。

なるほど…。確かにそうですね。

南海トラフのことを「沈黙のトラフ」と呼ぶ科学者がいます。

「沈黙のトラフ」?

実は、この南海トラフ、プレートどうしが接している「プレート境界」では、地震があんまり起きない

沈み込んでいるプレートが、陸のプレートとがっちりくっついて、ひずみをためているんです。

そして、ため込んだひずみを、巨大地震として解放しているんですね。

そういうことなんですね!

今は古い地層を詳しく調べることで、いつ、どういう地震が起きたかを調べることができます。

8000万年前に起きた地震のことまで分かるようになっているんです。

そんな昔までさかのぼれるんですか?

8000万年前といえば、今の人類が現れる前、まだ恐竜が生きていた時代です。

日本列島が今の形になるずっと前から、ここは、巨大な地震が起きる場所だったんですね。

最悪の場合、32万人もの犠牲者を出すと想定される巨大地震。実際に起きたら、私たちの生活はどうなるのか。そして、富士山の噴火を誘発するおそれが過去の歴史から明らかに!?次回、詳しく解説します。

編集:岡野宏美 撮影:石川将也

詳しく知りたいテーマを募集

詳しく知りたいテーマを募集

面接・試験対策に役立つ時事問題マスター