2023年12月27日
経済 ミャンマー アジア

中古の日本車高騰も ミャンマー混乱長期化で経済さらに苦境に

「外から見ると変な政策をやっているようにも見えますが、軍としては生き残りのための合理的な政策なのです」

クーデターで軍が実権をにぎって以降、制裁などによる外貨不足、通貨の下落が止まらず、市民生活にも深刻な影響が出ているミャンマー。

その背景に何があるのか。現地を取材しました。

(アジア総局記者 高橋潤)

中古の小型車が300万円超

ミャンマーの最大都市ヤンゴンにある自動車販売店。

展示されていた日本車は、塗装のつやが消え、ところどころ擦り傷もついた11年落ちの中古の小型車ですが、価格は日本円で300万円超。

展示されていた日本車の中古車

日本からの中古車は人気ですが、現在輸入が禁止されているため、限られた在庫が高騰しています。

クーデター前と比べると、およそ2.5倍になっているということです。

販売店の社長は「通貨チャットの下落が続く中、現金を車に変える動きが加速している」と言います。

自動車販売店ソー・トゥン社長

トゥン社長
「クーデター以降、多くの人が金や外貨を買う傾向にありましたが、その後、投資が車に向き始めました。中古車の価格は2.5倍から3倍、5倍になった車種もあります」

場当たり的金融政策で通貨が下落?

ミャンマーの最大都市ヤンゴンの両替所

ミャンマーの通貨チャットはクーデター直前、街なかの両替所で1ドル=1330チャットほどでしたが、ことし8月に一時3900チャットにまで下落。

その価値は3分の1まで下がり、その後も通貨安は続いています。

下落の要因の1つとされているのが、軍による場当たり的な金融政策です。

軍の傘下にあるミャンマーの中央銀行は7月、個人が保有できる外貨の上限を1万ドルとし、半年以内にチャットへ両替しないと罰する方針を明らかにしました。

さらにそのわずか10日後には2万チャット紙幣を新たに発行することを突然、発表。それまでの最高額1万チャット紙幣の倍の新紙幣の発行という発表を受けて、市民の間ではインフレがさらに進むのではという懸念が広がったのです。

2万チャット紙幣の見本

しかし、紙幣は市中に出回っておらず、その意図はわかりません。

ミャンマー経済に詳しい専門家は、通貨下落の背景には軍政の政策に対する不信感があると指摘しています。

政策研究大学院大学 工藤年博教授

工藤教授
「2万チャットのお札を発行したから通貨安になるということではありませんが、軍政に対する信頼、軍政の金融政策に対する信頼がない中で、この2万チャット札が出たことで、いっそう通貨安の方向に進んでしまったということだと思います。
ミャンマーは新興国で産業基盤が弱く、原材料やエネルギーを輸入に頼る、輸入材にかなり依存した経済です。
アジア最後のフロンティアなどと言われていたころは外国からの直接投資など、いくつかの外貨獲得源がありましたが、クーデターでそれがほとんどなくなり、非常に外貨に苦しむ経済になっているのです」

物価高騰に苦しむ市民

最大都市ヤンゴンでは、信号で止まる車に近づき物乞いをする子どもや高齢者の数が増えたようにも見受けられます。

一方で、輸入パーム油の販売価格を意図的につり上げたなどとして、軍司令官の側近が軍法会議で終身刑を言い渡される事件もありました。

食料品店の前にできる長蛇の列も日常の光景で、人々からは物価高騰への不満の声が聞かれました。

ヤンゴン市民
「1日の稼ぎがコメ代に消えてしまいます。肉や野菜はどうやって買ったらよいのでしょうか」

「家族のためにコメを3合炊きます。子どもに食べさせてしまうと、残ったコメは十分ではないので、自分はもう食べたと子どもたちにウソをついています。これはうちに限ったことではなく、どこの家庭もそうした状況です」

批判許さないミャンマー軍

クーデター後、電力不足による停電も大きな問題となっています。

発電に必要な石油や天然ガスを輸入に頼っているため、外貨不足から必要なエネルギーを十分に輸入できず、ほぼ1日中停電していることもありました。

停電している信号

「電気さえ供給できないお前らが国を統治できるわけないだろう。停電中だ。逮捕したいなら逮捕してみろ」

ミャンマーでラッパーとして名が知られた男性は、軍の停電への無策にSNSで批判を展開。

軍政府を批判するラッパー

すると、軍政批判を投稿した翌日に逮捕され、その後、扇動の罪で禁錮20年の有罪判決を言い渡されました。

軍はこのほかにも、両替商やコメ取り引きの業界団体、食品の輸入業者などが市場を操作し、通貨の下落や物価の高騰を招いたとして、相次いで逮捕。

いわば、金融政策失敗の責任を転嫁しているのです。

こうした中、今月、軍は突然、日本、韓国、タイ、そしてシンガポールで働くミャンマー人に対し、収入の2%を所得税として外貨で大使館に納めることを求めるようになりました。

そして、この納税証明書を提示しないとパスポートを更新しないというのです。タイでは多くの人たちがパスポート更新で長い列を作っていました。

軍と民主派勢力などとの戦闘の先行きが見えない中、専門家は経済状況の停滞の長期化は避けられないと指摘します。

工藤教授
「外部の人間から見ると、軍がいろいろな規制をかけて変な政策をやっているなという風に見えますが、軍としては、外貨不足の中で、武器を含めて、必要だと考えるものを輸入したり、自分たちが生き残るために民間が稼いだ外貨をなんとか吸収しようとしたりするというのは、軍の生き残りという観点からは、ある意味、合理的な政策なんだろうと思います。
ただ、それが国民生活にとっては、かなり難しい状況を生んでいるのが現状です。
いまは4回目の非常事態宣言の延長があり、2024年の1月31日までですが、軍と民主派勢力との間での対立は続いていて、非常事態宣言はその後も延長されるのではないかと見ている人も多いです。
そういう状況の中では、経済状況が好転していくことはしばらくは考えにくいと思います」

(9月15日 BS国際報道2023で放送)

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