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投資から電源へ 太陽光発電拡大のカギは

投資から電源へ 太陽光発電拡大のカギは

2022.11.07

私たちの生活に欠かすことができない電気。

 

その多くを海外から輸入する化石燃料に頼る日本にとって、“国産のエネルギー”とも言える再生可能エネルギーの役割は年々大きくなっている。

 

国のエネルギー基本計画では、電源に占める割合を2030年度に現在の倍近い36~38%程度とする目標が掲げられている。

 

中でも主力と期待されるのが太陽光発電だが、そのさらなる拡大に向けたカギとされることばがある。

 

「投資から電源へ」

 

いったいどういうことなのか。

FITで太陽光急増

再生可能エネルギーでもっとも普及が進む太陽光発電。電源構成に占める割合は、2011年度の0.4%から、2020年度には7.9%へと急増した。

それを後押ししたのが「投資」としての魅力だ。

2012年に始まった「FIT=固定価格買い取り制度」では、再生可能エネルギーからつくられた電気を、電力会社が“一定価格”で最大20年間買い取ることを国が保証している。

安定した利益が見込めるため、投資として始めるケースが相次いだ。

投資を目的に太陽光発電所を運営

首都圏で太陽光発電所を運営する40代の会社員の男性もその1人だ。

FITによる投資の成果を期待して、2014年以降、4カ所の発電所を運営してきた。

今のところトラブルもなく、順調に稼働しているという。

売却の動きも

しかし男性はいま、施設を売却しようと考えている。

今後、設備の劣化が進めば、部品の交換やメンテナンスにかかる費用がかさむ可能性があることや、FITが終了したあと電気がいくらで売れるか見通せないことなどが理由だという。

(太陽光発電所を運営する男性)
機械物なので10年、20年、30年経つと不具合も増えてくると思うし、資源高などで故障の際の部品の交換費用なども年々上がり続ける印象がある。うまみがちょっとずつ減ってきている気はしています。

投資を呼び込んだFITの制度が始まってから10年。

終了が近づくにつれて、全国で手放したい事業者が増え、使われなくなったり、放置されたりする施設が増えることも懸念されている。

一方で買い取る会社も

そうした中、新たな動きも出てきている。

四国電力が始めたのが、太陽光発電所を売却したい事業者を募集し、買い取る取り組みだ。

ことし4月から専用のホームページで募集を始めた。

今後、FIT期間が終了する発電所の増加が想定されるなか、事業の継続が課題になってくると見込んだという。

ホームページで既設の太陽光発電所の募集を始めた

(四国電力再生可能エネルギー部 立川貴重 開発推進室長)
FIT期間が終了すると、やはり廃止される発電所も出るのではないかと考えました。それではせっかく再エネの量が増えて電気の低炭素化が進んだものが、また戻ってしまうことになります。パネルの廃棄処分やFIT後の運転を重荷に感じる管理者もいて、そこを補完するような形で我々が出ていけると思っています。

背景には新規案件の難しさも

電力会社が既設の発電所に注目する背景には、国内で再生可能エネルギーの発電所を新たに設置するのが難しくなってきている現状もある。

全国では、再エネ発電設備の設置に抑制的な条例を制定する自治体が増加。自然環境や景観の保全が目的で、国の調査では、2021年度には184件と、全国の自治体の1割にのぼった。

国のまとめでは、太陽光発電所の認定容量は年々減少傾向になっている。

一方で、再生可能エネルギーで作った電気を求める利用者は増えているという。

電力会社としては、既設の設備を引き継いで管理することで持続可能な設備として運用し、電源の低炭素化や脱炭素化を実現したい狙いがある。

課題は長期使用 40年近く使える!?

ただし課題もある。それは、設備をいかに長く使い収益をあげるかだ。

一般的に太陽光パネルの寿命は20年から30年とされている。

これに対し、四国電力では40年近く前に作られたパネルをいまも現役で利用しているという。

40年近く使われている太陽光パネル

実際に、愛媛県松山市にある設備を取材させてもらった。

この施設では、1986年に発電を開始した国内初のメガソーラー発電所で使われたパネルを一部移設して使っているという。

パネルの表面は薄い茶色に変色していて劣化が見られるものの、1年間でどのくらい発電したかを示す「設備利用率」は、同規模の発電所の全国平均で15%ほどなのに対し、現在も10%程度を維持しているという。

こまめに汚れを拭き取る

なぜ、これほどまで長く使えるのか。

重要なのは、汚れの拭き取りや雑草の除去などをこまめに行うことだという。

パネルの上に鳥のふんや雑草による陰などがあると、その部分だけ局所的に加熱される「ホットスポット」ができ、劣化につながってしまうためだ。

月に1回、巡視点検を行っている

この会社では月に1回、巡視点検を行って不具合がないか確認し、配線の補修や部品の交換など必要なコストもかけて管理している。

発電効率のよい新しいパネルに置き換える選択肢もあるが、大がかりな改修が必要になることや、廃棄されるパネルを増やさないためにも、使えるものはできるだけ長く使っていきたいという。

四国電力再生可能エネルギー部 立川貴重 開発推進室長

いろんな苦労で長期間使い続けられています。再生可能エネルギーの電気が欲しいという客のニーズは日に日に感じていて、私たちとしても電源の低炭素化、脱炭素化を目指しているので、長期間にわたって発電・運転していくというのは大事だと考えています。

投資から電源へ

「投資」としての魅力に後押しされて導入が進んだ太陽光発電。

その魅力を支えている再生可能エネルギーの買い取り費用は、電気の使用者から毎月の電気料金とあわせて広く徴収される「再エネ賦課金」によってまかなわれ、その額は、年々増えている側面もある。

太陽光発電を一過性の「投資」から、長く安定して使える「電源」へと転換していくこと。再生可能エネルギーの拡大に向けて、今から取り組むべき課題だ。

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