水害 想定 知識

浸水リスク地域で増える住宅 一体何が…

毎年水害による犠牲者が出ている日本。実は、浸水リスクがある地域で人口が増えていることを知っていますか?背景にあるのは自治体による「規制緩和」。農地が宅地に変わる中で、水害のリスクにさらされる人が増えています。

浸水地域 人口増加1位は

ランキング
【市街化区域】積極的に開発を行って市街化を促進
【市街化調整区域】農地など守り無秩序な市街化防ぐため開発抑制
【非線引き区域】当面都市化の予定なく開発規制が緩い

NHKは明治大学の野澤千絵教授、東洋大学の大澤昭彦准教授と共同で、人口が浸水域で増えている実態を調べました。分析したのは1995年の時点では人口が少なかった場所で、どのくらい人口が増えたのかです。

NHKが全国の自治体から集めた浸水想定区域のデータと、国勢調査のデータを使って分析したところ、最も人口が増えていたのは埼玉県で、次いで、茨城県、岡山県でした。いずれも2万人前後増えていました。

どうして人口が増えているのか。

原因を探るため、野澤教授と大澤准教授の研究室と共同で、こうした場所について航空写真などを使って調査しました。

学生も共同研究

すると見えてきたのは、農地を宅地に変えてきた歴史です。

左は2004年、右は2021年に撮影された写真です。

比較図

かつては水田が広がっていた地域に、今は多くの住宅が建ち並んでいることがわかります。同じような場所は全国各地で確認されました。そして、そうした地域の多くは「市街化調整区域」と呼ばれる場所でした。

「市街化調整区域」の規制緩和で

「市街化調整区域」は、都市計画法という法律で、「農地などを守り、無秩序な市街化の拡大を抑制するため、宅地開発を規制するエリア」とされています。つまり、本来ならば住宅開発を積極的に進める場所ではないのです。

少し専門的ですが、ある程度の大きさの都市では、都市計画法に基づいて、市街地として積極的に開発する「市街化区域」と、無秩序な開発を抑制する「市街化調整区域」を区別しています。

都市計画概念

ところが、地方分権の流れや経済対策に伴って規制緩和が相次いで行われる中で、2000年の都市計画法が改正され、自治体が規制緩和すれば市街化調整区域でも宅地開発が可能になりました。

これがきっかけとなって、各地で市街化調整区域の開発が進んできました。

皆が得する!? 市街化調整区域の開発は

市街化調整区域メリット

専門家は、市街化調整区域の開発は多くのメリットがあると指摘します。

住民は、敷地の広い住宅を安く手に入れられる。また、都市計画税という税金もかからないため、税金も安くなる。

自治体は、住宅開発が進めば人口が増えるうえに、固定資産税などの税収も増える。

不動産事業者は、開発して売れれば利益がでる。

誰もがメリットがあるため、なかなか開発にブレーキがかからないというのです。

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一方で、市街化調整区域はもともと農地だったために浸水リスクを抱える場所もあります。また、インフラの整備が十分ではなかったり、避難する施設が少なかったりします。こうした点が見落とされたまま開発が進むところも多いのです。

人口は減っているのに

分析の中で特に増加が多かったのが、埼玉県の北部に位置する幸手市です。

ハザードマップ

幸手市では「市街化調整区域」全体で人口が約1600人増えていました。

一方、全体の人口は20年間に約5600人減っています(5万8172人→5万2524人)。

つまり、市全体では人口が減っているにもかかわらず、浸水リスクの高い一部の市街化調整区域では人口が増えているのです。

現場で何が起きているのか。

建ち並ぶ新築戸建て 子育て環境求めて

幸手市の現場

訪れたのはデータの分析で人口が特に増えていた、円藤内、下千塚、長倉の3つの地区。住宅地の間を水路が流れているところもあり、水田を宅地に開発して整備されたことがわかります。

ハザードマップでは3~5mの浸水が広い範囲で想定されています。

新築住宅

立ち並ぶ住宅は真新しく、車を2,3台停めることのできる駐車場や庭がついて広々とした印象です。不動産事業者などによると、価格は2000万円から3000万円台ということでした。

訪れたのが日曜日だったため、庭では親子で花の手入れをする姿や、子供たちが集まって遊ぶ姿が見られました。

4年前に隣の久喜市から引っ越してきた女性に話を聞くことができました。

幸手市の女性
幸手市の女性
「我が家は子どもが2人いるので、伸び伸び育てる環境をと思って引っ越してきました。車を気にすることなく、危なくないところを選びました。伸び伸び育っているのかなと思うので、住む環境としては良いと思います」

NHKでは、地区の住民がどのくらい浸水リスクを把握しているのかアンケートしました。

アンケート

住宅を購入した際に当時のハザードマップを確認したか尋ねると、「確認した」と答えたのは4割ほど。半数以上が浸水リスクを把握せずに購入していたともいえます。

人口流出を抑える役割が

市街化調整区域の開発が進み、リスクの高い場所に住む住民が増えている現状を市はどう見ているのか。

幸手市の建設経済部の狩野一弘部長は、自治体の維持と災害対応の両立の難しさを話してくれました。

幸手市部長
埼玉県幸手市 狩野一弘部長
「幸手市は過去に消滅可能性都市にあげられたこともあるなど人口減少が続いています。都市間競争もある中で、人口流出にどう歯止めをかけるかが大きな課題です。しかし、本来、住宅開発を行う中心市街地はすでに建物が建っていて住宅開発の余裕がなく、飽和している状態。その中で、市街化調整区域での住宅開発は、市内に住み続けたい若者の受け皿になっている面があります。市街化調整区域での住宅開発を規制すると、不動産事業者や地主の農家の生活などの地域経済も関わってきます。リスクを受け止めながらも、通常の生活をどう守っていくかは非常に難しいのです」

市では当面、市街化調整区域で住宅開発を進める事業者などに対して、浸水のリスクを説明した上で、2階建て以上の建物を推奨するなどの対応を取ることにしています。

かじを切らないと対応できない

人口流出を抑えて街を維持していくことと、水害への対応に頭を悩ませる自治体。こうした実態は幸手市だけでなく、人口減に悩む全国各地の自治体でも同様です。

都市計画が専門の明治大学の野澤千絵教授は、自治体の事情には理解を示しつつも、災害対策と、長期的な都市計画の必要性を指摘します。

野澤教授
明治大学 野澤千絵教授

「水害リスクのあるエリアでは地盤を嵩上げしたり、浸水しても逃げ込める部屋を作ったりするなど、住まい方の工夫をすることが大事です。地域の特性に合わせて一人ひとりが対策を考えていかないと、毎年のように起きる水害には立ち向かえない状況になっていると感じます。そして、長期的には、人口減少と高齢化が進む中で財源やマンパワーが減り、災害に対応できなくなっていくことを念頭に置いて、災害リスクのあるエリアにはこれ以上人口を増やさない、リスクの少ないエリアに人口を誘導していくという都市政策に本気で舵を切っていく必要があると思う」

国は法改正も…判断は市町村に

浸水リスクがある場所で住宅開発が進む現状を受けて、国はことし(2022年)4月に法律を改正。市街化調整区域のうち浸水深3m以上のリスクがある場所では、住宅の建設を厳格に規制するように、かじを切りました。

しかし、実際に規制を行うかは最終的に市町村の判断に委ねられます。

街の維持や活性化は自治体にとって大きな課題ですが、災害が頻発化する中ではリスクを軽視せずに、住民とともに災害に強い街の在り方を改めて考えて欲しいと感じます。

(2022年6月5日NHKスペシャル「いつ逃げる?どこへ逃げる?」取材班)

NHK全国ハザードマップはこちら



今回の分析では、1995年の国勢調査の4次メッシュ内の人口が2人未満(秘匿措置などが実施された「*」と表記されたメッシュも含む)の場所を「人口が少なかったエリア」として抽出。さらに浸水深3m以上のリスクを抱えた場所に絞り込み、2015年までの人口の増減を分析して都道府県毎に集計した。

※ 今回の分析では国土数値情報の「都市地域区分コード(2018)」の情報を追加。「人口が少なかったエリア」として抽出したメッシュと紐付けた。メッシュ内に複数の地域区分がある場合には、メッシュに占める割合が多い地域区分を採用した。

幸手市の人口(1995年国勢調査)はこちら ※NHKサイトを離れます

2015年国勢調査(政府統計ポータルサイト)はこちら ※NHKサイトを離れます