防災担当者 “女性がゼロ” 全国6割の自治体で

「避難所で突然生理が始まったが、生理用品が足りずにもらえなかった」
「避難所に仕切りがなく、みんながいる場所で授乳しなければならずストレスを感じた」
東日本大震災や熊本地震などの被災地では、こうした女性ならではの問題が相次ぎました。豪雨や地震などが相次ぐなか、女性の視点を取り入れた災害対策は喫緊の課題となっています。
しかし、5月27日に公表された国の調査では、全国の6割余りの自治体で防災担当部署に女性職員が1人もいないことが明らかになりました。
目次
明らかになった「女性ゼロ」の実情は?
国は2020年、男女によって異なるニーズを把握して避難生活や備蓄などの備えに役立ててもらおうとガイドラインを作成しています。
さらに災害時の対応力を強化するため、全国1741の自治体を対象に防災担当部署の女性職員の割合を初めて調査し、2022年5月に結果を公表しました。 その結果、全体の61.9%(1078自治体)で防災担当の部署に女性の職員が「ゼロ」。つまり、1人もいないという結果が明らかになりました。

防災担当部署に女性職員がいない市町村の割合を都道府県別に見ると
▽長野県が87%
▽富山県が86.7%
▽岩手県が81.8%
▽長崎県が81%
▽宮崎県が80.8%でした。
一方、女性職員ゼロの自治体が少ない都道府県は
▽東京都が27.4%
▽静岡県が31.4%
▽大阪府が34.9%
▽福井県が41.2%
▽神奈川県が42.4%でした。
また、東京23区ではすべての区で防災担当の女性職員が配置されていました。
(※すべての都道府県のデータは記事の最後に掲載しています)
地方公務員(一般行政職)全体の割合と比べると?

防災担当部署にいる女性職員の割合は全国平均で9.9%でした。 2018年度時点での一般行政職の地方公務員全体の割合(31%)と比較すると、女性の配置が遅れている状況が分かりました。
さらに、防災担当部署の女性の割合が10%以上の自治体と避難所の備蓄品を比較したところ、女性職員がいない自治体では「女性用の下着」や「生理用品」「哺乳瓶やおむつ」「簡易トイレ」などの項目で備蓄が進んでいない傾向が見られたということです。

なぜ女性職員の配置が大事なの?
被災地での女性の支援について研究している静岡大学の池田恵子教授は「防災担当の部署に女性職員が1人もいない自治体が予想以上に多く、驚いた」と話しています。

避難所に必要な備蓄や環境の整備は主に防災担当が中心に行っているため、子育てや介護をする女性が被災した際に抱える問題への対応に偏りが出てしまうことが懸念されるということです。
女性の困りごとやニーズは男性より女性の方が気づきやすく、池田教授は「被災した人の体調の悪化や精神的な負担を防ぐためにも自治体には重く受け止めて対策を考えるべきだ」と指摘しています。
また東日本大震災以降、地域の防災力の担い手に女性を活用する動きが進んでいることをふまえ「女性の参加を呼びかける自治体が女性職員ゼロの状況では、全く説得力がない」と話していました。
どうして女性配置が進んでいないの?
池田教授は、台風などの大雨や地震など、夜間の緊急対応や泊まり込みが必要な業務が多くなりがちなため、子育て世代の女性を中心に対応が難しいとして、配置できないのではないかと指摘しています。
「託児ケアを充実させるなどして女性職員の配置を増やすほか、すぐに女性を配置できない場合は、避難所の運営や備蓄などを検討する際にほかの部署の女性職員や地域の女性団体に参加してもらうなどいろいろな方法がある。今後、それぞれの自治体でできる対策を検討していく必要がある」
国の受け止めは?
「地震や大雨など緊急時の対応が多く、子育て中の女性などを配置しづらいとみられるが、女性が加わることで必要な防災対策が進むので、もっと増やすことが必要だ。今後、自治体に課題や必要な対策をヒアリングするなどして対策を検討したい」
「被災者の半分は女性なので、自治体においても、防災にもっと女性が登場すべきで、理想的には半数程度いることが望ましい。できるだけ多くの女性の方が災害時の対応に参加できるよう内閣府防災担当としても自治体のよい事例があれば積極的に紹介して女性の増員に取り組んでいきたい」
限られた人数でニーズをどう把握?
とはいえ、限られた要員で女性職員を配置するのはすぐには難しい実情もあります。 このため、防災専門の女性職員がいない自治体の中には、住民と協力して必要な災害対策を検討しているところもあります。
職員約250人の山梨県都留市では総務課の危機管理担当が防災対策を担っています。 2年前は女性の担当者が1人いましたが、去年とことしは配置されず、現在は3人全員が男性です。
災害時の避難などの際にどのような対応が必要か、女性の視点をふまえて検討しようと市役所の職員や地元の女性団体などから意見を聞く取り組みを進めています。

2022年5月19日には梅雨の時期を前に、防災活動を行っている女性団体の担当者と会議を行いました。団体の担当者は、市内では最大800人が避難する想定の避難所に生理用品は36枚入りが2袋しか常備されておらず、備蓄が不十分だと指摘しました。
また、住民自身も備えを進めるよう、市として呼びかける必要があるとして、例えば、繰り返し使える布ナプキンの作り方を学べる講座を開くなどのアドバイスをしていました。
団体の担当者は「女性どうしでなければ理解しあえない部分が当然あると思う。女性の防災担当者がいることは重要だと思います」と話していました。
このほか、市では女性の意見などをもとに緊急時のために準備しておくべきものなどを明記した防災ハンドブックを今年度中に作成して各家庭に配布することにしています。
都留市危機管理担当の河野淳さんは「女性の意見などを取り入れながら災害時に極力ストレスなく避難できる環境を作れるよう態勢をとっていきたい」と話しています。
男性職員だけで話し合いを重ねるも…
市民からの声を受けてこの春、防災担当部署に女性の職員を配置した自治体もあります。
長崎県諫早市で防災を担当する危機管理の部署にはこれまで女性職員が配置されたことがなく、男性職員だけで避難所のレイアウトや備蓄品の整備などを進めてきました。
2020年9月の台風10号で市が開設した避難所にはおよそ4000人が避難しましたが、その後、市内の女性から「避難したかったが利用しづらくてできなかった」という意見が寄せられました。
意見は人づてに寄せられていたため市は具体的な理由を確認することができず、男性職員たちで話し合いを重ねましたが、結局、何を改善すべきかがわからなかったということです。

こうしたことから市では女性の目線を取り入れようと、2022年4月、初めて女性職員を1人配置しました。
松山厚子さんは3人の子どもがいますが、いずれも成人していて災害時の呼び出しや泊まり勤務にも柔軟に対応できるということです。

「私自身も授乳や生理用品を扱うことで恥ずかしいと思うことがあった。きめこまやかな部分をいろいろな意見を聞きながら配慮できればと思う」
「去年までは担当が男性だけだったので避難所運営や備蓄品の整備などで私たちだけでは判断が難しい部分があった。そういった部分をこれから再検証することで女性が避難をしても不安な思いをしないようにしていきたい」
都道府県別のデータ一覧
防災担当部署に女性職員がいない市町村の割合について、都道府県別のデータは以下の通りです。

内閣府男女共同参画局のホームページでは、全国の市区町村別の状況も確認できます。以下のリンクからご覧いただけます。
内閣府男女共同参画局「ガイドラインに基づく地方公共団体の取組状況調査(令和3年)」※NHKサイトを離れます(社会部記者 清木まりあ)
(甲府放送局記者 大友瑠奈)
(長崎放送局記者 上原聡太)
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