災害時 赤ちゃんを守れる避難所を

大きな災害が起こったとき、赤ちゃんがいたら…。これまで起きた災害では、赤ちゃんを抱えた親から避難所での授乳や衛生面について不安の声が多く上がっていました。避難先で赤ちゃんが安心して過ごせるにはどうしたらよいか? できることをまとめました。
目次
授乳はどうする? 母乳は継続するの?
まず、大切なのは「避難所の環境」を整えることです。ミルクでも母乳でも、赤ちゃんとお母さんがいつも通りいられることを尊重した避難所づくりが欠かせません。避難所には授乳スペースも必要です。新生児は1日に10回以上おっぱいを飲むことがあります。
東京大学大学院医学系研究科 客員研究員の本郷寛子さんは「赤ちゃん連れの人が授乳や調乳用のスペースを希望することは決してわがままではない」と指摘します。内閣府の避難所運営ガイドラインにも乳幼児や妊婦への配慮は記載されています。

お母さんの中には母乳が出るかどうか不安だという人もいます。ストレスが大きい場合には母乳がなかなか出てこないと感じることもあります。しかし、母乳が作られなくなるわけではありません。
日本栄養士会は、風邪や乳児下痢症などの感染症のリスクを減らす観点からも母乳を継続することが重要だとしています。そして、「一時的に母乳が減ったり出ていないように感じたりしても、赤ちゃんはお乳を吸っているだけで安心する。吸わせるだけで母乳が出てくるようにもなる」とアドバイスしています。

本郷さんによると、「お母さんが周囲の目が気になって授乳をためらうと周りの人が心配になってミルクを勧めたくなるかもしれませんが、いつもより授乳回数が減ると、母乳は作らなくていいと体が反応してしまい、母乳の産生量が減っていく可能性がある」ということです。
また、母乳をあげているお母さんにもミルクを一律に配布すると、赤ちゃんが飲む母乳の量が減る可能性があるだけでなく、ミルクが本当に必要な赤ちゃんに十分な量が行き渡らなくなることもあります。むしろ授乳中のお母さんには飲食物など代わりのものを渡す方法もあるといいます。
周りの人は、お母さんが安心できるよう、いつどこでもおっぱいをあげていていいんですよ、と温かく見守ることが必要です。
「水で調乳」→「カイロで温める」はダメ!
ミルクをあげている場合、避難所では哺乳瓶の乳首の部分が十分洗えないということがあります。そんな時は、使い捨て容器を利用しましょう。紙コップを使って飲ませる方法もあります。
災害時には感染症防止のため徹底的な衛生管理が必要です。水道が使える場合も、トイレ以外の清潔な場で調乳します。粉ミルクは70度以上で調乳すると殺菌ができます。水で調乳しカイロで温めるという不適切な情報が流布していたことがありますが、それでは粉ミルクの中にいる菌が増えるリスクを伴うのでやめましょう。

「液体ミルク」こんなことに注意
最近、液体ミルクの販売が始まりました。その取り扱いの注意点です。
①均等の濃度で飲めるよう、よく振ってください。
②手をよく洗うか消毒して、開け口に手がふれないように気して清潔な容器に移して飲ませます。
③飲み残しはすべて廃棄。
夏場の温度管理には十分気を付けましょう。液体ミルクは常温で保存ができますが、夏はすぐに高温になることもあります。被災地外から救援物資として液体ミルクを送ったり、運んだりするのは控えたほうがいいでしょう。輸送中の車の中が高温になる危険性があります。
それまでの授乳の状況に応じて、赤ちゃんは一人ひとりのミルクの必要量が違います。優先的に必要な赤ちゃんに十分な量を渡し安全に使ってもらうためには、現地でのアセスメントと丁寧な説明が必要です。

ふだんミルクを飲んでいる赤ちゃんは、水が使えないときのために、自宅で調乳用に多めの水と卓上のカセットコンロの予備、または数日分の液体ミルクを備蓄し、使い捨て容器を準備しておくと安心です。
災害時でも、いつも通りの子育てを続けられるかどうか。赤ちゃんに限らず、子どもの遊び場を作る、絵本を読む場所を作る、親どうしが相談しあえる交流会をもよおすなど様々な工夫が考えられます。
大人よりストレスを感じやすく言葉で表現しにくい赤ちゃんや子どもをどう守るか…。できることを考えて備えることが必要です。
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