災害列島 命を守る情報サイト

これまでの災害で明らかになった数々の課題や教訓。決して忘れることなく、次の災害に生かさなければ「命を守る」ことができません。防災・減災につながる重要な情報が詰まった読み物です。

地震 避難 教訓

わが子のミルクとおむつはどこに?そして生理が始まった

「私の手の中で死なせたらどうしよう」

それは生後4か月の息子の乳幼児健診を受けていた最中に突然、始まりました。2011年、20歳だった女性の体験です。

目次

    着の身着のまま

    2011年3月11日14時46分。

    宮城県石巻市の杉山歩夢さん(32)にとっては、着の身着のまま、1か月あまりに及ぶ長期避難の突然の始まりでした。

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    杉山さん
    「あの日、医師会館で息子の検診を受ける順番が来て、裸でベッドに乗せた瞬間に地震が起きました。一緒に来ていた母親と弟と車で逃げたんですが、津波で自宅が被災して行き場がなくなってしまい、3日目までは持っていた粉ミルクを薄めて飲ませるしかありませんでした。私の手の中で死なせてしまったらどうしようと不安でしかたがなかったです」
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    東日本大震災 その次の日から…

    しばらくの間、ミルクやおむつを探しながら、病院や高校の教室などの避難先を家族で転々としたという杉山さん。
    「子どものことで精いっぱいで、自分のことに構う余裕は全くなかった」と振り返りますが、女性として気がかりなこともありました。

    杉山さん
    「震災の次の日から生理になってしまって。ナプキンを分けてもらったりトイレットペーパーで代用したりして、汚れたらすぐに取り替えるようにしていましたが、漏れてしまって衛生面が気になりました。震災から1週間ほどたって高校の避難所で過ごすようになり、生理用品が手に入るようになったのですが、当時は一か月ぐらい着替えもできませんでした。ぜいたくは言えませんが、そんな状態で生理が来ちゃうと大変でした」

    性別による困難や不安「あった」女性の約6割

    多くの人たちが長期の避難生活を余儀なくされた東日本大震災。NHKが先月2日から7日にかけてインターネットで行ったアンケートで改めて浮き彫りになった課題のひとつが「避難所での女性への配慮」でした。

    岩手・宮城・福島の沿岸と原発事故による避難指示が出された地域に住む20代から50代の1000人から回答があり、避難所に避難した人は3分の1の334人でした。

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    このうち、さらに性別による困難や不安が当時の避難生活であったかどうかたずねたところ、「あった」「どちらかと言えばあった」と答えた人が
    ▼女性は59%にのぼり、
    ▼男性の44%より15ポイント高くなりました。

    子どもの泣き声に

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    困難や不安の内容を複数回答で聞いたところ、
    女性では、
    ▼「着替えのスペースが確保されていなかった」が最も多く63%、
    ▼「支援物資に必要なものが少なかった」が52%、
    ▼「下着を干す場所がなかった」が38%、
    ▼「男女別のトイレがなかった」が19%、
    ▼「授乳など子育てスペースがなかった」が17%でした。

    自由記述で多かったのが生理や着替えに関する不安の声で、「断水で水が流れないトイレは生理中はとても気を使った」とか、「車の中で着替えるしかなかったから丸見えでした」といった回答がありました。

    また、「下着を盗まれた」とか、「子どもが0歳でよく泣いていたので、周りがいらだったり迷惑がられたりした」といった声もありました。

    震災から12年 女性だけの自主防災組織も

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    こうした被災者の体験から、静岡県掛川市の南郷地区では2013年、地区の女性およそ30人による「女性自主防災会」を立ち上げました。

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    地区ではまず女性向けの物資を保管する防災倉庫を準備しました。乳児のための粉ミルクや哺乳瓶、それに生理用品など女性に必要な備蓄品を保管しています。/

    さらに東日本大震災の被災者から「避難所で赤ちゃんが泣き続けてどなられたりした」という話を聞いて、妊婦や乳幼児がいる家庭専用の避難所も開設することにしています。

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    南郷地区で女性自主防災会を立ち上げた落合満江さん(78)
    「最初の頃は区の女性たちに参加してもらうことに苦労しましたが、被災者の話を聞いて女性の自主防災組織が絶対に必要だと思って取り組みを進めてきました。必要性を理解してもらうまでが大変だと思いますが、今後も活動を続けてより広がっていってほしいです」

    妊婦や子連れの避難はホテルへ ためらわないで

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    大阪・泉大津市では、市内の2つのホテルと協定を結び、妊婦や乳幼児がいる家庭を客室などで受け入れることにしています。ことし1月には実際にホテルに避難する訓練を初めて行い、9組の家族が参加しました。

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    訓練は1泊2日の日程で行われ、ホテルの広間では、
    ▼女性防災士が避難する際に持参すべき品物を説明したり、
    ▼地元の消防署の職員が幼い子どもに見立てた人形を使って心臓マッサージの方法を教えたりする時間も設けられました。

    子どもが泣いたり、歩き回ったりする場面もありましたが、保護者はだっこしてあやしながら参加していました。

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    生後6か月の長男を連れて夫婦で参加した戸祭聡さん
    「ふだんと場所が違うので子どもはなかなか眠らなかったですが、やはり一般の避難所だと子どもの泣き声や排せつなどで周りに迷惑をかけることもあるので避難を遠慮するかもしれないと思います。ここは、同じ子ども連れどうしで避難できるので、積極的に利用したいです」

    女性だけではない

    東日本大震災のあと国は避難所の運営などで女性の意見を聞くよう求めるガイドラインを作っています。一方で、内閣府の調査では、全国およそ1700の市区町村のうち、おととしガイドラインを活用した職員の研修や訓練を行った自治体は8%にとどまっています。

    防災とジェンダーの問題に詳しい静岡大学の池田恵子教授は、対策が進んできていると一定の評価をした上で次のように話しています。

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    池田教授
    「ガイドラインができても、それを実行していくのが男性ばかりだと、やはり女性の視点は漏れていきがちになってしまいます。災害時に大変なのは男性も同じですが、それでも女性に注目すべきだと考えるのは、高齢者や乳幼児、けがをした人のケアをしているのは、女性が多いという現状があるからです。女性がしっかりと声を出していくことによって、家族全員、お母さんもお父さんもおじいちゃんもおばあちゃんも赤ちゃんも、避難生活の中での困難が減っていき、質の高い災害対応ができていくというところにつながっていくと思います」

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