東京で噴火再び!? その時、どうする…
「お年寄りを運ぶ救急車が列をなしていた。あの光景を思い出すと今でも胸が締めつけられる」。今から32年前、東京・港区に避難していた人の言葉です。避難した理由は、東京にある『火山の噴火』でした。しかもこの火山、近い将来、『再び噴火する』可能性が指摘されているのです。日本にある活火山は111。いざ噴火すると、影響は火山周辺だけでなく、都市にも及んでくるのです。
(社会部記者 頼富重人)
2018年11月放送のニュースで紹介された内容です
目次
伊豆大島噴火・1万人が島外避難
11月15日、私は、東京・竹芝桟橋から船に乗り込みました。向かったのは、約100キロ南にある伊豆大島です。自然に囲まれ、潮の香りが漂う穏やかな島。
32年前、この島で異変が起きました。
昭和61年11月15日。伊豆大島の中央部にある「三原山」が噴火しました。でも、最初は、人家から離れた場所だったのでそれほど危機感はなかったそうです。
山頂から噴き出す赤いマグマに人々は魅了され、むしろ、多くの観光客が訪れたのです。
ところが、6日後、状況が急変します。11月21日の夕方、強い揺れを伴う地震とともに、火口ではない場所に大きな割れ目ができ、突如、マグマが噴き出したのです。
高さ数百メートルに達するマグマのカーテン。噴火は人々を「魅了」するものから、「恐怖」を与えるものに変わっていました。
さらに割れ目噴火は拡大、流れ出した溶岩は島最大の集落、元町地区の住宅地に近づきました。 火山の専門家は、別の場所でも噴火が発生する可能性を指摘。大島町は住民全員の島の外への避難を決断します。
島外への避難は民間の客船や海上保安庁の船などで行われました。当時約1万人いた住民は、火山活動の急変からわずか半日余りで島外へ避難し、東京23区の避難所などで1か月間生活しました。
1万人もの緊急避難で受け入れ側は大変なことに。
東京・港区のスポーツセンターには約2000人が避難。受け入れの定員を500人もオーバーし、当然のことながら生活環境の悪化が課題となりました。
特に体調を崩したのが高齢者で、命の危険にさらされた人もいました。当時小学生で、ここに避難した40代の男性は、「1人当たりのスペースが狭く間仕切りも無い環境で雑魚寝の状態だった。避難が長引くにつれてお年寄りが毎日のように体調を崩して救急車で運ばれていた。今後の噴火で再び同じ事が起きるのではないかと不安だ」と話していました。
32年 懸念される次の噴火
伊豆大島は、実は、周期的に比較的規模の大きな噴火を繰り返しています。おおよそ30年に1度の周期。全島民が避難した噴火から32年がたち、周期から考えるといつ噴火してもおかしくありません。
今の火山活動は?
私は、東京大学地震研究所の森田裕一教授の現地での観測に同行しました。山頂付近では32年前の噴火による溶岩が生々しく残り、噴気が出ているところもありましたが、一見穏やかそうに私には、見えました。
でも、長年、観測を続けている森田教授の見解は違いました。
「穏やかに見えるが、地下では着実に次の噴火に向かっての準備がされている」
森田教授は今は直ちに噴火する兆候は見られないと前置きしたうえで、「島の膨張は続いていて、地下には32年前の噴火で噴出されたものと同程度の量のマグマが蓄積されている」と指摘しました。
「次に迫る噴火の予兆をいち早く捉えたい」
森田教授のグループは、今回新たに、地下のマグマから放出される火山ガスを計測する機械を山頂の火口付近に設置していました。
噴火すると都市に影響
伊豆大島が再び噴火し、仮に全島民の避難が必要になった場合の都市への影響は?
私が着目したのは「高齢化率」です。
伊豆大島は、65歳以上の高齢者は2939人、高齢化率は37%余りでした。東京23区の21%余りを大きく上回ります。(東京都まとめ)
32年前に1万人余りいた住民は、10月末の時点で7700人ほどに減少しましたが、65歳以上の高齢者の数が増え急激に高齢化が進んでいたのです。
伊豆大島 高齢化の現状は
高齢化に着目し、大島を歩いてまわると、1人で暮らしているお年寄りや自宅で介護をしている家庭が実に多いことに気づきます。
そのうちのひとり、坂上モンさん(96)です。32年前は64歳。当時は、なんとか自力で移動し、船で島の外へ避難しました。でも100歳を前にしたいまは、1人での避難は無理です。
近くには息子の長一さんが暮らしていますが、長一さんも70歳。若者が減る中で多くのお年寄りが無事に避難できるか危機感を感じていました。
「高齢化で、高齢者が高齢者を助ける構図。港までどのように高齢者を連れて行くのか、避難しても前回の避難所のようにごろ寝というわけにもいかず、多くの高齢者に対応できるのか心配です…」
島には特別養護老人ホームもあります。入居しているのはほとんどが車いすが必要な人やベッドに寝た状態の高齢者。32年前は都内の医療福祉施設に空きがあり全員で避難できたそうですが、今は空きがある受け入れ施設は少ないということです。
東京都はどう考える?
32年前に比べて高齢化が進んでしまった伊豆大島。東京都は、どう受け入れようと考えているのでしょうか。
当初、私が取材した際には、「32年前や平成12年の三宅島の噴火などで急きょ受け入れ先を探し、比較的スムーズにできたので、次も可能だと思う」との回答。あまり課題に感じていない様子でした。
支援が必要な人については、社会福祉協議会を通じ、複数の老人ホームなどの空きを探して受け入れるということでした。
本当に、大丈夫なのか…。大島で取材して感じた現場の実態と役所の温度差。改めて都に取材を申し込んだところ、高齢社会対策部の坂田早苗計画課長が、代表して応じてくれました。
坂田計画課長は、現場の実情に理解を示してくれたうえで、「入居の状況が変わりますので事前に避難先を決めるのは難しいですが、大島町と協力してどのような支援ができるのか調整したいです」と話し、課題の解決に向けた検討を約束してくれました。
課題は全国共通
3年前には鹿児島県の口永良部島で、2000年には伊豆諸島の三宅島で噴火に伴って住民が島の外へ避難しました。
いずれも長期化し、口永良部島では約7か月、三宅島では約4年半も避難が必要になりました。長期間にわたる避難生活。2011年の東日本大震災や2016年の熊本地震などでも多くの高齢者が避難生活の中で体調を悪化させ亡くなりました。
避難の在り方に詳しい東京大学大学院の田中淳教授は次のように指摘しています。
「噴火に限らず、大規模な災害が起こればどこでも起こりうる問題だ。緊急時の避難者の受け入れは市町村だけでは計画が難しい。高齢者などの新たな避難の在り方を含め、国を挙げての抜本的な議論が必要だ」
本来、災害による危険を避けるために行うはずの避難行動により体調を悪化させることは大変悲しいことです。行政の財源も限られる中でどのように円滑に避難できるようにするのか。災害が起きる前に、知恵を絞っておく必要があるのではないでしょうか。
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