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猛暑 支援 教訓 知識

エアコンを使わない高齢者

危険な暑さが続く夏、自宅にエアコンが設置されているにも関わらず、それを使わないで高齢者が熱中症で死亡するケースが相次いでいます。ネットでは「高齢の親はエアコン嫌い。めったにつけない」といった声が。命の危険にもつながるこうした状況をいったいどうすればいいのか、探りました。

目次

    熱中症 エアコン使わず死亡相次ぐ

    2018年7月23日、三重県松阪市の住宅で倒れた80代の女性。病院に運ばれましたが、熱中症で死亡しました。
    救急隊員が家族から話を聞くと、死亡した女性は、ふだんからエアコンや扇風機を使っておらず、搬送された時も、冷房は使われていなかったということです。

    2018年夏、こうした家にある冷房を使わないで、高齢者が熱中症で死亡するケースが相次ぎました。

    「高齢者が冷房を使わない」という声は、SNSにも相次いでいて、例えばツイッターには、「高齢の親と同じ部屋で寝てるけど、エアコン使うと寒すぎると言われ扇風機(を使っている)」といった書き込みがありました。

    また、介護施設でもエアコンの風があたると高齢者からは「寒い」や「肌が痛い」といった声が聞かれるということです。

    節電意識も

    高齢者がエアコンを敬遠する理由はほかにもあるようです。

    民間のシンクタンクの「みずほ情報総研」が平成26年に東京電力管内に住むおよそ960人を対象に行った節電に関する調査。

    「エアコンを使わず、うちわや扇風機を使うなど節電を意識した行動をとっている」という人は、20代が18%、30代から50代は30%前後だったのに対して60代では35%、70代では39%と年齢が上がるにつれて、節電意識は高まる傾向が浮き彫りに。

    また、年齢が高い世代ほど古いエアコンを使っている割合が増えていることも背景にあるようです。

    エアコンの所有年数をみると、15年以上前の製品を使っている世帯は20代から30代では5%から7%。
    これが年齢が上がるにつれてその割合は増え、50代以上ではおよそ20%を占めるようになります。

    みずほ情報総研は「古いエアコンは省エネ性能が低く、電気代を安くするには買いかえたほうがよい。ただし、買いかえたいと思ってもエアコンの本体価格が高く、高齢者には手が出しづらいのではないか」とコメントしています。

    エアコンの賢い使い方は

    こうした理由から使用を控える人も多いエアコン。ちょっとした工夫で効率的に使うことができると専門家は指摘しています。

    消費生活アドバイザーの和田由貴さんによりますと、外から帰ってきたときは、エアコンをつける前にまず、窓を開けたり換気扇を回したりして、部屋にこもった空気を外に出すことが大切だということです。

    エアコンから出る冷たい風を部屋全体に行き渡らせるために風向きは「水平」に、風量は「自動」に設定すると効率がいいということです。

    また、設定温度は変えなくても、風量を強くすると体感温度を下げられるほか、扇風機と併用することで、冷たい空気を循環させることができると指摘しています。

    さらに、室外機の吹き出し口をふさがないようにすだれやカバーなどで覆うと、直射日光が当たらず熱を排出しやすくなり効率的な運転につながるということです。

    このほか、外出する際にカーテンを閉めて直射日光が部屋の中に入らないようにすることや、炊飯器や電気ポットなどの保温機能の電源を切っておくことも効果的だとしています。

    「効率的に使えばエアコンは思ったよりも電気代はかかりません。使用を我慢して体調を崩すようなことがあってはならないので、無理をせず快適に過ごしてほしい」と和田さん。

    無料の「避暑シェルター」

    高齢者を中心に無料で暑さをしのいでもらおうという対策も始まっています。
    東京・品川区では、空調の効いた公共施設に冷たい飲み物やおしぼりを置いて無料で暑さをしのげるスペースを夏場に設けています。

    その名もずばり「避暑シェルター」。シルバーセンターや児童センターなど63の公共施設にはのぼり旗を立てて、家に引きこもりがちな高齢者や子育て世代の親子などに利用を促しています。

    品川区総務課の米田博課長は「体がつらくならないよう、遠慮なく施設の中に入ってシェルターで涼んで休んでほしい。体調面で困ったことや不安なことがあれば、気軽に職員に声をかけてほしい」と話しています。

    また、暑さで知られる埼玉県熊谷市の高齢者むけ地域交流センターでは通常200円かかる入館料を暑さの厳しい7月と8月は無料にして開放。入浴が楽しめるほか冷たい飲み物も用意されています。

    センターを運営する社会福祉法人熊谷福祉会はなぶさ苑の小林唯史さんは「連日、熊谷は異常な暑さです。日中涼しいセンターで体を休めてくつろいでほしい」

    エアコンが「寒い」「痛い」

    それでも高齢者がエアコンを「寒い」とか「痛い」と感じていれば苦痛でしかありません。そもそも高齢者はなぜ、エアコンに苦痛を訴えるのでしょうか?

    高齢者と熱中症の問題に詳しい医師で、近畿大学の小島理恵准教授によりますと、「高齢者がエアコンの風を『痛い』と感じる理由を説明する文献は見つかりませんでしたが、熱中症で搬送された高齢者からそうした声を聞くことはあります。

    一方『寒い』と感じるのは、高齢者の温度を感じる機能や体温を調整する機能が衰えてきて、気づいたときには冷えすぎているのに加えてエアコンの風が直接当たっていることが考えられます」と指摘しています。

    苦痛を和らげる対策は

    高齢者が集まる介護の現場では少しでも苦痛を和らげるような配慮をしています。

    福岡県古賀市にある高齢者の介護施設、「ひより茶屋」では、日中はおよそ15人、夜間は施設に宿泊するおよそ10人の高齢者が施設を利用しています。

    一軒家を改装して施設にしていて、窓のすきまなどから外の暖かい風が入ってくるためにエアコンの日中の温度は目安とされている28度より低い26度に設定して過ごしやすい環境を保とうとしています。

    しかし、エアコンの風向きが下になって人に風があたると高齢者からは「痛い」などと苦情が出るために直接、あたらないよう風向きを「水平」に固定するようにしています。

    そしてサーキュレーターという扇風機のような機械を使って空気をさらに循環させて、部屋全体の温度をまんべんなく下げるようにしています。

    見守りエアコンも

    エアコンメーカーでも熱中症対策につながる製品を開発。例えば「三菱電機」では、室温が28度以上になったときに自動的に運転を始める、「見守り機能」を搭載したエアコンを発売しています。

    周囲にできることは

    高齢者や周囲にいる人たちはほかにどういうことができるのでしょうか。

    自宅など高齢者の見える場所に温度計を設置して、室温を数字で確認してもらうのも有効。(近畿大学の小島准教授)

    「例えば、28度を超えそうであればエアコンをつけるなど、自分の感覚に頼らないで、適切な室温にすることを知ってもらうと同時に水分補給をすることも大切。また高齢者本人に任せるのではなく家族や介護に関わる方など、エアコンの管理をできる人がこまめに見てあげることもとても重要です」

    「災害」とも言われる猛暑。命綱とも言えるエアコン使用法の一助になれば幸いです。


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