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地震 想定

千島海溝 巨大地震 切迫の可能性高い 地震調査委

政府の地震調査委員会は北海道の沖合の「千島海溝」で今後、「マグニチュード8.8程度以上」の巨大地震が起きるおそれがあるとする新たな評価を公表しています。こうした地震は過去に350年前後の間隔で発生し、前回からすでに400年程度経過していることから、次の巨大地震が切迫している可能性が高いとしています。

この情報は2017年12月に公表されました

目次

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    規模・確率を新たに評価

    北海道沖の海底にある「千島海溝」では、昭和48年6月の「根室半島沖地震」や平成15年9月の「十勝沖地震」など繰り返し大きな地震が起きています。

    政府の地震調査委員会は、最新の研究結果などをもとに、「千島海溝」で今後発生すると想定される地震の規模や確率を新たにまとめ、公表しました。

    想定される震源域は、千島海溝沿いの「十勝沖」と「根室沖」、それに北方四島がある「色丹島沖および択捉島沖」で、複数が連動した場合、マグニチュードは「8.8程度以上」の巨大地震となり、今後30年以内の発生確率は7%から40%と想定されています。

    この想定は、北海道東部で行われた、過去の大津波で海底から内陸に運ばれた砂などの「堆積物」の調査結果から導き出されましたが、こうした巨大地震は、千島海溝のプレート境界で過去に平均で350年前後の間隔で発生してきたと推定されています。

    「堆積物」の調査からは、前回の地震は17世紀に起きたとされていて、すでに400年程度経過していると考えられることから、政府の地震調査委員会は「北海道東部に大津波をもたらす巨大地震の発生が切迫している可能性が高い」としています。

    地震調査委員会の委員長で、東京大学地震研究所の平田直教授は「6年前の東北沖の巨大地震のような地震が起きる可能性が高く、津波などに十分注意してほしい」と話しています。

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    新たな評価のポイント

    政府の地震調査委員会は、「千島海溝」の地震の長期評価を前回は平成16年に公表していて、今回は13年ぶりの見直しとなります。

    前回の評価では、北海道東部に巨大津波をもたらす地震について、「十勝沖」と「根室沖」の地震が連動して発生し、マグニチュードは最大で「8.3程度」と想定していました。

    一方、今回の評価では、6年前の東日本大震災を教訓に、海底から内陸に運ばれた砂などの「堆積物」の調査結果から、北海道東部の十勝地方と釧路地方、それに根室地方では、400年ほど前の17世紀に、現在の海岸線から最大で4キロ内陸まで浸水する巨大津波が発生していたと推定されることから、前回の評価を大きく上回る巨大地震が起きた可能性があるとして、想定されるマグニチュードを「8.3」から「8.8程度以上」に見直しました。

    また、震源域についても、前回評価した「十勝沖」と「根室沖」に加え、今回は北方四島がある「色丹島沖および択捉島沖」を追加し、この複数が連動して巨大地震が発生する可能性があると評価しました。

    ただ、北方四島については、「堆積物」の調査が進められている最中だとして、今後の調査の結果によっては想定される地震の規模がさらに大きくなる可能性があるとしています。

    「津波堆積物」をめぐっては、東日本大震災が起きる前に東北の沿岸部で行われた調査で、過去に巨大津波が起きていたことを示す痕跡が見つかっていたにもかかわらず、具体的な防災対策に生かされなかったことから、政府の地震調査委員会は、今回、最新の調査結果を取り込んだうえで、「現在の科学で考えられる最大の地震を評価した」としています。

    千島海溝 ほかの地震の評価

    今回の評価では、「千島海溝」で起きる「マグニチュード8.8程度以上の巨大地震」以外についても、地震の発生確率や規模の見直しを行っています。

    十勝沖

    このうち十勝沖では、過去およそ170年間にマグニチュード8.0以上の地震が3回起きていて、昭和27年3月にはマグニチュード8.2の巨大地震が発生し、北海道厚岸町で6.5メートルの高さまで津波が押し寄せました。また、平成15年9月にもマグニチュード8.0の巨大地震が発生し、北海道東部で震度6弱の揺れを観測したほか、北海道えりも町で4メートルの高さまで津波が押し寄せました。

    前回の評価では、マグニチュードを最大「8.1前後」と想定していましたが、さらに広い範囲が動く可能性があることなどから、今回は「8.6程度」に引き上げました。今後30年以内の発生確率は「7%」で変わっていません。

    根室沖

    根室沖では、過去およそ170年間にマグニチュード7.4以上の地震が3回起きていて、このうち、昭和48年6月に起きたマグニチュード7.4の「根室半島沖地震」では、津波の高さは根室市花咲で2.8メートルに達しました。

    前回の評価ではマグニチュードを最大で「7.9程度」と想定していましたが、「十勝沖」の評価と同じ理由で今回は「8.5程度」に引き上げたうえで、今後30年以内の発生確率も「60%程度」から「70%程度」に見直しました。

    色丹島沖および択捉島沖

    一方、「色丹島沖および択捉島沖」では過去およそ120年間にマグニチュード7.3以上の地震が合わせて5回起きていて、このうち、昭和38年10月にはマグニチュード8.1の地震が発生し、択捉島で津波が高さ4メートルまで押し寄せました。

    前回の評価では、マグニチュードを、いずれも最大で「色丹島沖」が「7.8前後」、「択捉島沖」が「8.1前後」と想定していましたが、今回は2つの領域を区別せずに評価した結果、「マグニチュード8.5前後」の地震が、今後30年以内に60%程度の確率で起きるという想定に見直されました。

    このほかの地震

    このほか、今回は千島海溝のプレート境界で起きるマグニチュード7.5程度の「ひとまわり小さい地震」や、陸側のプレートの下に沈み込んでいる海側のプレートの内部で起きる地震についても評価していて、このうち、沈み込んだプレート内のやや浅いところで起きる地震については、マグニチュードが8.4前後、今後30年以内の発生確率は30%程度と想定されています。

    専門家「想定外なくす」

    政府の地震調査委員会の委員で津波防災に詳しい、東北大学の今村文彦教授は、今回、評価が公表された「千島海溝」について、「これまでの研究成果から、巨大地震が起きると、北海道では東日本大震災と同じように20メートルを超えるような津波が広い範囲で起こる可能性が高い。また、海溝沿いにある東北北部でも大津波のおそれがある」と指摘しています。

    そのうえで、今村教授は「『千島海溝』で起きる巨大地震と津波はこれまで考えられていたよりも切迫性が高いとみられる。今回の評価は、東日本大震災のような『想定外』をなくすため震災から6年余りにたって科学的な知見を総動員して出した結果だ。今後、国が公表する予定の津波の高さや到達時間の予測を活用し、命を守るための避難計画を具体的に検討してほしい。避難に車をどの程度使うかや避難ビルをどう整備するのか、といった課題に行政だけでなく、住民も具体的に向き合い、備えを進めてほしい」と話しています。

    防災相「被害想定まとめる」

    小此木防災担当大臣は閣議のあとの記者会見で、「巨大地震に対する防災対応を検討するためには、まず、想定すべき最大クラスの地震や津波を決める必要があり、有識者からなる検討会で検討を進めているところだ。今後、被害想定や新たな防災対策を検討しなるべく早く結果を取りまとめたい」と述べ、国として被害想定などの取りまとめを急ぐ考えを示しました。

    海溝型地震 6領域で確率を評価

    政府の地震調査委員会は、日本列島周辺で海のプレートが陸のプレートの下に沈み込んでいる「海溝」や「トラフ」で起きる「海溝型地震」について、防災対策に生かしてもらうため、発生するエリアや規模、それに確率を評価しています。

    対象となっている領域は、「千島海溝」と日本海溝がある「三陸沖から房総沖」、「日本海東縁部」、「相模トラフ」、「南海トラフ」、それに「日向灘および南西諸島海溝周辺」の6つです。

    いずれも平成16年までに評価をすべて公表しましたが、6年前の東北沖の巨大地震を受けて見直しを進め、平成25年に「南海トラフ」、平成26年に「相模トラフ」を新たに公表していて、今回の「千島海溝」が3つめになります。

    このうち「南海トラフ」については、「東南海地震」や「南海地震」など想定される震源域ごとに評価していましたが南海トラフ全域で規模や発生確率を評価するように見直し、マグニチュード8から9の巨大地震が、今後30年以内に60%から70%の確率で発生するとしました。

    また、「相模トラフ」についても想定される最大のマグニチュードを「8.1」から「8.6」に引き上げたほか、今後30年以内に発生する確率については、それまでの「ほぼ0%から最大2%」を「ほぼ0%から最大5%」に見直しました。

    地震調査委員会は、このほかの領域についても今後、評価を見直すことにしています。

    北海道庁「いつ地震起きてもいいように備えを」

    北海道危機対策局の森弘樹局長は「今回公表された数字は北海道としても非常に重く受け止めており、いつ地震が起きてもいいように備えをしていかなければならないと考えている。今後、国の津波の浸水域想定の見直しに合わせて、道でも見直し作業を進めていきたい」と述べました。
    そのうえで、「日頃からの備えがいちばん大切なので、市町村と連携して住民への周知を徹底するとともに、来年度以降、どういった訓練をしていくか考えていきたい」と話していました。

    北海道東部の太平洋に面した釧路市の中山朗生防災危機管理監は「冷静に受け止めている。これまでにも多くの地震や津波を経験してきたので、行政を含め市民は『大きな地震や津波がいつ起きるかわからない』という危機意識は、常に持っていると思う。東日本大震災以降、避難所機能を持つ防災庁舎を建設するなど対応をしているのでこれからも進めていきたい」と述べました。
    そのうえで「国や北海道が今後まとめる地震や津波被害の新たな想定をもとに、今の津波対策や防災計画を見直して計画的に対策を展開したい」と話していました。


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