2023年02月03日
(聞き手:小野口愛梨 芹川美侑)
ソラシドエア初の女性機長、上條里和子さん。「パイロットになる」という幼いころに抱いた夢は、大学時代に「好き」を突き詰めたことで明確な「目標」へと変わったといいます。
上條さんの経験から「好き」を「仕事」にするためのヒントを探りました。
パイロットになりたいと思ったきっかけは何だったんですか。
父がパイロットで飛行機に乗る機会が多かったんです。
小さいころはコックピットに入ることができたんですが、その時見た景色が忘れられなくて。
物心ついたころには「ここが私の居場所だ」というか「ここに戻ってきたいな」っていう気持ちが芽生えていました。
じゃあ、ずっとパイロットを目指して勉強されていたんですか。
全然!高校でその先の進路を考えた時に、ずっと「パイロットになりたい」と言い続けてきたけど、本当のところどうなのかなと考え始めました。
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それで「ただ飛行機が好きなだけ」なのか、「飛行機に携われる仕事だったら何でもいい」のかを確かめるためにとことん飛行機漬けの大学生活にしてみようと思ったんです。
まずは学問として飛行機を勉強することにして、東京都立大学(当時は首都大学東京)の航空宇宙システム工学コースに入学しました。
パイロット 上條里和子さん
大学卒業後、日本航空に入社するも、1年で会社が経営破綻。それでも夢を諦めず、航空大学校に入学。2014年に宮崎空港に本社を置くソラシドエアに入社し、2022年にソラシドエア初の女性機長に。
部活は「鳥人間部」に入部しました。
パイロットとして人力飛行機をこぐのはちょっときつかったので、私は部長としてチームをマネジメントしながら、みんなで機体を作って鳥人間コンテストに出場していました。
あともう1つ、「航空部」という部活にも入っていて、ここではパイロットとしてグライダー(滑空機)を操縦していました。
まさに飛行機漬けですね!
気象や航空法の勉強をしたり、機体の整備やフライトの管理もできるところは全部学生がやるので、パイロットの他にどんな仕事があるのかも知ることができました。
全部自分たちでやるからこそ、自分のミスが自分だけではなく、仲間の命を奪ってしまうかも知れない空の厳しさも学びました。
ほかにも、滑走路までグライダーをみんなでワッセワッセって押していく時のチーム感だったり、いろいろなことを経験しましたね。
それで飛行機を飛ばすためにみんなで協力するのって、すごく素敵だなって思ったんです。
いろいろな役割がある中で、やっぱりパイロットがいいなと思われたんですか?
そうですね。グライダーで飛ぶ楽しさを知ったのも大きかったですが、決め手は鳥人間部での経験だったと思います。
鳥人間コンテストではボートに乗って下から無線で呼びかける役割をやっていたんですけど、機体が飛び立つと、声をかける以外にもう何もできないんですよ。
下にいる人もパイロットと同じ気持ちで頑張れって思ってるんですけど、1年分の汗と涙がしみこんだ機体をどうにかできるのはパイロットだけなので、それだけ信頼できる人に託します。
自分の思いをパイロットに託した時に、私も託してもらえる人間になりたいなって思ったんです。
仲間に思いを託されることにやりがいを感じて、「パイロットになる」という夢が、お客様の思いを乗せる「旅客機のパイロットになる」という目標に変わりました。
なりたいって口に出すのってちょっと勇気が必要な気がします。
そうですね。私も大学で航空工学について学びたいってことを伝える時、ちょっと勇気がいりました。
当然、自分と向き合って決めたことなんですけど、「決める」ってちょっと怖いですよね。
はい。
本当にそれでなりたい職業に就けるのかな、意味がなかったらどうしよう、とか考えると思うんですけど、それでもまず、進んでみるのが大事だと思います。
1つのことを、とことん自分なりにやり詰めると頑張り方がわかると思うんです。
そうすると、次に新しいものが見つかったときにも頑張れるんですよ。
ちょっと勇気はいると思うんですけど、目標を口に出すこと、誰かに言うことは大事だと思います。
上條さんも口に出したことで変わられたんですか?
私の場合は「パイロットになりたい」って言い続けていた手前、引っ込みがつかなくなった感じです(笑)
あまり周りに否定されることはなくて、みんな、もはやなるもんだくらいに思ってくれていたので、苦しいときも、応援してくれている人のためにもふんばろうって思えました。
扉って叩いてみないと開かないというのが私の持論なので、もっと楽に、まず1歩踏み出すことが大事だと思います。
パイロットになる夢をかなえたあと、機長にもなられたわけですが、いま、機長として心がけていることはありますか?
最終的な責任を負うのは機長の自分だけど、託す側にも勇気って必要なんです。
だから、みんなが自由に意見を言えるような環境づくりは常に意識しています。
地上にいる時から、廊下ですれ違うときに笑顔で挨拶するとか、そういう基本的なことにも気をつけていますよ。
機嫌悪いのかな?とか思われてしまったら、それだけで大切な情報が共有できなくなったりするので。
飛行機は一度飛び立つと立ち止まって考えることができないので、限られた時間で確実に情報共有ができるチームであることが大切なんです。
責任を負うって、私なら不安に思ってしまいます。
もちろん重責はあるんですけど、私にとっては、嬉しい気持ちが大きいですね。
航空の仕事はよくリレーに例えられますが、お客様がチケットを買うところから、飛行機に乗って目的地に到着するまで1人1人が業務をこなしてバトンをつないでいくんです。
その感覚が快感なんだと思います。
飛行機が出発するときに地上の方が手を振ってくれるんですけど、その姿を見ると、学生時代に自分が託す側だった時の思いを思い返したりして、「いま、託されたな」って思います。
自分のできることをしっかりやりきってバトンをつなぐところが結果的に責任を負うことにつながっているのかなって。
こんな機長になりたい、という理想はありますか。
一日を通して、機内では客室乗務員を含めて6人のクルーで動くことが多いんですけど、一番目標にしているのは、みんなが常に笑顔でいられるようにすることです。
明るい気持ちが心の余裕となって有事に備えることができると思っているのでその心の余裕がある状態をみんなにつくることができればと。
もちろん、みんなが楽しく働けるように、ということでもあります。
あと自分のキャリアという意味では、ゆくゆくは教官職に就いて、今まで自分が教えてもらったことを後輩に返していけるといいなとも思っています。
最後に、就活生へのメッセージをお願いします。
まず、自分が好きだと思えるものに出会えること自体がすごく素敵なことだと思うので、そう思えるものに出会えたら、まずはとことん「好き」を突き詰めてほしいなと。
社会人になったら好きなことをやる時間をなかなか取れなかったりもするので、学生時代に本当に楽しいと思える気持ちを大切にしてほしいと思うんです。
自分がやりたいことを実現するためには努力が必要ですが、好きだったらとことんできますし、突き詰めたからこそ、本当に自分のやりたいことなのかどうかが見えてくることがあるので。
「なりたい」と思えることが見つかった時に、何か行動を起こすことができるのか、それとも「いいよね」ってうらやましがるだけにとどまるかの差じゃないかと思います。
好きだと思えた時、「やってみよう」って1歩踏み出せるかどうか。
そして、その1歩を踏み出すことができたらその先も怖がらず、とことんやってほしいなって思います。
ありがとうございます。
撮影:梶原龍 編集:谷口碧
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