2022年05月17日
(聞き手:小野口愛梨 梶原龍)
“絶滅危惧種”とも言われ、赤字にあえいだドムドムバーガー。丸ごとカニを入れる、カレイのからあげをはさむ、パンの代わりに分厚いチーズ。個性的なハンバーガーはSNSで話題に。けど、本当のねらいは「映え」ではないそう。社長の藤崎忍さんに経営再建の裏側を聞きました。
ドムドムハンバーガーってどんなお店なんですか。
ドムドムハンバーガーって、もともと全国に400店舗あったんですよ、1990年代には。
日本で生まれて、日本国内ではマクドナルドさんより1年早く販売を始めたバーガーチェーンなんです。
私が入社した時には全国で36店舗くらいでしたけど、日本初のバーガーチェーンで働かせていただけるのは楽しみに思いました。
ドムドムハンバーガー
スーパーのダイエーのグループ会社として設立され、ショッピングセンターの施設内などに展開。その後、経営不振に陥り、2017年に事業再生を手がけるレンブラントホールディングスが買収。店舗は現在27店になり“絶滅危惧種”と呼ばれることもあるが、根強いファンも。
50歳を過ぎて転職されたということで、何か驚いたこととか、困ったことはありましたか。
それはいっぱい(笑)
51歳だから誰も新入社員みたいに教えてくれないわけ。
コピー機をちゃんと使えるようになって、「やった!」みたいな(笑)
ドムドムフードサービス 藤崎忍 社長
専業主婦から39歳で渋谷109のショップに就職。居酒屋を起業しおかみとして働いていたところ、51歳でヘッドハンティングされてドムドムへ。経営再建にあたり、会社は2020年に黒字化。
会社で当たり前のルールとか決裁の仕方、自分がこういう仕事をしたいっていうのを稟議書にあげて、これにお金に出してくださいってしないといけないんだけど。
「稟議書」っていうことばも知らなかったし、本当に分からないことばっかりでしたよ。
入社してどんなお仕事をされたんですか?
入社してすぐ新店舗の店長になって、そのあと4か月ぐらいで東日本16店舗を統括するスーパーバイザーになったんです。
すぐにチャンスが。
チャンスというか、前のお店をみんなに「頑張って!」って言われて送別会を何十回もやってもらって出ているわけですよ。
ここがちゃんと再生してくれないことにはみんなに合わせる顔がないと思って、ちゃんとしなきゃと。
でも、実は不安と不満が蓄積されていたんです。
えっ、そうなんですか。
店長を初めに任されて、何年かぶりに新店を開くっていう初日、結果は散々だった。
商品が足りなくなる、ファストフードなのに30分も40分もお待たせするようになってしまって、「大丈夫かな」と思ったんですよ。
当時、2024年までに100店舗にするって言っていたんですが、このままではまずいなって不安になりました。
たしかに、不安になりますね。
それからスーパーバイザーになって経営会議に出たんですけど、報告がただの数字の羅列なんですよ。
すでにペーパーが配られてるのに、今月の売り上げ高はいくら、前年度比マイナス何%っていうのをずっと言って。
あとは役員が「こういうことをしましょう」って言うと、みんなが「はい」って。
そうだったんですか・・・
何で数字を達成できなかったのか、どうやれば上がるかっていう話をして、こうやりたいからお金出して下さいと、そういう建設的な会話がなかった。
全然意味ないなと思って。
だから、立場からしたら絶対に言ってはいけないことを言ってしまったんです。
「意見を言える立場にしてください!」と、私を会社に呼んでくださった方にお電話したんです。
自分から?
自分から。
別に役員になりたいというよりも、思っていたことをやりたかった。
やるためにかじ取りもしないとだめだと思ったんです。
言われた相手の反応は・・・
「あ、藤崎さん無理ですよ」って言われました(笑)
そう言われたんだけれど、諦めきれなくて。
今度はドムドムの現状とか、こういうふうにやったらいいとか、そんなのを書いてメールしたり、何回も電話したりするわけです。
おー!
今思うと、その書類とか稚拙で全然大したことない。
でも、その情熱がよかったんじゃないかなって。
たしかに!
で、1か月後ぐらいに応接室に呼んでいただいて、「役員になってください」って言っていただいたんですよ。
「やった、頑張ろう!」と思っていたら、「代表取締役で」って言われた時は、イスから転げ落ちそうになりました。
そうですよね(笑)
社長になってから具体的にはどうしたんですか。
入社して9か月の私が社長になるってみんな不安じゃないですか。
まずは私を知っていただいて、信頼を得られることが大事だと思いました。
信頼を得るためには、どうしたんですか。
現場の声を聞くことから始めました。
週に4日から5日は店舗にいて、会社にはほとんどいなかったです。
店舗では何をされていたんですか。
まずはスタッフとのコミュニケーション。
そして、当時は「スーパーバイザー」だったので、店舗の清掃が行き届いているかとか、期限までに消費しなければいけない食材が残ってないかとか。
みんなの勤怠を確認したりもしていました。
社長自ら?
そう。ほかの時間は客席でパソコンを打って、社長業務をしてましたよ。
そうすると、みんなとコミュニケーションがすごく取れるし現場をよく知ることになって、私にとって大事なことでしたね。
カニとかカレイをまるごと入れたバーガーとか、こういう変わったバーガーを作るようになったきっかけはあるんですか。
ドムドムらしさって何なのって知ろうと思ったんですよ。
私どもの店舗って町のスーパーマーケットの中にあることが多くて、売上規模も小さい。
ということは限られたお客様で成り立ってるんです。
そうなんですね。
そこで何かをやっても限られたお客様だけの反応を見て、次の指針を考えることになる。
もっと他の消費者の方からの意見も頂戴できるようにならないといけないと思ったので、いろんなイベントに出店してオリジナルのバーガーを販売することにしたんです。
なるほど。
例えば、幕張メッセで6000人以上を2日間で集める声優さんのライブにキッチンカーを出したんです。
声優の方のイメージカラーがピンクだったので、しば漬けを刻んで入れてピンク色にしたタルタルソースのチキンバーガーを作ったんです。
おぉ!
大反対されたんですけど、すごかったです。売れました。
1日500個売ればいいと思って用意してたのが1000個売れて、だから2日で2000個近く売れたんですけど、それも足りなくなりました。
声優さんのファンの方ってSNSが得意ですから、そういうところ(SNS)の反応も知りたかったんですね。
そういうねらいなんですね。
ピンク色のタルタルソースってちょっとおかしいじゃないですか、けど皆さんが写真撮るんですよ。
こんなの売ってたよってアップすると、お客さんがどんどん来て並んだんです。
すごいですね。
こういうことを繰り返しているといろんなところとつながりができて、アパレルとかコラボもたくさんしましたね。
そうやってドムドムってどういうものなのかって実体験として学んでいくうちに、50年間お客様とスタッフにブランドが守られて今があるんだなと思ったんですよ。
なるほど。
だから私どもが何をするべきかっていうと、そのブランドを育むこと。
その育み方が、「うちのブランドってこういうものですよ」っていうのじゃなくて。
ちょっと大げさなようなんだけれど、消費者の皆さんとスタッフの人生に寄り添って、並走して育むんだって考えをまとめました。
その中で変わったバーガーもどんどん出て・・・
そう、「こうあるべき」っていうのはなくて、何でもチャレンジしていいんだって伝え続けていくなかで、あのカニバーガーとか出てきたんですね。
カニをやりたいって言われた時に私はすごくいいと思って、やろうやろうって言ったんですよ。
そうなんですか。
でも他の役員の方や親会社の方からは、見た目も悪いしこんなの売れるわけないって大反対だったんですよ。
だけど、結果としてロングセラーになってますね。
なんでいいと思ったんですか?
おいしかったから。
カニとかカレイとか、カマンベールなんかもそうなんだけど、奇をてらってるような感じがするじゃないですか、インスタ映えとか。
けど、クオリティが第一、おいしいっていうのが原点にあるんです。
「映え」が最優先じゃないんですね。
そういった取り組みが、経営を改善することにつながっていったんですか?
結果としてね。
もちろん数字はちゃんと見てるんだけど、数字が目標ではなくてブランドをどうやって作るかとか。
おいしさの原点はどういうことかとかって「想い」を先に置いて、結果として数字がついてきて、黒字になりました。
藤崎さんにとって仕事とは何ですか?
大切なことは、和をもってことを運ぶ。
調和をして、仲間どうしで主張して議論をして、それで一つの方向性に向かうことが大事だと思っています。
仕事って消費者と企業がいてそこを循環するもので、ここに和がなければ成り立たないと思います。
ありがとうございました!
編集:加藤陽平 撮影:白賀エチエンヌ
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