教えて先輩! 澤円さん【中編】

プレゼンテーションは“プレゼント”

2022年04月15日
(聞き手:石川将也 小野口愛梨 田嶋瑞貴)

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就活を乗り切り社会人に。そこで待ち受けているのはプレゼンテーションです。でも実は、「正しい情報を効率的に伝える」ことには価値がない!?「プレゼンの神様」澤円さんに、社会人でも大事なポイントについて聞きました。

プレゼンは“プレゼント”

学生
石川

プレゼンで重要なことって何ですか?

聞いている人たちの目と耳が同時進行で情報収集できる状態を作るのが重要です。

澤円さん

時々とんでもない情報量のスライドを使う人いるんだけど、あれって目と耳が同期しないんですよ。

学生
田嶋

文字を読むことに集中してしまうってことですか。

そうそう。本人はすべての情報を網羅しているって考えているんだけど、読む側のことを全然考えていない。

言わなきゃいけないことを言うってなると文字だらけの資料になる。

けど、プレゼンテーションの本質はプレゼントなんですよ。

贈り物。

学生
小野口

贈り物ですか!?

プレゼントする時に何考える?

相手がちょーー迷惑そうな顔とか嫌な顔とか困る顔とか見たい?

嬉しい顔が見たいです。

そう、プレゼンテーションはそれだけのためにすればいいんですよ。

【澤円さんプロフィール】
生命保険会社のIT系子会社を経て1997年に日本マイクロソフトに入社、2018年には業務執行役員に。圓窓を立ち上げ20年に独立する。年間250回以上のプレゼンをこなす「プレゼンの神様」としても知られる。

聞いた人たちが贈り物を受け取ったなって思ってもらえるような状態にする。

正しいことを言わなくちゃという思考に縛られなくてもいいのです。

相手が喜ぶ贈り物だとすると、サイズ感は?

持って帰って配れるサイズ、つまり他の人に言える状態です。

プレゼンは伝言ゲームだと思いましょう。

そうイメージしながらプレゼンテーションを作るのは非常に効果的なので、やったほうがいいかなと思います。

簡単なことばを使って面白い話をされると、ほかの人にも教えやすいですよね?

そうですね。

ちょっといいこと聞いちゃったから他の人にドヤ顔で言ってみようと思う。

これなんですよ、プレゼンテーションの極意っていうのは。

その人のアクションを引き出すことになるんです。

プレゼンは「あなた」に向けて

あとは、いかに自分ごとにできるストーリーにするかってことが大事です。

人は自分ごとでしか動かないんです。

だから、全てのスライドが「あなたは」って説明ができるかどうかです。

「あなたは」??

「一般的に」とか「日本人は」っていう説明が情報としては正しかったとしても、自分ごとにしづらくないですか?

「学生の皆さん」ってくくっても、自分は合致しないよっていうことです。

「最近の学生ってお酒飲まないでしょ」って言われたらどう?

飲まないですね。

私はちょっとだけ。

僕は飲みます。

3分の1しかヒットしてないですね、これが「くくる」ってことなんです。

「主語を大きくする」ともいうんですけど、事故のもとなんですよ。

これはプレゼンの時は絶対やっちゃいけない。

基本的には相手に合わせる?

だから「あなたは」っていうわけです。

一般論は響かないんですよね。

また自分の意見を言う時は「私はこう思う」って言えばいいんですよ。

私はこういうやり方でこういう事になりました、ぜひご一緒しませんかって言うのであればまだ炎上しづらいわけです。

なるほど!

「報告が大事!」は一番ダメ

プレゼンの極意、ほかにもありますか?

誰がどういうふうに幸せになるのかって説明できていますか?と問うのが重要です。

よく正しい情報を効率的に伝えればいいって考えている人がいるけれど、それだと話している内容は大抵、現在よりも過去のことが中心になる。

それってプレゼンする価値ないんですよ、見りゃ分かる状態なんで、紙に書いて貼っとけと。

一番大事なのは未来の話をする事なんですよ。

未来の話?

ファクトはこうですので、こういうふうにする事が求められると予想されますとか。

こうする事によって我々は前を向けると思います、とか。

要するにその先どうなるんだってことが仕事の中ですごく重要だと言っているんです。

そうなんですね。

「報・連・相」。

これ社会人で大事だって習ったことある?

あります。

どれが大事って聞いた?

報告です。

そういう会社がダメな会社なんですよ。全然ダメ。

「報告」って過去のことなんで、報告に時間をかけるって一番無駄なんですよね、仕事においては。

そうなんですか・・・

どっかでパッとデータで見れば分かる状態にしておけばいいんです。

イベント会社なら、きのうまでの入場者数なんてダッシュボードに出しておけばいい。

報告が大事だっていう経営者がいたとしたらその会社は潰れるんです。

じゃあ、連絡と相談が大事?

「連絡」っていうのは、今からそちらに向かいますとかちょっと遅れますとか今日休みますとか、現在を中心にしてちょっと短い時間の話です。

そのうえで「相談」、これは未来の話で、ビジネスの世界においては最も大事。

そのためにも報告連絡の時間を減らして相談の時間を増やすことです。

相談の時間を作るのが大事なんですね!

相手が分かることばにする

じゃあ、分かりやすく伝えるコツってありますか?

僕のプレゼンテーションは基本的に誰もがわかることばに置き換えて話をするんです。

例えば、パソコンって主要パーツはCPUとメモリ、それにストレージの3つです。

選んで買う時はこの3つの数字がポイントになってくるんですが、数字がどういう意味か、それぞれどういう役割かって分かります?

うーん。

何となく分かるけど、いざ説明しようとすると、えーっと・・・ってなる。

そこで、比喩表現が活きてくるのです。

たとえば、CPUってまな板なんですよ。その上で調理をするんですね。

まな板わかります?

わかります!

まな板が大きければ大きいほど、いろんなものを同時に切ったり刻んだりできます。

CPUの説明に書かれている数字が大きい、あるいは世代が新しいっていうのは、まな板が大きい状態なんですね。

それって同時にたくさんのことができるようになるってことですか。

そう。だけど保存できない。

まな板は切るだけであって保存するためのものはない。

そこでメモリ、これです。

メモリが大きければ大きいほど、カレーにしろシチューにしろ、中国料理にしろ、一度に調理ができる総量が増える。

例えばエクセルだったらたくさんのシートを開けるとか、メモリっていうのは同時に多くのアプリを動かせるっていう状態。

なるほど。

ただし鍋も保管はできない。

そこでストレージっていうのは、冷蔵庫なんです。保存用なんですよ。

大きければたくさんのデータを保存することができるんです。

だからまな板、鍋、冷蔵庫っていう風に考えると、どれが大きければどういういいことがあるのかっていうのは、なんとなくわかるんですね。

確かにイメージできました。

オンラインは“全員最前列”

ちなみに、今オンラインが増えていますが、オフラインのころとプレゼンの違いってあるんですか?

オンラインの特徴って全員が最前列ってことなんです。

オフラインで対面の時っていうのは距離を考えるんですけど、オンラインの時は全員が目の前にいるっていうのを前提に考える、これが一番大きな差なんですよね。

実際にプレゼンにはどう影響するんですか。

変化が少なくて集中することができないので、オンラインは息継ぎが大事なんですね。

息継ぎって何かっていうと、一般的にはアイスブレイクって言われるやつで。

ちょっとクスッってするとか、少し柔らかい話が入るとか、ちょっとテンポを変えるとか。

飽きないようにするっていうのが腕の見せ所になってくるんですよ。

僕はプレゼン用と手書き用で画面を分けていて、すぐに切り替えて手書きにかえられるようにしています。

同じような画面を見続けると飽きちゃいますねたしかに。

あと、本番中にデバイスと戦わないことです。

多くの人がマイクやカメラの設定で手間取ってしまっています。

こういう設定作業は、事前にしっかり済ませておくのが大事。

あと、デバイスがうまく動かないというときの代替手段を作っておくのも重要ですね。

それから、ライティングも重要。

窓を背にして逆光が当たって顔が真っ黒になっちゃっているとか、下からライトが当たって肝試しみたいになるとか。

よくあります・・・

そういうのは最初からデザインしましょうってことなんですよ。

自然な状態にした方がいいので、僕はヘッドセット使わないんです。

また実はカメラじ〜っと見ていると最前列の距離でプレゼンテーションやっているので、なんで私から目を離さないんだろうって緊張状態になってしまうんです。

すごい嫌じゃ無いですか、なのでカメラはジーッと見ないです。

新型コロナでオンラインが多くなったので、参考になります。

2020年、新型コロナでオンラインに切り替わって、世界がリセットされましたね。

で、今回意味合いが大きく変わったのが「対面」

オンラインでもできることをあえてやるっていうことに意味が求められる状態になって、位置づけが変わったんです。

プレミアムになったんですよね。

お話を聞いていて、どうしてわかりやすいことばがどんどん出てくるのかなって気になりました。

プレゼンいつ練習してるんですかってよく聞かれるんですけど、僕は「目が開いている間ずっと」って答えるんですよね。

人に何を伝えて、どうハッピーにするかって。

そのことだけを考えていると全部がヒントになるし、一個一個がつながりやすい状況がずっと続いているんですね。

これ、僕の生き様そのものなんです。

プレゼンテーションは相手への贈り物。ビジネスでは未来の話に重きを置くことが基本。誰にでもわかることばに。こうしたノウハウはどうやって身につけたのか。次回は澤さんが歩んできたキャリアに迫ります。ここにも幸せに生きるためのヒントがありました。

撮影:梶原龍 編集:鈴木有

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