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1からわかる!バイデン大統領とアメリカ(3)日本にとってプラスなの?

2021年04月12日
(聞き手:伊藤七海 佐々木快)

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日本にとって唯一の同盟国であるアメリカ。トランプ前大統領とは蜜月ぶりが際立っていたけれど、バイデン大統領とはどうなるの?バイデン政権は日本にとってプラスなの?1から解説してもらいました。

日米外交は「ボトムアップ型」に

学生
佐々木

トランプ政権のとき、日米関係はとてもうまくいっていた印象があります。

世界広しといえども、あのトランプ政権と比較的うまく付き合えた国ってイスラエルと日本だけじゃないかな。

髙橋
解説委員

大学時代、アメリカ大統領選挙でのボランティアを機に、アメリカ社会の面白さに気づいたという髙橋祐介解説委員。NHK入局後もワシントン特派員などを歴任し、アメリカを取材し続けています。学生時代から今まで、アメリカの動きをつぶさに追ってきた“アメリカウオッチャー”です。

学生
伊藤

そうだったんですね。

「アメリカ第一主義」に中国やヨーロッパが翻弄されるのを尻目に、日本は安倍前総理がトランプさんと蜜月ともいわれる関係を築いた。

日本にとってトランプ政権で悪かったことは、そんなに多くなかったと思います。

安倍前首相は、趣味のゴルフなどを通じてトランプ前大統領と個人的な信頼関係を構築。令和初の国賓としても手厚くもてなした。

バイデンさんも菅総理大臣と個人的な関係を築くんでしょうか。

互いにファーストネームで呼び合って意欲は見せているけど、どこまで関係を築けるか、まだよくわからない。ただ首脳どうしの関係って、もちろんすごく大事です。危機のときには、首脳どうしのパイプが機能するから。

トランプさんと安倍さんがこれだけうまくいったのは、トランプさん自身が政権内で方針を決める「トップダウン型」だったからで。

バイデンさんは、違うんですか?

バイデン政権は従来の「ボトムアップ型」に戻って、個別の政策は官僚や閣僚たちが議論して上にあげる。

「菅総理とバイデンさんは共に苦労人で、気が合うのでは」なんて話もあるけど、いくら仲良くしたところで対日政策が大きく変わることはないと思います。

では、そのボトムの部分はどうですか?

そうですね、バイデン政権の場合、オバマ政権と同じ顔ぶれが多いので、日本側もよく知っています。例えば、インド太平洋調整官に就任した、カート・キャンベルさん

カート・キャンベル インド太平洋調整官

オバマ政権のときの国務次官補で「ヨーロッパ中心の外交からアジア太平洋に軸足を移しましょう」という政策を策定した。知日派としても有名で、日本の外務省も歓迎しています。

外交トップのブリンケン国務長官は、ヨーロッパとのつながりが深いんだけど、そこを補う意味でアジア政策を統括する「インド太平洋調整官」という新しいポストを作ったんです。

それに、国務省のナンバーツー、国務副長官に起用されたウェンディ・シャーマンさん

国務副長官に指名されたウェンディ・シャーマン氏

どんな人なんですか?

クリントン政権時代に北朝鮮政策の責任者をやって、オバマ政権時代には国務次官としてイランとの核合意の交渉にあたった。彼女もアジアに精通しています。

こうした人脈も大事にしながら、日米、双方の政府が意思疎通できる環境は整っていると思います。

日米貿易協定、TPPはどうなる?

通商や貿易の面では、バイデン政権になって何か変わりそうですか?

トランプ政権は、貿易について日本にもいろいろと注文をつけていましたよね。そこで結んだのが、日米貿易協定でした。

共同声明に署名した安倍首相(当時)とトランプ大統領(当時)2019年

日米貿易協定

トランプ大統領(当時)が、日米間の貿易でアメリカが巨額の赤字を抱えていることを問題視したことから交渉が始まった。日本がアメリカから輸入する牛肉や豚肉などの関税は引き下げられ、日本がアメリカに関税の撤廃を求めている自動車や関連部品の扱いは継続協議となった。今後、第2弾の交渉が始まる。

一方バイデン政権は、まずはコロナ対策が優先で、通商政策は後回しになりそう。TPP=環太平洋パートナーシップ協定も同じです。

TPPは、トランプさんが離脱したんですよね?

TPP=環太平洋パートナーシップ協定

日本やカナダ、オーストラリアなど11か国が参加して2018年12月に発効。農業品や工業品などの関税を廃止するだけでなく、サービスや投資の自由化を進め、知的財産や電子商取引、環境など幅広い分野で統一したルールを構築するもの。アメリカは当初は協定の締結に向けた交渉に入っていたが、トランプ大統領(当時)が就任後に離脱した。

そう。多国間ではなくて、2国間でギリギリやりたいというスタンスだったので。バイデンさんは、オバマ政権でTPP交渉を推進した1人だったんだけど、現時点では復帰に慎重な姿勢です。

どうしてですか?

身内の民主党左派や労働組合の人たちはTPPに強く反対している。そういう人たちを説得して、早期に復帰するというのは今のところ難しそうです。

なぜ日本が初の首脳会談の相手に?

ところで、もうすぐ初の日米首脳会談が行われると聞きました。

そう。バイデンさんが就任後、初めてホワイトハウスに招いて対面で会談する相手が菅総理です。

ちょっと意外でした。トランプ政権で傷ついた関係を修復する意味では、ヨーロッパが先かな?と思いましたが…なぜ日本なんですか?

やはり中国への意識があるからでしょう。

バイデン政権になっても中国への強硬姿勢は変わっていないよね。

はい。

中国が軍事的・経済的な影響力を強めて国際社会のルールを書きかえようとしていることにアメリカは強い懸念を抱いていて。

その懸念を表明するには、アメリカ単独より、同盟国と行動を起こしたほうが効果的だし、内外へのメッセージを印象付ける狙いもあります。

中国 習近平国家主席

政権発足後、予想以上に中国に厳しく出ているなという印象もあって。

そうなんですか。

バイデン政権は、トランプ時代の対中外交や安全保障バランスに関するアメリカの機密情報を分析したんだけど。

「まさかこれほど中国に対して劣勢におかれているとは!」と危機感を強めているそうです。

想定を超えていたんですね。

日米外交筋によると、最初の会談相手を菅総理にするよう大統領に進言したのは、さきほど話した、インド太平洋調整官のカート・キャンベルさんだったようです。

日本を厚遇することで、日本にもっと積極的に汗をかいてもらいたいという狙いもあるのかもしれません。

日本には、どんな役割を期待しているんですか。

「インド太平洋地域におけるアメリカの最大最強のパートナー」としてバイデン政権の対中国外交、対アジア戦略そのものを一緒につくり上げていくことに尽きます。

2月の外交演説で、バイデン大統領は、中国を「最も重大な競争相手」と位置付けた。

具体的には?

中国に対抗するための中距離ミサイルのアジアへの配備や、中国企業に頼らない半導体などハイテクサプライチェーンの再構築などです。

初の首脳会談、喜んでばかりではいられないような…

政府関係者の中には、「後から請求書を見るのが怖いね」とささやく人もいます。

付き合い方次第で日本にプラス

バイデン政権は日本にとってプラスになるんでしょうか。

付き合い方によっては、非常にプラスになると思います。日本も、中国が沖縄県の尖閣諸島とか東シナ海で海洋進出することを懸念していて、バイデン政権の方向性と一致しています。

ほかにも、気候変動対策や多国間の枠組み重視など、一致点が多いんです。こうした一致点で協力していけば、日本の利益になる、プラスになります。

マイナスになることもあるんですか?

アメリカ任せにするのが一番まずいです。

戦後の日本の外交には日米同盟と国連重視という2つの柱があるんだけど、日本は今、日米同盟オンリーになりつつあるように見えます。

国連重視は、いろいろな国が自国の利益ばかり優先させて国連の役割が問い直されていることもあって、後退している。

それに国際機関には、中国が人材をたくさん送り込んでいて、拠出金も日本と逆転して中国のほうが多い。それに伴って日本の影響力も小さくなってきている。

国連重視は、厳しそうですね…

一方で、唯一最大の同盟国であるアメリカの世界での信頼度は年々下がっていて、国際社会での発言力も落ちている

それがいかに日本の不利益になるのかっていうことは考えなければいけない。

トランプ政権では日米同盟は揺るがなかったけど、国際社会での発言力は、トランプ政権の信頼度低下とともに落ちてしまった。

バイデンさんは国際協調を掲げているので、日本の発言力も戻りますか。

そうだといいけど、バイデンさんが本質のところで何を目指しているのかは常に見ていく必要がありますよね。

「アメリカと同盟を結んでいるから安心!」とあぐらをかいていては、いけないと?

そう。バイデン政権と日本がどう付き合うかを考えるうえで重要なことは2つ。

1つは、日米同盟の大切さ。この関係を揺るがせないこと、そしてもう1つが、アメリカとの連携で国際社会での日本の発言力を高めること。

アメリカとだけでなくオーストラリアやインド、イギリスなど価値観が同じ国々との多国間の枠組みで、日本の発言力を高めるにはどうすればいいのか、常に考えていく必要があると思います。

日米関係、一番大事なのは

アメリカ任せではいけないってことがよく分かりました。

かつて大英帝国の最盛期にイギリスの宰相を務めた人物は“永遠の同盟も永遠の敵もない。あるのは永遠の国益のみ”という有名な言葉を遺した。今でも欧米の外交官たちは“人間どうしに友情はあっても国と国との外交に友情はない。あるのは共通の利益だけだ”と言います。

でも日米関係を良くしていくために、皆さんにもできることがあります。

何でしょう…

首脳どうし、官僚どうしの関係ももちろん大事だけど、私は、一番大事なのは、その土台となる国民どうしの交流だと思っています。

今はコロナ禍もあって、アメリカに留学する人や旅行する人も減っているけど。アメリカに関心を持って、交流をさかんにして理解があって初めて国どうしの関係は安定していくと思います。

私たちにも大事な役割があるんですね。

それとアメリカを理解するうえで、やっぱり歴史や背景を知ってほしい。今や、バイデンさんや側近の発言がインターネットやSNSで手に取るようにわかる時代です。

大量の情報があると何が本当の情報で何がウソの情報なのかってことが、見えにくくなってきます。

「大統領選挙で票を集計する機械に不正工作があった」とか「メディアは伝えないけど実は極秘裏に関係者が摘発された」っていう偽の情報が、いとも簡単に拡散する世の中ってすごく恐ろしいと思うんだ。

社会にあふれる情報を正しく読み解くためにも、どうやって真実の情報を見分けるかという力を養わなきゃいけないので、その国の歴史や背景を知ることは重要です。

私たち学生にとっても、大事なアドバイスです。

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