教えて先輩!“シェア伝道師” 石山アンジュさん

「違和感」から始まった挑戦

2020年11月17日
(聞き手:佐々木快 田嶋あいか)

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「シェアリングエコノミー」。インターネットを使ってモノや場所、技能などを貸し借りすることを通じて生まれる経済のことです。この「シェアリングエコノミー」が社会の課題を解決する鍵になると考え、その普及に尽力する女性がいます。彼女が語る「シェア」の魅力と可能性とは?

“シェア伝道師”の仕事とは?

学生
佐々木

石山さんはエアビーみたいなシェアを普及させようとしているんですよね?どんなことをされているんですか?

シェアリングエコノミーは新しい産業で、まだ業界としてルールが整っていなかったり、法制が必要であったりします。

石山さん

例えば、これまで他人の家に泊まってお金を払うみたいなビジネスモデルってなかったと思うんですけど、そういった新たなビジネスモデルを合法的にやるために新しい法律を作って下さいっていうことを国に働きかけます。

写真提供:Anju Ishiyama

石山アンジュさん(31)

1989年4月生まれ。国際基督教大学卒業 リクルート、クラウドワークスを経て「シェアリングエコノミー」を通じた新しいライフスタイルを提案する活動を行う。2017年に「内閣官房シェアリングエコノミー伝道師」に任命。「一般社団法人シェアリングエコノミー協会」の事務局長も務める。

学生
田嶋

大事なことですね。

あと、スマートフォンを持っていない高齢者とか、そういうのを不安に思っている方とかにとって、このビジネスモデルや業界が安心・安全なものになるように、国と一緒にルールや取り組みを作っています。

このほか、いろいろな地域や自治体でシェアリングエコノミーを普及させていくための政策を助言しています。

個人が不要になったものを売買するフリーマーケットに盗品が出品されたり、個人の住宅を宿泊用に貸し出す「民泊」で、宿泊者が出すゴミや騒音が問題になったりと、課題も指摘されています。

民間の力だけでシェアを推し進めることはできないんですか?

株式会社っていうのは、基本的には利益を追求することが目的です。儲かるところ以外は優先度が低いわけですよ。例えばエアビーとかのシェアって、人口がたくさんいるところでマッチングがしやすいので、戦略としては「東京都かな」ってなります。

確かにそうですね。

地方に行くほど優先度が低くなるわけですよ。過疎地域でおばあちゃんを助けるにはシェアリングのインフラが必要だけども、株式会社のサービスとして考えたら、そこに行くメリットってすごく作りにくいんです。

それを行政側に働きかけ、どうしたら行政側のメリットと事業者側のメリットの折り合いをつけて新しい仕組みを作れるかを考えるのが私の仕事です。

「内閣官房シェアリングエコノミー伝道師」に任命

なぜ石山さんに白羽の矢が立ったのでしょうか?

制度作りを働きかけたというのがあります。国としてシェアリングエコノミーを推していくためには、専門家を全国に派遣する制度が必要であるっていうことをそもそも提案しました。

自ら仕掛けられたんですね!

シェアは地域の課題解決にどう役立つんですか?

大分県の住民との交流 (写真提供:Anju Ishiyama)

例えば、人口が減った過疎地域では、自治体の税収が減るので、これまでと同じような公共交通、公共サービスを維持するのが難しくなります。

民間も、お客さんがいないから撤退しようってなります。そうすると、例えばおばあちゃんが病院に行きたくても、バスや電車は減るし、タクシーは撤退しちゃうし、どうやって行けばいいんでしょうってなるわけです。

難しいですね。

かつてあったご近所づきあいとか共助で送り迎えできたらいいですよね。送り迎えっていう言葉を使っていますけど、実際は「ライドシェア」です。そういったものが課題の解決につながります。

時間もスキルもシェアできる

取材はリモートで行われました。

石山さんからみたシェアの魅力とは何ですか?

昔は、醤油の貸し借りをお隣さんとしていましたが、ご近所またはその人のつながりの範囲、地縁に基づくつながりの範囲でしか、おすそ分けはできませんでした。

いまは、インターネットやスマートフォン1つで、お醤油の貸し借りが100人、1000人と、海外の人とも売買や貸し借りが瞬時にできるようになったんです。これがシェアリングエコノミーが注目されている背景です。世界中の人たちとおすそ分けができるのが魅力の1つです。

なるほど。

もう1つの魅力は、いわゆるCtoCのビジネスです。これまでは皆さん仕事以外はすべて消費者という立場だったわけですね。企業が生産して販売したものを買うわけなんですけども、そのサービスを提供する企業のポジションを個人ができるようになるのもシェアリングエコノミーの魅力です。

例えば、今までは宿泊といえばホテルや旅館しかなかったけれども、個人のユニークなおうちに泊まる事ができるとか、これまではレンタカー会社で車を借りなきゃいけなかったけど、3軒隣の自家用車を借りることができます。しかもスマホで個人と個人がつながってやる事ができるんです。

便利ですよね。

これは買う側のメリットもあるんですけども、提供する側の目線に立つと、みなさんが持っているモノやスキル、時間、あらゆるものを、他の人に提供したり販売したり貸したりできるようになったということです。こういった新しいインフラができるというのはすごい革命だと思うし、シェアリングエコノミーの最大の魅力だと思います。

「組織の論理」が優先される違和感

どうしてシェアリングエコノミーを普及させる仕事をしようと思ったんですか?

背景は2つあります。1つは、新卒でリクルートっていう会社に入って、大企業の新卒採用や転勤のアルゴリズムを考える仕事などをしていたんですが、個人の人生の自由さや意志よりも、組織の論理のほうが優先されてしまうことに違和感があったことです

違和感?

例えば、きのうまで北海道にいたのに明日から転勤で沖縄に行って単身赴任になるとか、去年は景気が良かったから100人採用したけど、ことしはコロナで1人しか採用できないとか。これって個人の能力と関係なく、組織の論理が優先されているんです。個人が組織にぶら下がらず、自由に働ける選択肢ってないかなって思ったんです

それから、大きなスーパーなどに食べ物とかを依存していますが、東日本大震災の時に供給がストップして、食べ物さえ買うことができないことの弱さをすごく感じたんです。

なるほど。

もう1つは、プライベートの背景です。実家がシェアハウスで、いろんな人とつながったり、いろんな人とスキルをシェアしたりしながら生活をしていくのって豊かだなっていうことを、「シェア」という言葉に出会う以前からすごく思っていました。

石山さんの実家 (写真提供:Anju Ishiyama)

もっと個人が主体の経済モデルとして、シェアリングエコノミーが新しい豊かさや幸せを考えていく大きなインフラになり得るんではないかっていう可能性を感じていました

安いからということでしか「シェア」を考えていませんでした。「つながり」とか「個人が主体」とかいうところまで考えていなかったです。

確かに。何気なく使っていたサービスには、そういう概念があったんですね。

つながり生むシェアで幸せに

シェアが豊かさや幸せを考えていくインフラになりえるとのことですが、本質はどこにあるのでしょうか?

私の持論ですけど、幸せっていうのは人とのつながりからしか生まれないと思っています。つながりの反対は孤独です。孤独が不幸せの根源だと思います

その昔は大家族だったのが核家族になって、いまや東京の過半数の人口は単身世帯で、独居老人や無縁社会と言われるような社会が進んでいるなかで、かつてあったつながりをどう取り戻せるかっていうことが重要だと思うんです。それを助けるのがシェアリングエコノミーだと思っています。

つながりを取り戻す?

シェアリングエコノミーは消費行動によって最初の接点を持つことができます例えば、これまで旅館のホテルのレセプションと友達になることはなかったかもしれないけれども、民泊で泊まって1晩お酒を飲んでFacebookで友達になったら、同じ消費行動だけど、人との接点が出来るわけです。

コミュニケーション力があるとかどうかにかかわらず、すごく簡単につながりの接点ができる仕組みとして魅力があるものだと思います

シェアが人と人とのつながりを生むと一番感じたエピソードは何ですか?

2012年ぐらいからいろんな国々を旅するたびに、例えばエアビーアンドビーとかウーバーとかを使って、それがきっかけでフェイスブックで友達になりました。そうすると台風や大きな地震が起きると「大丈夫?」って連絡が来るんです。すごく心配してくれたり、うちの国に避難してきていいよと言ってくれたり。

すごいですね~。

消費という行動なんだけれど、泊まれば泊まるほど世界中につながりが出来ていき、それが資産になってくわけです。つながりがどんどん出てくると、もし地震が起きたり経済が崩壊したりしても、そういったつながりの資産によって、助け合えたり、救われたりすることができます

普及率は10%以下?

シェアリングエコノミーは石山さんの目指すところの何%ぐらいまで普及しているんですか?

まだ10%もないくらいじゃないですか。

写真提供:Anju Ishiyama

え、そうなんですか?

私たちの世代ではシェアリングエコノミーの認知度はほぼ100%だと思うんですけど、全体ではまだ10%以下なんですね。

「知っているけど使っていない」っていう人が結構多いです。若い人たちの中で使っている人は結構増えているとは思います。

海外と比べると低い水準ですか?

そうですね、まだ低い水準かなと思います。

法の規制とかの問題ですか?

規制の問題もあるし、消費者の問題もあります。仕組みとか規制とかの課題っていうもの以上に、人の認識や価値観が変わらないと、新しいものって普及しにくいっていうことをすごく感じています。

例えば、他人のものを使うとか他人の家に泊まるっていうことって、利便性とか安定とか以上に、その人の価値観とか捉え方によって決まるわけじゃないですか。そこのマインドセット(物事の見方や考え方)が一番重要だなって思います。

シェアの魅力を語る石山さん。

新しい価値観を広めるために大事にしてきたことを聞いた後編はこちらからご覧ください

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