2020年02月07日
(聞き手:井山大我 工藤菜摘)
抗議活動が続く香港。背景には、自由が失われることへの恐怖心や危機感があると、香港取材の経験が豊富な「キャッチ!世界のトップニュース」の松田智樹キャスターは話します。ところでこの抗議活動って、誰が抗議しているの?「民主派」と「親中派」って?香港の混乱をめぐる、そもそもについて聞きました。(2月10日改訂)
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若者の多くは「自分は香港人だ」と思っているという話でしたが、中国に親近感を持っている人はいないんですか。
もちろんいますよ。香港政府や中国に批判的な立場をとる「民主派」と中国寄りの「親中派」に分かれていて、その支持者の割合は民主派が大体6割、親中派が4割と言われているんです。
香港で行われた過去の選挙を分析すると、どの選挙もそれぞれの得票率がだいたい「6:4」なのが理由で、「黄金比」とも呼ばれています。
親中派も結構いるんですね。
やっぱり、生活のためにお金を稼ぎたいし、そのためには経済力を増した中国とうまくつきあっていかなきゃいけない、そう考える人も多いんですよ。
ほかに、「香港は中国に返還されたんだから、中国人として生きていくべきだ」と考える人。
あとは、文化大革命など、中国で混乱が起きた時に香港へ移り住んだ人が、高齢になってから「自分の生まれ故郷は良かったな」と懐かしむケース。そんな風に年齢が高くなると中国寄りの人が増える傾向があるんです。
じゃあ、世代間の意識の差というか、私たちのような若者とその親が違う意見を持つこともあるんですか?
あります。今、問題になっているのは、抗議活動で社会全体が民主派と親中派の2つに分断されただけじゃなくて、その影響が家庭にも及んでいること。
例えば親は親中派だけど、子どもは民主派とか。夫は中国と関係する仕事をしているけど、妻は中国を批判していて、家庭がぎくしゃくしちゃうとか、そういうケースが増えている。
親中派はどういう人が多いんですか?
企業の関係者が多いですね。香港の企業はだいたい中国に工場を持っているし、人口の多い中国市場は魅力的だと考える。
あとは家族が中国とのつながりが強いとか、自分が中国人観光客と関係する小売店や飲食店を営んでいるとか、職業にもよるかもしれませんね。
そもそも今回のデモは、容疑者引き渡し条例改正案に反対するデモでしたよね。その条例改正案は撤回されたんですよね…
そう、2019年9月に香港政府が撤回した。
でも、どうしてデモは収まらないのでしょうか?
なぜかというと、途中で民主派を中心とするデモ参加者の怒りの対象が警察に移ったからなんですよ。
警察ですか?
若者たちが傘で催涙弾を防いだ2014年の雨傘運動では、警察は87発の催涙弾を撃ちました。今回の抗議活動では、何発ぐらい撃ったと思いますか?
200発くらい…。
800発。
1万6000発です。
抗議活動が始まった2019年6月から12月までの半年間に、雨傘運動の180倍もの催涙弾が発射されたんです。
えー。
全然、桁が違う。
そう、桁が違うんですよ。催涙弾が1万6000発で、逮捕された人は6000人あまり、そのうちおよそ2400人が学生や生徒。逮捕者の中には未成年もたくさんいて、小学生も含まれていた。
抵抗していない人を警棒で殴りつけたり、地面に押さえつけたりしたことが、みんなの怒りに火をつけたんだ。
つまり、みんな最初は条例改正案の内容に反対したんだけど、だんだん警察の取り締まりが過剰ではないかと反発が強まった。
「もうちょっと市民に寄り添ったやり方があるんじゃないか」といった声が相次いだんです。
それはそう思うかも。
ただ、警察も毎週のようにデモがあるから、疲れていらだってくるわけですよね。そうすると、デモの参加者と警察の応酬がどんどんエスカレートしていく…。
香港では、これまでも政府に対する抗議活動が何度もあったという話でしたが、最近はどうだったんですか?
実は香港って、毎年6月4日の天安門事件が起きた日に、中国共産党に対して一党支配はやめなさいとか、民主化って大事だって訴える集会があるんですが、参加者が減少傾向だったんです。
そうなんですね。
それは、党員が9000万人を超える中国共産党と闘ってもどうせかなわないという無力感があったから。
でも、今回火がついたのは、これまで空気のような存在だった自由がなくなりそうだったからだと思うんですよ。
民主主義って大事だけど、すぐに自分の自由までは奪われないから、長期的に闘えばいいやと思いがちですよね。だから、民主的な選挙の実現を求めた雨傘運動は、2か月半で下火になったのではないかと思います。
でも、自由って今なくなったら自分が捕まるかもしれないでしょ。だからみんな必死ですよ。
自由って大事ですよね。
そう。だからこれだけの人がデモに参加しているし、さらに、これまでは中国寄りだった経済界の中でも警戒感が高まっているんです。
編集:宮脇麻樹
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