2020年02月10日
(聞き手:井山大我 工藤菜摘)
容疑者引き渡し条例改正案への反対から始まった香港の抗議活動。香港政府がその条例改正案を撤回した後も、抗議活動は収まる気配がありません。デモの参加者たちは何を要求しているの?解説は引き続き香港取材の経験が豊富な「キャッチ!世界のトップニュース」の松田智樹キャスターです。
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(4)「中国はどうしたいの?」
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学生
工藤
デモでは何を求めているんですか?
「五大要求」といって、デモに参加している人たちは『5つの要求は1つも欠くことはできない』と訴えています。
松田
キャスター
デモの参加者は、みんな手のひらを大きく広げていますが、これは5つの要求を表しているんです。
1つ目の条例改正案の撤回は2019年9月に達成されたけど、残り4つがまだです。
2つ目が香港政府トップの行政長官を選ぶ際に、民主的な選挙が実現されること。これまでは、業界団体の代表など1200人による間接選挙だったので、トップを直接選べるような制度にしてほしいと要求している。
1200人だけで決めるんじゃなくて、みんなで選びたいってことですね。
そう。3つ目が警察の取り締まりを調査する独立した委員会を設けること。4つ目は抗議活動を「暴動」だとした香港政府の見解を取り消すこと。そして最後の5つ目がデモに参加して捕まった人たちの釈放。
これが五大要求です。
デモはいつ収まるんですか?
個人的には、五大要求のすべてに政府が応じない限り、今後も続くだろうなって思っています。
政府は五大要求をのめないということですか?
簡単にはのめない。特に、民主的な選挙の実現には、憲法にあたる香港基本法を変えなきゃいけなくて、それには中国の承認を得なきゃいけないから、ほとんど不可能って行政長官はわかっているんですね。
だから要求に折れて、簡単にいいよと言ったら自分の立場が危うくなると思っている。
この人は、2014年の雨傘運動の時、政府ナンバー2の政務官だったんだけど、学生のリーダーたちとの対話を断固拒否して「鉄の女」と呼ばれるほどのタフさを発揮したんです。
今回も、1つ目の条例改正案の撤回には応じたけれど、残り4つの要求を受け入れる姿勢は見せていません。抗議活動の参加者たちも振り上げた拳は下ろせないので、事態は行き詰まりの様相を呈しています。
学生
井山
解決への動きは今のところないんでしょうか?
残念ながら、ありません。
こう着ムードが漂うなか、民主派の人たちが期待をかけたのが2019年11月に行われた区議会議員選挙でした。香港では最も民主的な方法で行われ、民意が反映されやすい選挙と言われています。
以前、香港は都市だと説明しましたが、東京都を例にすると、政府トップの行政長官が「知事」、法律や予算を審議する議会・立法会が「都議会」、生活に関わる身近な問題を扱う区議会は「渋谷区議会」とイメージしてもらえればと思います。
結果はどうだったんですか?
香港には18の区議会があり、あわせて452議席が市民の直接選挙で決まるんですが、今回の選挙で民主派が8割以上の議席を獲得したんです。
圧勝ですね。
圧勝した理由は、まず、投票率が前回の47%から過去最高の71%になったこと。
一連の抗議活動を受けて、選挙には「住民投票」の意味合いが強まり、投票所には長蛇の列ができました。若者たちもみずからの意見を示そうと、大勢の人たちが投票に行ったんです。
すごいですね。
中国政府はどういう反応なんですか。
中国政府や国営メディアは選挙が終わったことだけを報道し、民主派が勝ったという結果は伝えませんでした。
実は、今回の選挙で民主派と親中派の候補者が獲得した票数をそれぞれ足し上げた総得票数の割合は「6:4」の「黄金比」になったのですが、投票率が上がったうえに、選挙区ごとに1人が選出される小選挙区制が採用されていることもあって、民主派の歴史的な勝利につながったんです。
今回の結果が香港政府にとって大きなプレッシャーになるのは間違いありません。だからこの民意を突きつけて、少しずつでもいい方向に変えていきたいというのが多くの市民の考え方ですね。
この結果は、予想外のものだったんですか?
ここで興味深いのが、中国政府が民主派の勝利を予想できず、沈黙した理由です。中国政府はどうも親中派が勝つと思っていたようなんです。
香港の世論を読み違えたということですか?
おそらく、“香港の人々がいかに危機感を持っているか”が中国政府や共産党の指導部に報告されていなかったのだと思う。
“最後は若者たちの過激な行動に反感を持って親中派に投票する”そういう報告を上げていたんじゃないかと言われています。中国は香港の現状を的確に把握できていないのかもしれないですね。
これからどうなるんですか。
2020年9月には議会・立法会の選挙があり、2022年には行政長官を選ぶ5年に1度の選挙があります。
民主派としては、五大要求にあるとおり市民が行政長官を直接選挙で選べるように制度を変えたいって考えている。そのためにも、まずは立法会の選挙を足がかりにしたいところです。
その後は?
一国二制度が保障されている2047年までに、自分たちの意見を伝えられる行政長官を選んで、なんとしても自由や民主、人権が守られる社会を実現したいという考えだと思う。
特に、中国から世界に新型コロナウイルスの感染が拡大し、香港の人々の中国に対する警戒感がいっそう高まっているだけに、2020年の動きがカギになる。
ということは、今後も抗議活動が続く可能性があるということですか。
続くかもしれない。街を歩いていると、政府に批判的な落書きや壊れたままの看板などがあってピリピリとした緊張感があるんだよね。
話を聞くと「市民の声を無視する政府が悪い」という意見が多く、デモに参加する若者への同情というか連帯する気持ちが伝わってくる。
警察との衝突の最前線にいる若者を支援しようと、水や傘を差し入れる人もいます。
どんな人たちなんですか?
30代以上になると守るべき家族も仕事もあるから参加できないけど、代わりに頑張ってくれている若者をできるだけ応援したいとか、未来のある若者たちが警察に捕まって申し訳ないっていう人、多いんですよ。
40代の男性が「一国二制度が始まったときに自分たちがもっと頑張っていれば、今のような状況にはならなかった。若者たちに大きな犠牲を払わせることになり恥ずかしい」と目に涙を浮かべながら話していたのがとても印象に残っています。
表立っては支援出来ないけど、心の中ではやはり思うところがあるんですね。
ただね、実は香港って岩が多い土地で自前の貯水池では足りず、水の大部分を中国から供給してもらっている。電力や食料なども中国に頼っているのが実情で、中国なしには暮らしが成り立たないほど依存しているんですよ。
だから中国に刃向かったら生きていけない、香港の豊かな生活ってやっぱり中国のおかげだよねっていう意識もあるので、中国との距離感に悩んでいる人も多いと思います。
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編集:宮脇麻樹
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