妊娠中の女性が感染することで、赤ちゃんに障害が出ることがある風疹。
去年の夏からの流行によって、ことしに入ってから9月半ばまでに3人の赤ちゃんが「先天性風疹症候群」と診断されています。
そのうちの1人で9か月になる男の子の母親が取材に応じてくれました。母親は妊娠中、風疹の感染に全く気づいていませんでした。
取材に応じてくれたのは首都圏に住む20代の女性です。
9か月になる長男は、生まれた直後からミルクの飲みがよくありませんでした。
生後2週間くらいのとき、ぐったりした様子をみて母親が病院に連れて行き、詳しい検査を受けると、のどから風疹のウイルスが検出されました。
両耳ともほとんどの音が聞こえない重度の難聴であることが分かり、生後1か月半のとき、先天性風疹症候群と診断されました。
少しでも音が聞こえるように補聴器を試そうとしていますが、耳の穴が小さいため、付けるのに苦労しています。
母親には妊娠中、風疹が疑われる症状は全くありませんでした。
風疹は感染しても15%から30%の人は症状がでないため、知らないうちに感染していることがあります。そして、母親に症状がなくても、へその緒を介しておなかの赤ちゃんに風疹のウイルスがうつり、障害を負ってしまうことがあるのです。
「風疹に感染していたと聞いても思い当たる節はなかったし、妊娠中はつわりくらいで、発疹がでるようなこともなかったので、気づかないうちに風疹にかかっていたというのはすごく怖いです」
風疹は妊娠20週くらいまでに感染すると、赤ちゃんに深刻な影響を及ぼすおそれがありますが、ワクチンを2回接種することで感染をほとんど防げるとされています。
1990年4月2日以降に生まれた人は、無料で2回接種する機会がありました。
長男に風疹による障害が出た母親に女性自身の母子手帳を見せてもらうと、風疹のワクチンは1回しか接種していませんでした。
これについて母親は「息子に申し訳ないと思っています。これからどうやって言葉を入れていってあげればいいか、耳以外にも、ほかの障害や症状が出てきたらと思うと怖いです。自分自身もワクチンを打っていればよかったし、みんなも受けてほしい」と話し、これから生まれてくる赤ちゃんのためにも、風疹の流行がなくなることを願っていました。
ことしに入ってからの風疹の患者数は2000人を超えました。
この時期までに2000人を越えるのは、大流行となった平成25年以来です。
そして患者の中心となっているのは成人の男性で、女性の約4倍にのぼっています。
なかでも患者数が多いのは、子どものころワクチンを打つ機会がなかった40代から50代前半の男性と、機会はあっても打っていない人が多い30代の男性です。
国は今年度から3年間、接種の機会がなかった1962年4月2日から1979年4月1日生まれの男性、つまり現在「40歳から57歳」の男性を対象に、抗体検査とワクチンの接種費用の補助を始めています。
対象の人には自治体からクーポン券が送られ、血液で調べる抗体検査とその検査で抗体が不十分だとわかった場合のワクチンの接種の費用が無料になる制度です。
国は、5年前、東京オリンピックパラリンピックが開かれる2020年までに風疹の流行をなくすという目標をかかげました。
しかしその後有効な対策は打ち出されず、ことし4月からやっとこのクーポン券を使った制度が始まりました。
しかし今回の制度にも大きな穴があります。それは、ワクチンが不足することを避けるために、1年目の今年度にクーポン券が送られるのは、1972年4月2日以降に生まれた人、つまり40歳から47歳の人に限ったのです。
それ以外の人は、来年度以降に送られることになり、これでは対策が遅れてしまいます。
実際に厚生労働省はクーポンの配布によって、今年度抗体検査を受ける人は約330万人、予防接種は約70万人と見込んでいますが、ことし4月と5月にクーポン券を利用して抗体検査を受けたのは12万5859人、予防接種を受けたのは1万6672人にそれぞれとどまっています。
このままでは、風疹の流行をなくすことはできないという危機感が広がっています。
先天性風疹症候群の子どもの親たちでつくる「風疹をなくそうの会」などは、これ以上生まれてくる赤ちゃんが犠牲になることを防ぎたいと、8月に厚生労働省を訪れ、対策の強化を求める要望書を提出しました。
要望書では、国が3年かけてクーポンを配布する計画に対して、早急にすべての人に渡すことや、企業が健康診断の際に風疹の抗体検査を行うよう国が促すこと、そして抗体検査をせずにワクチンの接種を行えるように体制を整えることなどを求めています。
風疹の流行をなくす目標の2020年が迫る中、国はクーポンを配布するだけでなく、働き盛りの男性が行動に移せるよう検査や接種を受けやすい環境をいかに整えられるかが問われています。
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