子育て

「子どもにとってスペシャルな時間を」学びを支える大人たち

ネットワーク報道部 野田綾

新型コロナウイルスの感染拡大で、大きく変わってしまった私たちの生活は、子どもたちの学びの機会にも影響を及ぼしています。 この1年、学校が休校になって学びの機会を失ってしまったり、親の収入が減ったために進学することを悩んだりする子どもも増えています。 子どもたちの学ぶ機会を失わせないために立ち上がったのは、地域に住む大人たち。 リモートワークなどでできた時間を使って、無料の学習支援教室に社会人が集まっています。

余裕のできた時間を活用して

アスポート学習支援教室

埼玉県内の各地で開かれている無料の学習教室。 高校受験を控えた2月下旬、東松山市の会場には25人の子どもが集まりました。 子どもたちは、ほぼマンツーマンで勉強を教わります。 子どもたちに勉強を教えているのは、地域の大人たち。 新型コロナの感染拡大が広がる前は、大学生が多く講師として参加していました。 しかし、大学もリモート授業が続く中、学生が課外活動に参加しにくくなったり、教室を主催する団体が大学を通して学生ボランティアを集めにくくなったりしたため、数が減ってしまいました。 代わりに手を上げてくれたのが、リモートワークなどで時間に余裕ができた地域の社会人です。 取材をしたこの日も、小学校教諭や自営業の人など、4人が参加していました。

一緒に過ごす時間は 子どもにとってスペシャルでいたい

勉強を教える桜井さん

このうちの1人、翻訳業をしている桜井奈美子さん。 コロナ禍で人と接する機会が減ってしまうなど、行き場を失っている子どもたちの力になりたいと、去年9月から学習支援に参加しています。

(桜井さん)
「大人もそうだけど、コロナ禍で閉塞感を感じている子どもは多いと思います。家や学校以外で人と接する機会が無く、選択肢の少ない子どもたちに、少しでもほかの機会を増やしてあげたい。私も夜は時間が空いていますので、参加を決めました」

桜井さんが勉強を教えること以上に大切にしていること。 それは、子どもの心の声に耳を傾け話し、社会人の先輩として、たくさんの可能性を広げてあげることです。

(桜井さん)
「だいたい2時間も一緒にいると、勉強の合間にポロッとキーワードみたいなことばを漏らすことがあるんです。『学校がね・・・』とかチラッと話すの。それを拾って、共感する。この時間だけはその子にとってスペシャルでいたいなと思うので、とことん話を聞くようにしています」

中には、進学や将来の夢についての不安を漏らす子どももいます。 この日も、勉強の合間に、これからの進路や将来の夢について一緒に考えました。

桜井さん)「大学に行きたい?」
女の子)「行きたい」
桜井さん)「大学に行って公務員になりたいなら、向いている学校があるかもしれない。家からの距離を調べてみようか」

大学や仕事の選び方など、社会人としての経験を生かして、たくさんの選択肢を紹介しています。

桜井奈美子さん

(桜井さん)
「勉強でなくても、料理が好きだというのならこんな仕事があるよとか、そのためにはどのような学校があるよとか、選択肢を広げてあげられるようアドバイスしています。そして、小さな事でもチャンスがあるということを伝えています。そうすると、子どもたちの目は輝きますよね。子どもたちがすぐに将来に向けて行動に移すわけではないと思いますが、心の中に『真剣に向き合ってくれる大人がいたな』ということが残り、いつか支えになるのではないかなと思っています」

子どもたちの気持ちを受け止めたい

勉強を教える髙田さん

塾で指導していた経験を生かして子どもたちの支援をしたいと参加している、大学の事務職員の髙田玲子さん。 髙田さんは、子どもの気持ちを受け止める存在になりたいと思っています。

(髙田さん)
「勉強も大事ですが、それ以上に子どもといろんな事を話すようにしています。家のことや学校のこと、今気になっていることなど、子どもたちの中には、ただ誰かに聞いて欲しいという気持ちがいっぱいあります。安心して話せる存在になって、学校でも家庭でもない、第3の居場所になりたいと思っています」

髙田さんにとっても、職場でも家庭でもない第3の居場所になっていると感じています。 髙田さんは子どもたちに、日々の仕事のことや人間関係のことなど、生活の中で感じることを話すこともあると言います。 子どもたちにとって、親以外の社会人の話はとても新鮮に感じられるようです。 大人たちと話すことで、社会人としての自分の姿を具体的にイメージする子どもも少なくないと言います。

髙田玲子さん

(髙田さん)
「大人が家庭じゃない場所でどのように生活しているのかということを知る機会は余りありません。私が職場や趣味の話をすると、結構興味を持ってくれる子も多いので、そういう情報も子どもたちは欲しているのではないかと感じています」

子どもたちに将来なりたい自分を想像してもらうことで、今学んでいる意味を感じて欲しい。 そして、ひとりひとりにとって何かのきっかけとなることばを、たくさん投げかけていきたい考えています。

(髙田さん)
「私は勉強を教えることで、子どもたちに何かのきっかけを作ってあげたいと活動していますが、そういう未来へのきっかけ作りは、いろんな形でできるのではないかと感じています。子どもと接してことばのキャッチボールをするなど、大人がたくさんの支援に関わり、子どもたちにとっての居場所が増えて、住みよい環境ができていったらいいなとも思います」

「何か困っていることはないかな?」 子どもたちの話に耳を傾け、寄り添い支えていく。特別じゃなくてもできる支援をはじめる、そんな動きが広がっています。

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