審査対象の11人が
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2020年12月22日決定50年以上前の“袴田事件”
再審認めるか

どんな
裁判か

  • 有罪か無罪かが50年あまりにわたって争われ続けている「袴田事件」の再審(裁判のやり直し)を認めるかどうか
  • やり直しを認めなかった高裁の決定を取り消し高裁でもう1度審理するよう命じた
  • 5人の裁判官の意見が3対2で分かれた

1966年に今の静岡市清水区でみそ製造会社の役員の一家4人が殺害された「袴田事件」。死刑が確定した袴田巌さんが無実を訴えて再審を申し立てています。

審理では、事件の1年あまり後に会社のみそのタンクから見つかった衣類が、袴田さんのものかどうかが争点となりました。静岡地裁は、衣類についていた血痕のDNA型が袴田さんのものとは一致しないという鑑定結果をもとに再審を認めました。一方、東京高裁は「鑑定の信用性は乏しい」として再審を認めませんでした。

最高裁第3小法廷は、衣類の血痕のDNA鑑定について「衣類は40年以上、多くの人に触れられる機会があり、血液のDNAが残っていたとしても極めて微量で、性質が変化したり、劣化したりしている可能性が高い。鑑定には非常に困難な状況で、証拠価値があるとはいえない」として、弁護側の主張を退けました。一方で、衣類に付いた血痕の色の変化について、「1年あまりみそに漬け込まれた血痕に赤みが残る可能性があるのか、化学反応の影響に関する専門的な知見に基づいて審理が尽くされていない」として東京高裁の決定を取り消し、高裁で再び審理するよう命じました。

袴田事件とは

1966年6月、今の静岡市清水区でみそ製造会社の専務の家が全焼し、焼け跡から一家4人が遺体で見つかりました。その年の8月に会社の従業員だった元プロボクサーの袴田巌さんが強盗殺人などの疑いで逮捕されました。当初は無実を訴えましたが、19日後に取り調べでいったんは自白し、裁判では再び無実を主張して争いました。

事件から1年あまりがたち、裁判が始まった後で、みそ製造会社のタンクから血の付いたシャツなど犯人のものとされる5点の衣類が見つかりました。
1968年9月、静岡地裁は、自白した時に作られた調書のほとんどを証拠として認めませんでしたが、衣類を有罪の証拠だとして死刑を言い渡しました。2審の東京高裁と最高裁でも無罪の主張は退けられ、1980年に死刑が確定。翌年に弁護団は再審・裁判のやり直しを求めましたが、2008年に最高裁で退けられ、27年に及んだ1度目の再審の申し立ては認められませんでした。

2度目の申し立てで、静岡地裁は5点の衣類のDNA鑑定を再び行うことを決め、その結果、2014年に再審・裁判のやり直しを認めます。「捜査機関が重要な証拠をねつ造した疑いがある」と当時の捜査を厳しく批判、釈放も認める異例の決定でした。東京高裁では、弁護側の専門家が行ったDNA鑑定の手法が科学的に信頼できるかどうかが争われ、2018年6月、東京高裁は、地裁とは逆に、衣類は袴田さんのものだと考えて不合理な点はないと判断し、再審を認めませんでした。弁護団は高裁の決定を不服として最高裁判所に特別抗告。最高裁の決定が注目されていました。

この裁判についての最高裁判所の資料はこちら(NHKサイトを離れます)

審査対象の裁判官たちの判断は

  • 裁判長林 道晴

    結論と同じ

  • 宇賀 克也

    結論に反対

    鑑定の信用性を否定すべきとは思わない。逮捕される前に袴田さんがみそのタンクに衣類を隠したとすれば、1年以上、漬けられていたことになるが、実験の結果はこの点に合理的な疑いを生じさせる証拠だ。化学反応の影響を審理するためだけに時間をかける多数意見には反対で、再審を開始すべきだ。

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