追跡 記者のノートから「初めてのシャンパンはお前に」その言葉の裏で…

2024年2月7日社会

「80万円なんて支払えない。でも、うれしかったんです。この人の一番になれているんだって」

軽い気持ちで訪れたホストクラブ。その店のホストを好きになった19歳の女性の言葉です。

ホストを「応援したい」と店に通いつめ、とても支払えないような高額な酒をツケ払いで注文させられたうえ、性風俗の仕事で稼ぐよう促されるようになったといいます。

東京・新宿で去年までの5年間に新たに開業したホストクラブは200店余りと急増。

空前の活況の影で、恋愛感情を利用し、若い女性たちの心を巧みに操る悪質なホストクラブの営業の実態が、取材で見えてきました。

(社会部記者 田中開/社会番組部ディレクター 二階堂はるか)

軽い気持ちで訪れたホストクラブで…

19歳のカナさん(仮名)は、高校3年生だったおととし、ちょっとしたきっかけでホストクラブを訪れました。

カナさん
「ホストという人たちの存在は知ってはいたけど、キャッチとかは無視するタイプだったんです。でも、ホストクラブに通っていた友達から楽しいよと言われて、どんな接客をされるんだろうと興味がわいたんです。『これも人生経験かな』と思って行ってみました」

案内役のホストが、当時好きだったバンドのメンバーに似ていたこともあって、その場で連絡先を交換すると、そのホストから毎日のように連絡が来るようになったといいます。

カナさんとホストのやりとり

店に来てくれたことへの感謝や、自分をほめてくれる言葉。「元気がない」と相談したときには、気遣うメッセージを頻繁に送ってくれるホストに、しだいに親密さを感じるようになりました。

すると、何度か店に通ったある日、ホストからこう切り出されました。

ホスト

お願いがある。俺はまだ、クリスマスに高級シャンパンを入れてもらったことがないんだ。初めてはお前に譲りたい。お前に託したい。

提示された価格はおよそ80万円でした。

カナさん
「80万円なんて支払えない。でも、うれしかったんです。この人の一番になれているんだって」

カナさんは、家族との関係に悩み、当時、ひとり暮らしをしながら自分で生活費を稼ぐため、性風俗の仕事を始めていたといいます。より稼ぎの良い風俗店で働けば、どうにか工面することができると考え、仕事を増やしてお金を稼ぎ、高級シャンパンを注文しました。
自分ではお酒は飲みませんでしたが、担当のホストの成績を上げられるならと思ったのです。

親に頼れずに1人で生きていたカナさんにとって、ホストクラブが特別な場所になっていたことも、理由の1つだったといいます。

カナさんとホスト

カナさん
「私には『ただいま』と言ったら『おかえり』と返してくれる環境がなかった。両親は共働きで、仕事から帰ってきても叱られたり叩かれたりするのが日常でした。ホストが『おかえり』と言ってくれたときに、ここが私の居場所だと思ったんです。これが本当の人の優しさなんだ。おかえりとか、ありがとうって言われることが、こんなにうれしいことなんだと」

ところが、無理やり高額な酒を注文されるなど、ホストの要求はエスカレート。一度に120万円を請求され、支払えなかった分は店の「売掛金」となりカナさんが借金を抱えることになりました。そして返済が滞ると、店のスタッフも一緒になって強引に支払いを迫ってくるようになったといいます。

店側

お前の実家に行く。
臓器を全部売って、海外で死ぬ気で働いてこい

活況を呈するホストクラブ 客層に変化

東京・新宿で去年までの5年間に新たに開業したホストクラブは200店余りと急増しています。

一方で歌舞伎町で女性の支援にあたるNPOによりますと、ホストクラブに通う女性たちの客層が変わってきているということです。

NPO「ぱっぷす」 金尻カズナ理事長
「昔は一部の人たちが集まる閉ざされた世界というイメージでしたが、SNSで店内の雰囲気やホストの日頃の様子などがたくさん発信されるようになり、それを見た女性たちが『アイドルの推し活』の感覚でホストに会いにいくようになりました。これまでホストクラブに無縁だった女性たちが興味を持つようになっています」

家庭や学校に居場所がなく、孤独を感じ、ホストクラブに通い始める女性も多いといいます。

「ホストクラブを居場所だと思うことで、店に通えば通うほど『自分にはここしかない』と依存の度合いを強めていってしまう。担当のホストができると情がわいて、より通うために性風俗で働くようになるなど、恋愛感情を利用した『ビジネス』に取り込まれていくのです」

ホストと客 「売掛金」めぐる事件相次ぐ

大久保公園周辺での警視庁の取締りの様子

こうしたなかで相次いでいるのが「売掛金」をめぐるホスト側と客とのトラブルです。なかには事件に発展するケースも出ています。

ことし1月、20万円の売掛金の回収のため20代の女性客に歌舞伎町の路上で売春の客待ちをさせていたとして、ホストが強要の疑いで警視庁に逮捕されました。

女性が売春の客待ちを指示されていたのは、歌舞伎町の大久保公園の周辺。

この地区では近年、多くの女性が売春の客待ちをしていることが問題となっていて、去年1年間で140人の女性が検挙されました。

警視庁によりますと、このうちの4割が、ホストクラブなどでの遊興費や「売掛金」の返済が目的だったということです。

また、金の返済を求めて、客の女性の顔を殴るなどしたとしてホストが逮捕される事件もありました。

なぜ激しい「売掛金」の回収が

なぜ、激しい「売掛金」の回収が行われているのでしょうか。

「売掛金」は、ホストが店に対して客の飲食代金を立て替える仕組みです。
ホストなどへの取材によると、期日までに支払われなかった場合、店によっては給料から天引きされるなどホストが負担することになるため、激しい回収につながるのだといいます。
その一方で、多くのホストクラブでは、月間や年間で1人のホストがいかに売り上げを伸ばすかが重要視されていて、その額に応じて「年間1億円プレイヤー」などともてはやされたり、店から表彰されたりすることもあります。

さらに、SNSを利用した集客の際に「肩書き」になるような大きな売り上げ実績があれば、女性へのアピールにもなります。

そのため、たとえ回収できない可能性があっても、売り上げを大きく見せたいという思惑が働くため、「売掛金」が膨らむ傾向にあるというのです。

ホストであることを隠して接触 巧妙な「営業」の実態

若い女性たちをどのようにして店に誘い込むのか。
大手のホストクラブで働いていた男性は、「マッチングアプリ」を使った集客の指導を受けていたといいます。

大手ホストクラブで働いていた男性
「まずプロフィールには絶対にホストとは書かない。客の勧誘を疑われて女性がアプリの運営者に通報してしまい、アカウントが使えなくなってしまう可能性が高いからです。なので最初はホストであることを伏せて、4回ほどやりとりすれば、すぐに別のメッセージアプリに移る」

やりとりを重ねて仲良くなり、「1度、会おう」と持ちかけ、ホストだと明かすのだといいます。そして、ホストの悪いイメージを取り除いたり、「○○ちゃんのことが好きだ。つきあいたい」と好意を持っていることを伝えたりします。営業ではないと信じ込ませるためだといいます。

そして好意を向けられてきたころ、女性が店に行きたいと思わせるような言葉を投げかけ、来店を後押しするよう指導されたといいます。

「ホストで頑張るのが俺の目標なんだ。夢があるから、一緒に頑張れたらうれしいな」

こうして獲得した女性客を性風俗で働かせることを前提に、高額な売掛金を作らせることも常態化していたということです。

大手ホストクラブで働いていた男性
「売掛をさせて、女の子がもうこの金額支払えないと思わせて、『もうそろそろ、そういう仕事をしなきゃいけない』と必然的に思わせる。直接、風俗の仕事の話をすれば違法なあっせんになってしまうのでそれはしませんが、その女の子の容姿や年齢を踏まえて、『この子だったら風俗を始めたらこれくらい稼げる』と想像したうえで、自分のなかでプランを立てて接客すると決めていました」

「日常をどんどん侵食していく」

月に1000万円以上を売り上げるという歌舞伎町の現役のホストは、客の心をコントロールするために、意図的に「孤立」させることもあるといいます。

現役のホスト
「日常をどんどん侵食していく。その子を自分のお客さんにすると決めた時点で、いままで行ったことがあるホストクラブやバーの連絡先を消させたり、家のかぎを預かったり、自分の契約した家に住まわせたりすることもある。自分のために24時間ささげてもらえるように趣味や友達も意図的に削いでいく」

このような生活が続くと、女性が「疲れたから店に通うのを辞めよう」と思ったとしても、さみしさに耐えられずに戻ってくるのだといいます。

こうした実態を当然のように話した現役ホスト。「売掛金」をめぐるトラブルが相次いでいる現状については。

現役のホスト
「昔、遊びに来ていた人たちはホストクラブがどんな場所かちゃんとわかっていた。でもいまは、SNSやインターネットで発信されているキラキラした世界だけを見て、勘違いして来店する若い女性が増えている。
例えば、高級なハイブランド品を身につけている女性は、お金は持ってそうに見えるけれど、結局自分に使っているのであまりホストクラブでは使わない。逆に少し残念というか、ボロボロの服を着ているくらいの女の子で自分にお金を使っていない、若くて社会経験が少ない人が『ど真んなか』。
そうした女性を狙っている側面もありますが『危ない場所だってわかってるでしょ』という気持ちもあります」

急がれる対策

取締りにあたる警視庁も危機感を強めています。

犯罪にあたる行為をされた女性が、ホストと人間関係が切れずに、被害を申告しないケースもあり、実態の把握が難しいからです。

警視庁保安課 大嶺忍課長
「ホストが売掛金の回収に伴って女性客を性風俗店で働かせることは売春防止法や職業安定法に違反しますし、売春の客待ちをさせる行為も売春防止法のそそのかしや教唆に該当します。ホストとの恋愛感情があるということで、そのホストに気が向いている間は被害に気づけない、被害申告が出にくいという課題もありますが、社会経験や知識が乏しい若者が搾取されている深刻な問題だと受け止めています。色々な相談を受けつけたり、事案を掘り起こしたりすることで、違法行為の検挙をさらに強化する必要があります」

行政とホストクラブの団体が自主的な規制をしようという動きも出ています。
去年、新宿区はホストクラブ経営者などとの連絡会を設置し、自主的な規制について協議を重ねました。

新宿区がホストクラブの経営者らと開いた連絡会

ことし1月からは、20歳未満の新規の客は店側が自主的に入店を断ることや、ことし4月以降は売掛金などでの営業の取りやめを目指すとしています。

トラブルを抱える女性たちの相談窓口も設けられました。警視庁の専用窓口では、警察官や心理学の専門知識を持つ心理職員が電話や対面で相談に応じています。

警視庁の電話相談
03-3227-8335 平日 午前8時半~午後5時15分
03-3580-4970 休日・夜間(ヤング・テレホン・コーナー)

取材後記

今回の取材で見えてきたのは、悪質なホストクラブ側が、社会経験が少ない若い女性客に対し、恋愛感情などを利用し、巧みに心をコントロールするという営業の実態です。
また、資金が無いのにホストクラブに通い詰めてしまう女性のなかには、家族関係の問題や孤独感など本人だけでは解決できない事情を抱えている人がいることも見えてきました。

注意を呼びかけるだけではなく、こうした女性を周囲が支援していくことが求められると同時に、何より客である女性の犠牲を前提とするような悪質なホストクラブの営業を社会が許容していてはいけないと強く感じました。

※2月7日クローズアップ現代で放送予定

  • 社会部記者 田中 開 2018年入局
    高知局を経て、2023年から社会部・警視庁担当
    投資詐欺など生活に身近な事件を取材

  • 社会番組部 ディレクター 二階堂はるか 2016年入局
    沖縄局などを経て現職
    性暴力、歌舞伎町に集まる若者などをテーマに取材