追跡 記者のノートからそれは“正義”なのか 過激化するユーチューバー 行き着く先には 

2023年12月13日

「あなた、触ってましたよね」
「一緒に警察に行きましょうか」

“私人逮捕系”や“世直し系”と称されるユーチューバーたち。

痴漢や盗撮、詐欺などの犯罪行為や路上喫煙など迷惑行為をしたとして相手に突撃し、取り押さえたり、問い詰めたりする一部始終を動画で撮影、公開している。

犯罪の抑止につながる面も一部では否定できない一方で、えん罪やトラブルを生む危険性もある。
さらに撮影された人の中には、1本の動画によって人生を狂わされ、命を絶つことまで考えた若者もいた。

彼らの振りかざす“正義”の行く先に見えたものはー

鋭い眼光

11月某日、そのユーチューバーは新宿駅のホームに立っていた。

黒のスウェットにランニングシューズ。バッグは肩に背負い、両手は自由に動かせるようにしていた。

午後7時前。家路を急いでいる人たちでホーム上はひしめきあっていた。

ユーチューバーは周囲の様子をうかがいながら、人波をかきわけていく。

その眼光は異常なほど険しく鋭い。

突然、ある人物を指さした。

「ほら、あれ、わかります?常習犯です。この路線は、午後7時前後の1両目から3両目に痴漢が多い。柱の陰に立っている黒い服を着ているヤツ。いつもこの時間帯にあそこにいるんです」

その人物は視線に気がついたのか、そそくさと立ち去っていった。

まもなくして、電車がホームに入ってきた。

車内は身動きが取れないほどに混雑している。

ユーチューバーの手にはスマートフォンが握られている。「いつでも撮影できるように」だと言う。“私人逮捕”したときの証拠にもなるからだそうだ。

何も起きることなく、15分ほどして電車はある駅に到着した。ホームに降りたユーチューバーは、きびすを返し、また新宿方面へと向かう車内に入っていく。引き返す車内でユーチューバーは話した。

「怪しい人はいました。でも、確たる証拠がつかめませんでした。1日3人捕まえる日もあれば、ひとりも捕まえられないときもあります

ふと車内を見渡して、驚いた。

先ほど新宿にいて一緒に乗ってきた同じ人が、新宿に引き返す車内にもいることに気がついた。それも、確認できるだけで3人。

「そうです。あいつらも新宿に戻るんです。また新宿で獲物を探すんでしょうね。常習犯です」

ユーチューバーは、痴漢を“私人逮捕”する活動をはじめてから9か月で、100人を超える相手を取り押さえてきたと振り返った。

「ホーム上にいつでも警察官はいますか?駅員は痴漢に目を配っていますか?だから僕がやらなければいけないと思っています」

ただ、私人逮捕とは本来、偶然犯罪を目にしたときなどに緊急的に、極めて限定的な条件のもとで認められるものだ。

しかし、このユーチューバーは、みずから犯罪を探しに向かっている。目的がどんなに正しかったとしても、違和感はぬぐえなかった。

<私人逮捕 求められる要件>
「私人逮捕」は、警察などの捜査機関ではない一般人が犯人を逮捕することで、刑事訴訟法で認められている。ただ、「現行犯」など犯罪を行っているときや、犯罪を行い終わってからまもないと明らかな場合に限られ、
▽「この人は泥棒です」などと呼ばれて追いかけられている場合
▽血のついたナイフなど、明らかに犯罪に使ったとみられる凶器を持っている場合などが、該当するとされている。

また、一般人が私人逮捕をした場合には、すみやかに警察官や検察官などに引き渡さなければならないと規定されている。警察庁によると、刑法犯の私人逮捕は去年1年間におよそ330件あり、その7割は万引きなどの窃盗事件だった。

何が彼らを駆り立てるのか

取材に応じたのは30歳のユーチューバー。

ことし2月にチャンネルを開設し、満員電車で女性を触るなどの痴漢が疑われる行為をしたとして、乗客を取り押さえ警察や駅員に引き渡すまでの動画を公開してきた。

ときに相手と激しくもみ合ったり、逃げる人を大声で追いかけたあとに羽交い締めにしたり。過激な映像が話題を集め、登録者は26万人あまりになっていた。

動画によっては100万回を超えて再生されたものもあった。

中には、疑われた乗客が階段から転げ落ちたり、ほかの乗客とぶつかったりするなど危険な様子も写っていた。

ユーチューバーは淡々とした口調で、こうした動画の撮影を始めたきっかけを話した。

「手が届きやすいからです。(別の事件で)去年逮捕され、2か月間勾留されていたときに、次は人のためになる仕事をすると決め、思いつきました。私人逮捕ができることはもともと知っていて、類似のコンテンツがなかったので、勝算があるなと。特に、痴漢は世にあふれる犯罪なので、定期的に動画を投稿するにもぴったりだと思いました」

私人逮捕の本来の趣旨とは違うのではないかと感じ、問うたところユーチューバーは次のように答えた。

「痴漢撲滅の社会現象を起こしたいんです。そして鉄道会社に実効性のある痴漢対策をとらせます。もちろんゼロにすることは無理だと思うので、今の痴漢をめぐる犯罪が100だとしたら、5くらいにしたい。世の中を変えたいからやっています。収益については、得なければ生活も活動もできないので、悪いことではないと思っています」

えん罪を生み出していないか

しかし、こういった私人逮捕系ユーチューバーは、えん罪を生み出すおそれもある。

41歳の別の私人逮捕系ユーチューバーは、ことし9月、都内のコンサート会場でチケットを高額で転売したと疑いをかけて、無関係の女性を撮影し公開したとして先月、名誉棄損の疑いで逮捕された。捜査関係者によると、調べに対して「チャンネル登録者数を増やしたかった。広告収入を得て有名になりたかった」と供述しているという。

捜査機関でもない私人の立場でどのように犯罪行為かどうかを見分けられるのか。冒頭のユーチューバーに問うた。

記者

えん罪のおそれがあると思うがどのように考えていますか?

犯行を見ているし、被害者にも確認を取っているので、えん罪は私がやる限り、絶対にないと思っています

ユーチューバー
記者

私人逮捕系動画は世間から批判を受けていますが、それについては?

私人逮捕の要件を満たしているか自分で確認し、犯行の瞬間を映像で撮っています。拘束するときも、ケガをしないように注意を払っています。私人逮捕について、後ろ指をさしていただいても批判をしていただいてもいいんですけど、見てもらいたいのは、痴漢とか盗撮とか犯罪そのものなんです。悪いところは直すつもりですが、活動自体をやめるつもりはありません

ユーチューバー

インタビューの10日後、このユーチューバーは違法薬物を所持する犯人を捕まえる動画を撮影する目的で、ネットで知り合った人物に覚醒剤を持ってくるようそそのかしたとして、覚醒剤取締法違反の教唆の疑いで逮捕され、その後別の容疑で再逮捕された。

彼らの“正義”を後押しするものは

逮捕された2人のユチューバーと一緒に活動したこともあり、世直し系の動画を配信している男性にも話を聞いた。

犯罪撲滅活動をしているというフナイムさん。私人逮捕をしたとする動画を配信したこともあるが、その目的は収益ではないと言う。

「いまは一人一人個人がSNSで発信して、それを見てくれた人たちがどんどん拡散していく。それで社会が動く時代なんですよ。だからこそ僕らみたいな活動をしている人間が、よりよい社会をつくるために活動する。決して収益目的ではありません」

詐欺グループのメンバーとして5年前に逮捕されて実刑判決を受けた経験があり、二度と自分のような犯罪者を出したくないと、活動を始めたという。

主な活動は詐欺の撲滅。闇バイトの募集電話に直接電話をかけて録音し、その音声をもとに、手口などをユーチューブで公開している。

フナイムさんの動画には、撮影した相手の顔がわからないように加工をしたものと、そうでないものがあった。

その差は何かと問うと、本人が反省しているかどうか、相手の態度を見ながら判断しているという答えが返ってきた。

フナイムさんのもとには全国から「もっと犯罪を追及してほしい」という声や内部告発の情報も寄せられている。そうした声に応えるために、動画を投稿し続けていると言う。

動画を公開した結果、誰かが傷つき、自分自身も逮捕される可能性があるなか、活動を続ける理由については次のように話した。

「きちんと法律を守っているか自分で考えて、それでも(名誉棄損などで)逮捕されるのであればしかたないと考えています。そして、傷つけてしまった方には誠心誠意謝罪をして、罪を償います。正しいことは正しいんだと信じて活動したい。人助けをしたい、ただそれだけです」

私人逮捕系も世直し系の動画配信も、えん罪を生み出すおそれがある。誰かの人生を変えてしまうかもしれないような判断を、個人の正義感に委ねてしまっている。そこには危うさを感じざるを得なかった。

動画のニーズは

私人逮捕系、世直し系の動画はどれくらい見られているのか。

私たちは今回、普段からインターネットで動画を見るという、10代~60代の男女1000人にネット上でアンケート調査を実施した。

その結果、私人逮捕系の動画については、192人が「見たことがある」と答え、「日常的に見る」が79人、「ときどき見る」が73人で、あわせると3分の1以上にのぼった。

私人逮捕系や世直し系の動画の投稿については、「投稿すべきでない」と答えた人が700人(7割)と最も多かった一方で、「投稿が増えてほしい」が37人、「増えてほしいとは思わないが必要だと思う」が263人と4分の1以上いて、一定の理解を示す人がいることが垣間みえる。

必要だと答えた人に理由を尋ねると、「犯罪の抑止につながる」が最も多く、「警察や行政が信用できない」と回答した人もいた。

その“正義”の先で起きていたこと

取材を続けていく中で、ユーチューバーが公開した動画をきっかけに、撮影された側が、命を絶つことを考えるまでに追い詰められている現実も目の当たりにした。

ストリートミュージシャンの20代の男性。

新型コロナによる影響がようやく落ち着き始め、路上でのライブを再開したばかりのころだった。

「インタビューさせてもらえますか」

新宿の駅前で、路上ライブの準備をしていたとき、ひとりのユーチューバーに声をかけられた。一緒にいた別の人物がすでに、カメラを使って動画を撮っているようだった。

「どんな音楽をやっているんですか」などの何気ないやりとりがあった。ユーチューブで紹介してもらえれば、名前を知ってもらえるかもしれない。名乗ったうえで、質問に応じていた。

ところがしばらくして突然、ユーチューバーの態度が一変したという。

「許可とってますか?」

新宿駅前では、歩行への影響や騒音の懸念から、路上ライブを禁止する掲示が出されている。

一方で、路上ライブの聖地とも言われるこの場所では、新型コロナが落ち着いたころから、大音量で演奏をするミュージシャンが増えていた。ライブ禁止の掲示が出されたあとも、連日、多くの人が演奏を続けていた。男性も許可を得ずに演奏していた。

「お前、バカだろ」
「警察に迷惑かけてでも歌いたいの?」

すぐに路上ライブをやめるよう迫ってくるユーチューバーに、男性もいつのまにか強い口調になり、気がつけばけんかのようになっていた。

記憶ではやりとりをしたのは1時間ほど。動画を公開しないように何度もお願いしたが、ユーチューバーはそれには応じず、その場を去っていった。

それから1週間ほどが過ぎた。

「大丈夫?」

男性のもとに、友人や知人から身を案じるような連絡が立て続けに入った。

あのときのやりとりが3分ほどに編集されてユーチューブで公開されていた。動画では、名前がはっきりとわかるようになっていた。

悪夢のような日々はそこから始まった。

SNSで自分であることがすぐに特定された。毎日のように、ひぼう中傷のメッセージが届くようになり、多いときには1日で100件を超えた。

大人なんだからルール守りましょうよ

路上ライブ迷惑でーす

絶対に売れない
ミュージシャンあきらめろ

「キモい」「やめろ」

なるべく見ないようにしていたが、完全に無視することはできなかった。

中には、擁護するメッセージを送ってくれる人もいた。すると今度はその理解者に対し、「犯罪者の肩をもつのか」といった中傷が及んだ。

出演を予定していたライブハウスにも苦情が入り、いくつもの演奏がキャンセルになった。しばらく、家から出ることもできなくなり、横になったまま、ただ天井だけをみて過ごす毎日が続いたという。

「人生終われ おつかれさま」「死ねよ」

SNSにはそんなメッセージまで、書き込まれていた。人に夢を与えるミュージシャンになりたい。そう思っていた自分が犯罪者のような視線を向けられ、自分のせいで多くの人を巻き込んでしまった。気持ちはどんどん追い詰められ、いつしか死にたいとまで考えるようになってしまっていた。

「演奏してはいけない場所でやってしまっていたことは申し訳なく、自分がいけない面があったことはわかっています。ただ何を言っても否定される。何をやってもたたかれる。炎上はやがておさまるのかもしれませんが、ネットの中にはずっと傷として残り続けます。本当にそこまでさらし者にされなくてはいけなかったのかという思いもあります」

ネット上での中傷は1か月以上にわたって続いたが、その間、ファンからの励ましもなくならなかった。

中には、演奏会場を提供してくれるという話もあり、許可を得たところで路上ライブを徐々に再開している。

インタビューの終盤、男性は、ぽつりとつぶやいた。

「何でも白黒はっきりさせたがる風潮というか、そういう社会ですよね」

人気ユーチューバーが語る “過激化の背景”

なぜ動画が過激になっていくのか。私たちはあるユーチューバーのもとを訪ねた。

その男性は動画の中と同じように、白いマスクにグレーのパーカー姿で待っていた。

170万人以上のチャンネル登録者がいるラファエルさん。ドッキリや高価な買い物をする動画の配信が人気を集め、多いときには月に数千万円にのぼる収入があったという。

私人逮捕系の動画は撮影していないが、ラファエルさんも視聴回数を求め、かつては過激な動画を多く制作していたという。

「シンプルに言うとネタが尽きるということですね。テレビ番組と違って1週間で何本も配信していかないといけないので、どうしても派手に見せるしかなくなってきます」

女性をお金で口説けるか試したり、車のフロントガラスを素手で割ってみたり。配信を重ねるたびに、より過激になっていった。

しかし、2019年1月、ユーチューブのガイドラインに沿っていないとして、突然、アカウント自体が停止された。そのときに、あまりにも数字に縛られすぎていた自分、そして動画配信の危うさに気がついたという。

「完全に数字に追われていて、もっともっとという気持ちになっていました。過激な動画というのは、ある意味ではドラッグのようなものだと思っています。視聴回数は稼げますが、それは結果として自分の首を絞めることにもなっていたんです」

ラファエルさんは動画配信を再開し、いまはガイドラインを守ったうえで、著名人との対談やビジネスの話題など、ユーザーの興味を引くコンテンツの制作を目指している。

「動画の配信をする人が一昔前に比べたら格段に増えていて、広告料などのパイをとりあっている状況が起きています。ユーチューバーは最近、職業として認知されてきていますが、まだまだ社会的な評価が低いような状況もあって、長期的な視点でガイドラインの中で面白いものをつくっていかなければならないと思います」

いつのまにか加担していないか

SNSやメディアの研究を行ってきた専門家は、無数のコンテンツがあふれる中で、特に正義感に訴えかける動画が人々の心をつかんでいると分析している。

国際大学 山口真一准教授
「これまでにも“迷惑系”や“暴露系”といった動画が耳目を集めてきましたが、“私人逮捕系”や“世直し系”といった動画は悪を懲らしめるという点で、人々の正義感に火をつけ、みている側も快楽を感じてしまいます。怒りの感情はSNSなどで拡散しやすく、熱狂的なファンを生むことにつながっているのではないでしょうか」

ネット上では注目されるかどうかが大きな価値をもつ、“アテンションエコノミー(関心経済)”という仕組みが支配的になってきているとして、山口准教授は動画を視聴する側にも心構えが必要だと話す。

「過激な動画はもともと、“いいね”を押されたいといった承認欲求から始まったものですが、今では注目を集めること自体がそのままお金に変わる構造へと変わりました。将来的には“私人逮捕系”や“世直し系”に代わるような過激な動画も登場するかもしれません。
ネット上にあるコンテンツに向き合うときには、その動画が誰かに迷惑をかけていないか、その動画が人気になることが窮屈で不寛容な社会に近づくことになっていないか、そのことにいつのまにか自分が加担してしまっていないかという視点をもっておくことが大切だと思います」

(12月13日クローズアップ現代で放送)

NHKプラス 配信期限12/20(水) 午後7:57

  • ネットワーク報道部 記者 廣岡千宇 2006年入局 
    横浜局・福島局などを経て2021年から現所属

  • ネットワーク報道部 記者 直井良介 2010年入局 
    山形局・首都圏局など経て2023年から現所属