追跡 記者のノートから深夜の高速で大渋滞「0時待ち」のいま 記者同行記

2023年3月22日社会

午前0時前の高速道路。深夜割引となる時間を待って、大量のトラックが列をなす「0時待ち」。

駐車禁止の場所にまであふれて危険な状態で、死亡事故につながったとみられるケースも起きています。

「精神的にも疲れますし、事故にもつながるかもしれない。でも会社のことを考えると…」

今回、「0時待ち」をするトラックドライバーに密着。
中小の運送会社の中には、厳しい経営環境に置かれている会社もある現状が見えてきました。

一方、問題の改善に向け、国も割り引き制度の変更へと動き始めました。
制度はどう変わるのか。「0時待ち」は解消されるのか。
「0時待ち」のその後を追いました。

(津放送局 周防則志)

「0時待ち」の危険性

午前0時前。高速道路の料金所近くには続々とトラックが。 

しかし料金所を通って高速を降りずに、駐停車が禁止されている路肩に止まります。わずか数分でトラックは本線上にあふれ出すまでになります。

ETCを利用する車が午前0時から午前4時までの間に少しでも高速道路を通行していれば、料金の30%が割り引かれる深夜割引を待つ「0時待ち」です。

料金所の手前だけでなく、パーキングエリアの路肩などに止めるトラックもいて、各地で危険な事態になっています。去年4月には、三重県内のパーキングエリア付近で「0時待ち」が背景にあるとみられる死亡事故も起きました。

この記事を公開すると、全国のドライバーや運送会社からの声がNHKに相次いで寄せられました。

「ただでさえ燃料代が高騰する中、売り上げを維持するために『0時待ち』をさせざるを得ない」

「荷主からは『深夜割引』を利用することを前提とした額しかもらえない」

いずれも、運送業界の置かれた厳しい現状を訴えていました。

神奈川から三重へ ドライバーに同行

そのうちの1つ、神奈川県内の運送会社がドライバーへの同行取材に応じてくれました。

従業員はおよそ30人。北海道から沖縄まで全国各地へ精密機械を中心に運んでいます。

「よろしくお願いします。どうぞ」

この日、同行することができたのは茅野翔さん。コロナ禍に転職し、憧れのトラックドライバーになったというキャリア2年目のドライバーです。

九州などの遠方では週に1回程度、関西といったより近い地域では週に2回程度、神奈川県との間を行き来しています。

長距離の運送に出ると、トラックの中で長時間休憩したり、仮眠をしたりすることが多くなります。運転席の後ろのスペースには毛布や枕などがあり、「家のようなものだ」と笑みをこぼします。車に置かれていた眠気覚ましのためのガムも印象的でした。

休憩するのにも一苦労…駐車場確保も困難

この日の目的地は、三重県の四日市市にある工場。神奈川県藤沢市で精密機械の部品などを積み込み、午後5時半に出発しました。

新湘南バイパスの藤沢インターチェンジから高速道路に乗って、新東名や伊勢湾岸道などを経由し、みえ川越インターチェンジまで向かいます。仮に休憩なしで進めば、4時間半ほどの距離です。

出発から2時間半がたった午後8時前。茅野さんから声をかけられました。

「ちょっと早いですけど、次の藤枝パーキングエリアに入りますね」

カーナビを見ると、藤枝パーキングエリアの先にあるパーキングエリアやサービスエリアには「満車」の表示が続きます。

国土交通省の告示で、トラックなどのドライバーは、連続運転が4時間を超える前に30分の休憩をとるよう求められています。

コンビニエンスストアや入浴施設のある場所は、特に人気で混みやすいと言う茅野さん。休憩のタイミングを逃さないために、予定より2つ手前のパーキングエリアで、早めの休憩をとることにしたのです。

藤枝パーキングエリア

順調に進んでいたため、長めに50分の休憩をとって午後9時前に休憩を終えるころには、このパーキングエリアも満車に。

満車になった駐車場

さらに、本線に向かう途中の路肩にはトラックがあふれていました。茅野さんも周囲を確認しながら慎重に進みます。

本線に向かう途中の路肩にとまるトラック

「危ないなとは思いますよね。こうして通ると、やっぱり狭いんで」

パーキングエリアなどの駐車場はほとんどが一方通行。休憩しようと思って入ったものの満車だった場合は、本来ならそのまま本線に戻り、次のパーキングエリアに向かうしかありません。

休憩はとらなければいけない。でも、駐車場が混雑していると止められない。どうにかしようとした結果、パーキングエリアの出入り口付近の路肩など、駐車禁止の場所に止まっているのではないかとみられます。

止まりたいのに止まれないかも“0時待ち”の負担

午後11時ごろ。左手に大きな観覧車やジェットコースターが見えてきました。湾岸長島パーキングエリアです。

高速を降りる予定のみえ川越インターチェンジのすぐ手前ですが、高速料金を割引いてもらうためにここで「0時待ち」をすることにしました。

午前0時まではまだ1時間ありますが、すでに駐車場は混み合っています。どうにか空いているスペースを1か所見つけることができました。ほっとした様子の茅野さんですが、改めて話を聞くと厳しい表情で、次のようにひと言。

ドライバー 茅野翔さん
「止まりたいのに止まれない。けど何が何でも止まらなきゃいけないというのは、ドライバーにとってもかなりストレスなんですよね。精神的に疲れてしまうし、そのことが最終的には事故につながることにもなりうると思うんです」

その後、1時間ほど待機して、みえ川越インターチェンジを通過したのは午前0時3分。料金は6510円で、深夜割引によって3000円近く安くなりました。

「0時待ち」利用のため7時間かけて

ただ、深夜に高速道路を降りても、すぐに仕事が終わるわけではありません。荷物を降ろす工場が開くのは午前9時。その時間まで荷物を受け渡すことができないので、工場の近くに移動して、朝までトラックの中で睡眠をとるといいます。

仮に休憩なしで走ると4時間半の道のりを、およそ7時間。本来ならもっと早く休息に入れたかもしれないのに、「0時待ち」の割り引き制度を利用したため、結果的に拘束時間が長くなってしまっているのです。

ドライバー 茅野翔さん
「会社に貢献するのであれば、やっぱり深夜割引を使ったほうがいいです。でも、正直自分のためって考えるんだったら使わないほうがいいですよね。疲労感もかなり違ってくるのかなと。難しいですね」

そもそも、行った先で待機せずに、自宅などでゆっくり休んでから、現地にちょうど着くように移動しては?とも思います。

この点については、途中で何かトラブルがあれば荷物を届けられなくなるかもしれず、早め早めに極力近くまで行っておきたい、遅れるくらいなら早く行って待機したい、というのが多くのドライバーの心理だということです。

ドライバーには無理をさせたくない けれど経営的には…

「家でゆっくり睡眠をとるのが、一番疲れもとれると思うし、家族に早く会いたいというドライバーも当然います。深夜割引を待ってもらうのは心苦しいのですが、経営を考えるとやはり頼らざるを得ないのが現状です」

茅野さんの会社の社長、森崎光さんは苦しい胸の内を明かしてくれました。

会社で作成した原価計算書を見せてもらいました。

高速道路の料金をすべて負担してくれる荷主は少ないため、「深夜割引」を使わないと、売り上げから燃料費や人件費を引いたときに、赤字になってしまうということです。

森崎さんは、ドライバーへの負担を軽くするためには、解決策は荷主に高速料金を負担してもらうしかないと考えています。

運送会社 森崎光社長
「高速道路の料金を出してくれる荷主は、いまは1割程度しかいません。ドライバーが無理をせずに働ける、そして会社側もある程度はしっかりと経営できる。そうした両立を図っていくためには、それに見合った金額をもらわないと厳しい。そのあたりの理解を荷主の皆さんに説明していきたいです」

交通経済学が専門の東京女子大学の竹内健蔵教授によると、こうした状況の背景には運送会社に比べ、荷主の立場が強いという構造的な問題があるといいます。

規制緩和によって運送会社の数が増えた中、依頼を受けるためにより安く請け負う会社が出てくる。すると他社も仕事をとろうとして、安く請け負うようになる。こうしたスパイラルが続いて、特に中小の運送会社では、荷主から安い運賃を提示されたとしても、受けなければ次の仕事がなくなってしまうことを懸念し、なかなか断れないところも多いというのです。

深夜割引制度見直しへ 動き出した国

こうした中、ことし1月。「0時待ち」の引き起こす状況がドライバーの労働環境の悪化にもつながっているとして、国は深夜割引制度を見直す方針を明らかにしました。

見直しの案は以下の通りです。

▽割り引きの対象とする時間を午後10時から午前5時までの7時間に拡大
▽その時間帯に走った距離の分だけ3割引きにする

また、深夜割引とは別に
▽400キロ以上を走った場合は距離に応じて割り引きの率を引き上げるという内容も含まれています。

制度の見直しには、車両が走行する位置や時間を把握するための専用アンテナの整備が必要で、国土交通省や高速道路各社は2024年度の運用開始を目指すことにしています。

現行の制度では、午前0時を少しでもまわれば割り引きを受けられるため、午前0時まで高速上で待つトラックによる混雑が生まれています。新しい制度だと午前0時の直後に降りてしまうと割り引きをほとんど受けられないため、「0時待ち」による混雑は解消されると国は考えています。

竹内教授は、すぐに取り組める改善策として料金制度の変更は必要なものの、対症療法であって根本的な解決にはならないとした上で、次のように話しています。

東京女子大学 竹内健蔵教授

東京女子大学 竹内健蔵教授
「そもそも、運送会社が高速道路料金を含め、荷主と対等な立場で運賃を決められれば、深夜に無理に走行してドライバーに余計な負担をかける必要もなくなります。
運賃が安くなって物流のコストが抑えられ、送料無料などで私たち消費者は恩恵を受けてありがたいと思いますが、その反面しわ寄せを受けている業者たちもいる。そのことが事故につながることもある。深夜割引に過度に頼らなくても利益が生まれるような運賃設定ができる市場構造を作ることが求められます」

取材後記

同行取材の際、時間調整のために入った湾岸長島パーキングエリアは、去年4月に0時待ちが背景にあるとみられる死亡事故が起きた場所です。今回立ち寄ったときも、事故が起きたのとほぼ同じ、駐停車禁止の場所に1台のトラックが止まっていました。事故のことをきちんと伝えてきたつもりですが、危険な状態が解消されないことに歯がゆい思いをしました。
ただ、問題を伝え続け、今回制度が見直しされることになり、ひとまず一歩進んだという思いもあります。見直しで本当に問題は改善へ向かうのか。再び大きな事故が起きることがないように、そしてドライバーの健康を第一に考えつつ、運送業界もきちんと成り立っていくにはどうしたらよいのか。この問題を取材し続けていきたいと思います。

  • 津放送局記者 周防則志 2020年入局 “地域の課題を解決する”報道を目指している。