2023年11月24日
パレスチナ イスラエル 中東

イスラエル、ハマスと人質解放・戦闘休止で合意なぜ?停戦は?

10月7日にイスラム組織ハマスのイスラエルへの奇襲攻撃によって始まった軍事衝突。

日本時間の24日午後2時、4日間の戦闘の休止が実現しました。

しかしー

「これは短い休止にすぎない。戦闘は少なくとも2か月は続くだろう」
(イスラエルのガラント国防相)

「われわれは長期戦に向けてあらゆる準備ができている」
(ハマスの軍事部門カッサム旅団)

イスラエルはなぜ、戦闘休止に合意したのか?今後の情勢はどうなるのか?

イスラエル情勢に詳しい大阪大学の辻田俊哉准教授に聞きました。

なぜイスラエル側は合意?

まず、今回の合意内容を確認します。双方の発表や地元メディアによりますと、ハマス側がガザ地区で拘束している子どもや女性など50人の人質を解放する一方、イスラエル側は刑務所に収監しているパレスチナ人の子どもや女性など150人を釈放するということです。

なぜ、今回イスラエル側が合意に踏み切ったのか。大阪大学の辻田俊哉准教授は、国内世論を意識した判断だという見方を示しました。

大阪大学 辻田俊哉准教授

「シファ病院など作戦がある程度進み、イスラエル軍が想定しているよりも早くガザ地区北部の支配を進められたということがあると思います。それに政権内で意見が一致していたわけではないが、イスラエル側の1つのレッドラインは女性や子どもの解放が最低限だったので、それがなされるようであれば、応じようというものだと思います。国際世論への配慮というよりは、国内的に「人質を解放し、イスラエルに早く戻さなければ」という圧力があり、それに応じなければ人質の家族から反発がある可能性があると判断したことが考えられます」

一部の人質解放後の情勢は?

一方で、辻田准教授は、今後の情勢について不透明な部分もあると指摘します。

「イスラエル軍がガザから撤退したわけではないので、何かしら散発的な衝突はありうることが考えられます。これまでも一時的に戦闘をやめると言いつつもロケット砲が飛んだり銃撃戦があったりしたことはありましたので。この人質解放は、人質をとられた家族に対してイスラエル政府側のアピールにつながる一方で、これがただちに長期的な停戦とか今後の情勢の変化、安定化のほうに向かうかというと必ずしもそうではないかなと考えています。
それよりもこの人質の解放の合意によって、イスラエル側は軍事作戦を正当化できることになると思います。要はハマスに対してこれほどの大規模な攻撃を与えたからこそ、今回の取り引きを引き出せたという政府の主張を正当化するかもしれません。それに、今後の戦闘継続を正当化させることにもつながる可能性があります。

一方、ハマス側にとっても今回の合意は1つのアピールになったと思います。これだけ大規模なイスラエル軍の軍事作戦が続く中で、ハマスとしてアピールする材料が少なかったと思いますので。

今後、もう一段階、解放に向けた動きがあるのかどうか、スムーズに行われるかどうかですが、難しいと思います。今回は過去の衝突と違ってイスラエル側の被害が大きく、ハマスに対する反発も大きいためです」

人質解放を呼びかける女性(イスラエル テルアビブ 2023年11月22日)

予備役36万人の動員、今後どうなる?

ハマスによる攻撃の報復として、イスラエル軍が軍事作戦を開始して今月(11月)25日で50日。今後、戦闘はどうなるのか。辻田准教授はそのポイントの1つとして、イスラエル軍による過去最大規模の36万人の予備役の動員の扱いを指摘します。

イスラエル軍の兵士(ガザ地区 シファ病院 2023年 11月17日)

「イスラエル国内では36万人が動員された当初から、これだけの規模を数か月間維持するのかについて議論がありました。一部で報道されているのですが、ガザ地区の地上侵攻の訓練に参加しなかった予備役が動員を解除され始めているようですので、これからは少しずつ段階的に動員の規模を減らしていくとみられています。なぜなら当然、経済活動も再開しないといけないですから」

その上で、この動員について辻田准教授は、イスラエル国内の世論の動向などから考えても「3か月」という期間が1つの目安となるとみています。

「過去の軍事衝突と比べても今回ほどの動員数はなかなかありません。動員が3か月以上延びた場合にはやはり予備役の家族に加えて、動員によって経済活動が停滞した国内からも批判の声が上がるような意見や見解がありました。
さらに今回はこれまでの紛争とは予備役の動員の規模も違うので、経済的な活動の面からみても、もって3か月くらいだろうという風にイスラエル国内では言われています。今後の戦闘次第かとも思いますが、イスラエル側からみればガザ地区北部をある程度支配したとみているので、動員解除も進んでいくのかなとは考えています。
ただ今後、例えば南部の侵攻とかそれ以外の北部で散発的な衝突が続く場合には、一気に動員を解除することは難しいと思われますので、段階的な解除ということになるのかなと思います。

予備役の家族や退避の住民への補償が作戦継続に影響?

今後の作戦の継続について、イスラエル軍は別の問題も考慮に入れる必要に迫られると話します。動員された予備役の家族や避難を余儀なくされた住民への補償の問題です。

イスラエル地上部隊(ガザ地区 2023年10月31日公開)

「ハマスによる奇襲攻撃をうけた10月7日以降は、イスラエル国内は軍事作戦を継続するということで、国民的な関心と支持の高さもありました。しかし、今後、作戦を継続すると当然、経済的、社会的な被害も大きくなる可能性はあり、そうした観点から作戦を続けるのかどうか意見が出てくると思います。
具体的にいいますと、隣国レバノンのシーア派組織ヒズボラによる攻撃で、レバノンとの境界周辺から避難した北部の住民はいつ戻れるのかとか、ガザ地区周辺のイスラエル住民も避難しているわけですが、一部の住民が仕事を再開したいためにいつからいつまで働きますと政府と調整しているようです。
それらの住民たちの不満、あるいは不安がいつまで続くかによっては、国内的な圧力が高まっていくと考えられます。また、そうした住民たちへの補償費用については、実は前の紛争の時にも補償額が十分ではなかったという議論がありました。今回の軍事衝突で避難した人の数はこれまでとは大きく異なりますので、今後ますますシビアな問題になっていくと思います。
それ以外にも予備役に社員を送り出した会社に対する補償とか、予備役で動員された人の家族に対する支払いとか、そういったいくつか多くの財源が必要となってきますので、予算ないしは財源、支払いの問題というのはますます出てくるかなと」

イスラエル テルアビブ 2023年6月

ガザ南部への大規模攻撃は?本格的な停戦は?

ガザ北部を支配したとされるイスラエル軍。今後、ハマスの掃討を掲げて、さらに南部への攻撃を激化させていくのか?そして、近いうちの本格的な停戦の実現の可能性はあるのか?

辻田准教授は、イスラエル側が主張する『ハマスの無力化』が達成された場合、その後のガザ地区の統治についての議論がカギとなると話します。

ハマスの戦闘員(ガザ地区 2023年7月)

「イスラエルは過去の紛争でも一応、国際世論の動向も配慮に入れる、圧力として捉えていたということがあります。今回もガザ北部で行ったような規模の攻撃を南部で行えるかというと、難しいかなと思います。イスラエル側としてはガザ北部を脅威として捉えていて、ハマスの軍事部門の構成員2万人のうち1万4000人ないしは1万4500人ぐらいがガザ北部にいるとみて、北部を徹底的に攻撃しています。ただこれからは、人道的な観点から国際世論のプレッシャーがますます高まると思います。イスラエルとしては、とりあえず軍事作戦の目標を達成したいということで進んできたと思うのですが、今後はいろいろ配慮しないといけない点が出てくると思います。それはやはり出口、どこに終わりを置くかという議論です。

今回が過去と違うのは、政府だけでなく国民の間でも、ハマスがガザ地区にいない状況を作りたいという点で一致していることです。過去、ハマスを完全に破壊しなかった一つの理由としてイスラエル側が特に懸念していたのが、力の空白地帯です。イスラエル側からみるとハマスより過激な主体が出てくる可能性があったので、ハマスの完全排除については反対意見が多かったということがありました。しかし、今回は攻撃の被害が大きかった分、ほかに選択肢がないということで作戦に踏み切ったと考えられます。その一方で、そのあとをどうするかという議論は2007年以降されてきていますが、構想が見えていません。最終的にイスラエルがガザ地区を占領するわけではないという議論がある一方で、どの主体がガザ地区を統治・管理するのかという議論を進めた場合、国際社会の協力というのはイスラエル側からみると不可欠です。このため当然ながら今後、軍事作戦が進むにつれて、そういった交渉が周辺国のほかアメリカも含めて増えていくと考えられます。成果としての外交努力と軍事作戦の達成が並行して追求されるのかなと思います」

大阪大学 辻田俊哉准教授

国際ニュース

国際ニュースランキング

    世界がわかるQ&A一覧へ戻る
    トップページへ戻る