2023年5月18日
G7 ユン・ソンニョル大統領 韓国 朝鮮半島 注目の人物

韓国大統領が対日関係の改善にまい進のわけ 日韓の今後は?

「日本との関係改善への意志は誰よりも固い」

韓国政府の関係者は、ユン・ソンニョル(尹錫悦)大統領の対日外交の方針をこう説明しました。国内での批判や支持率への影響を周囲が心配したとしても、日本との関係改善を推し進める大統領の意志は揺るぎないといいます。

背景にあるものとは?そして日韓関係の行方は?

(ソウル支局 長砂貴英)

“大統領の強い意志”

日本との関係改善を積極的に進めるユン大統領の政策は、韓国の野党から「屈辱外交だ」などと強く批判されています。韓国の世論調査では、政権と与党の支持者からは一定の評価はあるものの、否定的な見方が根強くあります。そんななかでも大統領の姿勢は一貫しているようにみえます。

韓国 ユン・ソンニョル(尹錫悦)大統領

韓国政府の関係者に話を聞くと、次のように説明しました。

韓国政府の関係者
「ユン大統領の父親は一橋大学大学院に留学経験のある経済学者で、1980年代前半には一橋大学の客員教授として再来日している。ユン大統領は当時大学生で、父親を訪ねて日本に滞在したこともある。その経験がユン大統領の日本に向き合う姿勢に影響している面もあるだろう」
「ユン大統領はドイツとフランスが第1次大戦、第2次大戦を経て互いに和解し、今日のEUの基盤につながっているように、日韓関係もできたらいいという思いがある。だからインド太平洋というマクロな視点として、韓日がそのためのマイルストーンになることができればということだ」

岸田首相夫妻とユン大統領夫妻(ソウル・2023年5月)

大統領の考えは発言にもあらわれています。

「日本はすでに数十回、過去の歴史について反省と謝罪を表明している」

(3月21日 韓国政府閣議)

「日本が100年前の歴史のためにひざまずいて謝罪しなければならないという考えは受け入れられない」

(米紙ワシントンポストとのインタビュー4月24日掲載)

韓国ではユン大統領の発言について「そこまで言うのか」と驚きをもって受け止められました。韓国政府の関係者は「大統領の日本との関係改善への意志は誰よりも固い」と話しています。

「外交戦略のパッケージ」

日韓関係に詳しい韓国の専門家にも話を聞きました。

韓国外務省の政策諮問委員などを歴任した 韓国・国民大学 イ・ウォンドク(李元徳)教授

イ教授
「ユン大統領はもともと政治家ではなく、長く検察官として歩んできた。したがってヨイド(汝矣島※韓国国会があるソウル市内の地名)の政治的な計算に基づいて動くよりは、外交・安全保障政策の利益、国益のためには多少支持率が落ちても信念を貫くという、これまでの韓国の政治社会で見れば珍しいリーダーシップといえる」

その上で、ユン政権の対日外交は両国関係のみでとらえるべきではないと指摘します。

イ教授
「北朝鮮への対応で言えば、核・ミサイルの脅威から韓国を確実に守るために、韓日、韓米日の連携を強化して抑止力を強化しなければならない。さらにインド太平洋地域において、自由主義陣営の国々としっかりと協力することで韓国の安全保障と経済的な繁栄を実現するという認識が根底にある」

与党「国民の力」本部に掲げられた 米韓首脳会談をPRする幕

イ教授

「ユン大統領の訪米、岸田総理大臣との首脳会談、そしてG7広島サミットへの参加、これらはひとつのパッケージとして動いているように思う。日韓関係の改善は一時的なものというよりは一貫した戦略的な計算であり、外交・安保戦略の方向性と密接に関連している」

※ユン政権は去年12月に外交・安全保障の指針となる「自由・平和・繁栄のインド太平洋戦略」を発表。日米と足並みをそろえる立場を鮮明にした。

依然として残る懸案

ユン政権は3月に行われた日韓首脳会談から1週間ほどの間に、日本との関係改善のための対応を矢継ぎ早に打ち出しました。

日本政府が韓国向けの輸出管理を厳しくする措置については、前の政権がこれに対抗して行ったWTO=世界貿易機関への提訴を取り下げました。また、安全保障分野では、韓国側がいつでも破棄できるとしていた軍事情報包括保護協定=GSOMIAの正常化を決定し、日本側に伝えています。

ただ日韓の間では依然として、さまざまな課題や懸案が横たわっています。

▼「徴用」めぐる問題
韓国政府が発表した解決策に一部の原告は反対

▼レーダー照射
5年前の韓国軍による自衛隊機へのレーダー照射問題は、政権が代わったあとも韓国軍は「レーダーを照射しなかった」という従来の主張

▼慰安婦問題
日韓合意(2015年)に基づいて韓国側が設置した元慰安婦を支援する財団について、前政権が解散を発表。合意は事実上骨抜きに。日本政府が拠出した10億円のうち残りの扱いが宙に浮いた状態

これについて、ユン政権はこれまで次のような動きを見せています。

▽「徴用」めぐる問題
あくまでも原告に解決策の理解を求める姿勢崩さず

▽レーダー照射
日韓首脳会談を受けて、5年ぶりに開催した外務・防衛当局による「日韓安全保障対話」で議論。韓国外務省は「両国が緊密に意思疎通していくことにした」としている

▽慰安婦問題
日本からの拠出金の扱いを国内での意見聴取などを通じて検討(韓国メディア)

ユン政権は安全保障協力や経済など、日本と手をとりやすい分野で関係改善の機運を高めつつ、残る課題や懸案については国内の反応を見ながら慎重に対応を検討しているとみられます。

対日姿勢は揺るがない?

韓国では国会で過半数を占める最大野党がユン政権の対日姿勢に非難を強めています。またソウル中心部では、毎週のように野党を支持する団体などが政権を批判するデモや集会を開いています。

ユン政権の退陣を求めるプラカードを掲げたデモ(ソウル・2023年5月)

今後、ユン政権の対日外交の方針に揺らぎはないのでしょうか。イ・ウォンドク教授は次のような見方を示しています。

イ教授
「日本では、ユン政権の支持率が落ちたり政治的に困った状況に陥ったりすると、対日外交の方向性を転換しないかと懸念を持つ方もいるようだが、これまでのユン大統領を見ると、支持率のために、または世論のために信念を変化させるようなリーダーではない。外交は、国会の同意が必要な条約の批准などを除けば大統領が比較的自由に政策決定できる領域でもある。そういう意味では、外交政策の転換を図る可能性はあまり大きくない」

一方で、政権を支える少数与党の議席が来年4月に行われる総選挙でどのようになるかが重要だと指摘しています。

イ教授
「重要な点は、来年4月の総選挙で与野党の議席の割合がどのように変わるかだ。与党の議席が増えるほど、ユン政権の政策基盤が強化される。与党の議席が増えるのかどうか、あるいは現状のままになるのか、注視していかなければならない」

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