2023年2月27日
バルト三国 ラトビア ウクライナ ロシア ヨーロッパ

「ロシアは犠牲を気にしない」隣国ラトビアの外相が訴えたことは?

「この戦争が年内に終わるとは考えていない」

ロシアによるウクライナ侵攻から1年。ウクライナと同様、ロシアと国境を接するバルト三国の1つラトビアの外相はNHKのインタビューでこう語りました。

どうすればこの戦争が終わるのか。徹底抗戦を続けるウクライナに今、必要なものは何なのか。話を聞きました。

(ブリュッセル支局長 竹田恭子)

そもそもラトビアとは?

バルト海沿岸に並ぶバルト三国の1つで、ウクライナと同様、ロシアと国境を接するラトビア。

18世紀以降、ロシア帝国に支配されていましたが、ロシア革命後の1918年に独立を宣言。しかし、第二次世界大戦中の1940年に旧ソビエトに併合され、その後、半世紀にわたってソビエトの一部でした。

1990年に独立を宣言した後はNATO=北大西洋条約機構、EU=ヨーロッパ連合に加盟。

今回の軍事侵攻後はロシアに対して欧米各国が政治面、経済面で強い圧力をかけるべきだと主張してきました。ラトビアのリンケービッチ外相に、侵攻から1年がたったウクライナ情勢をどう見ているのか、話を聞きました。

ラトビア リンケービッチ外相

※以下、リンケービッチ外相の話

欧米がウクライナへの軍事支援を強化 その理由は?

理由は2つあります。1つは、ロシアがこの戦争を続けようとしているからです。

欧米各国はロシア軍がことし大規模な攻撃を行うと見ていますし、この戦争はすぐには終わらず、長いものになると考えています。

砲撃するロシア軍(2023年2月公開)

もう1つの理由は、去年ロシアが侵攻を始めた当初、ヨーロッパ各国はウクライナ軍の兵士が扱いに慣れた、ソビエトやロシア製の兵器をかき集めてウクライナを支援しました。

しかしこうした兵器はすぐに底をつき、欧米製の装備でウクライナを支援する必要があると、各国が理解したのです。戦場ですでに使い切ったり、壊れてしまった兵器もあり、さらに供与する必要があるのです。

習熟に時間がかかる高性能の兵器を供与しても、戦場ですぐに役立つわけではないという議論もあります。

しかし欧米各国はウクライナ軍の兵士に訓練を行っていますし、彼らは飲み込みが速いのです。ウクライナ軍には、彼らが必要とするあらゆる兵器を供与する必要があります。

そうでなければ彼らは負けてしまうでしょう。

アメリカが供与を決めた主力戦車「エイブラムス」

軍事支援の課題は?

ウクライナには多くの兵器が届いていますが、問題は、必要なものが日々、増えているということです。装甲車、戦車、弾薬、すべてです。

ラトビアがウクライナに対して行った軍事支援は、GDP=国内総生産の1%に達しました。

しかしわれわれが持っている装備には限りがあります。在庫を補充する必要もあります。りゅう弾砲や防空システムなどです。私たちは防衛により多くの予算が必要だと考えています。

ラトビアの国防費は2027年までにGDPの3%に達する見通しです。

ラトビアで行われたNATOの演習(2020年)

防衛産業は増産する必要がありますが、さまざまな課題があり、この先5年、10年かけて取り組まなくてはならないでしょう。

一方でロシアもこうした問題を抱えています。ですからこの戦争は、2つの国の軍隊による戦争であるだけでなく、欧米とロシアの、経済力の闘いでもあるのです。

ロシアに戦争を続ける力はまだあるか?

あります。彼らのものの考え方は欧米とはかなり違い、犠牲を気にしません。ウクライナの犠牲も、自国の犠牲もです。

戦闘地域からのデータによれば、ロシア側は毎週、何千人もの死者を出しています。

一般の人が動員され、刑務所からも動員されています。たとえ訓練や装備が不十分でも、彼らは戦争に行かなければなりません。

訓練を受けるロシアの動員兵(ロシア モスクワ州・2022年)

またロシアは新型のミサイルや兵器を十分生産することはおそらくできていませんが、ソビエト時代に製造されたさまざまな兵器がまだ大量にあります。

欧米製の兵器に比べて性能は劣っても、民間の施設を標的にすることができます。その多くはおそらく標的を外し、幼稚園や学校、駅や市民が暮らすアパートにあたるのです。

洗練されていない旧型の兵器でも多くの市民を殺害することができます。さらにロシアはイラン製の無人機も使っています。

ロシア軍の攻撃により損壊した集合住宅(ウクライナ東部 2023年2月撮影)

ロシアが戦争を続ける能力を過小に評価するべきではありません。

たしかにロシア軍には、多くの欧米の専門家が考えていたほどの力はありませんでしたが、この残酷な消耗戦を長期にわたって続ける能力がロシアにはあるのです。

ロシアの戦争の目的は?

目的は最初から変わっておらず、ウクライナ全体を支配下におさめることだと思います。

ロシアはウクライナ東部で占領した地域をできるだけ長く支配したいと思っているでしょう。そして停戦を望んでいると思います。しかしだまされてはいけません。

彼らは和平を実現しようと思っているわけではありません。単に軍を再編成し、欠乏した装備を補充し、経済を立て直したいだけです。そして数年後にはまたウクライナを攻撃するでしょう。

ロシア プーチン大統領

ロシアの長期的な目標はロシア帝国の復活、それもできるだけ広い国土をもった帝国の復活です。これが問題なのです。

だからこそラトビアは断固としてウクライナを支援するのです。今ロシアを制止しなければ、ヨーロッパやモルドバ、コーカサス諸国にも影響が及ぶでしょう。

私たちはNATOやEUに加盟していますから、まだいいのですが、それでもロシアには「いつかNATOに挑もう」と考える人たちが大勢います。だからこそ私たちは防衛に投資し、国内にNATOの部隊も配置されているのです。

この戦争はプーチン大統領にとって、国内での権力を固める機会でもあるでしょう。

平時よりも戦時下の方が、より抑圧的になることができます。2024年に予定されているロシア大統領選挙は、プーチン大統領が権力を維持するための選挙になるでしょう。

停戦や戦争終結の見通しは?

停戦や外交による解決を目指すべきだという人たちもいますが、ウクライナ政府に圧力をかけるべきではありません。

外交による解決が期待できる状況ではないのです。今は停戦を模索するときではありません。

欧米各国の政府はみな、現実を見ています。停戦では戦争は終わらず、いずれ再開します。

2014年にウクライナ東部で始まった、ウクライナ軍と親ロシア派武装勢力の戦闘の停止を目指したミンスク合意も、ドイツとフランスをはじめ欧米各国の政府は、この合意が守られるよう努力しましたが、失敗に終わりました。

ウクライナ軍と親ロシア派武装勢力間の紛争を解決しようと結ばれた「ミンスク合意」(ベラルーシ ミンスク・2015年)

仮に新たな合意が結ばれたとしても、ロシアは義務を守らず、圧力をかけ続け、自分たちが十分に力を蓄えたと思えばまた戦争を始めることを、各国は理解しています。

ですから現状では、とにかく戦争を続けるしかないのです。和平への見通しは今のところ立っていません。

ロシアにその気があるようには見えませんし、ウクライナの世論を考えれば、ウクライナの大統領が停戦を受け入れるとはとても思えません。

過去に停戦が失敗したとわかっていながら、いまの時点での停戦を支持することはわたしたちにはできません。率直に言って、この戦争が年内に終わるとは考えていません。

戦争が終わるための条件は?

何をもって勝利とするかは、ウクライナが決めることです。

わたし自身の考えでは、ロシアがウクライナから出て行き、ロシアに占領された土地をウクライナが解放することが条件でしょう。

そのときに初めて、ロシアはこれ以上前には進めないことを理解し、ようやく、交渉のテーブルにつく用意ができるでしょう。

そしてその交渉で明確にすべきことは、ウクライナとロシアの国境は2022年2月に始まった戦争の前に戻せばよいのではありません。

国境は2014年に始まった戦争の前に戻さなくてはならないのです。

ロシアがクリミア併合を宣言した直後のクリミア セバストポリ(2014年3月)

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