2023年1月23日
新型コロナ アメリカ

新型コロナ対策 マスクは?ワクチンは? 米ファウチ博士に聞く

WHO=世界保健機関が新型コロナウイルスの感染拡大に対し、「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」を宣言してから1月30日で3年となります。

いまも世界中で感染が続き、私たちの生活は大きな影響を受けています。

こうした中、アメリカ政府で新型コロナの感染対策を主導してきた、アンソニー・ファウチ博士がNHKの単独インタビューに応じました。

世界の現状と将来について、そして日本の感染対策について、ファウチ博士が答えたすべてをお伝えします。

(アメリカ総局記者 田辺幹夫)

ファウチ博士とは?

アメリカのアンソニー・ファウチ博士(82歳)は、感染症研究の第一人者で、1984年にNIAID(ナイエイド)=アメリカ国立アレルギー・感染症研究所の所長となって以来、当時のレーガン大統領から今のバイデン大統領まで7人の大統領にエイズやエボラ出血熱などさまざまな感染症対策の助言を行ってきました。

会見するアンソニー・ファウチ博士(右)とバイデン大統領(2021年)

新型コロナの感染が拡大してからもアメリカ政府の首席医療顧問として、感染状況を分析して政府の対応を強力に主導したほか、国民に向けてワクチン接種の重要性を訴えるなど、大きな影響を及ぼしてきました。

また、感染症の研究者や対策のリーダーとして、ガードナー国際保健賞や、ロベルト・コッホ・ゴールドメダルなど、数々の国際的な賞を受賞してきました。2022年12月、首席医療顧問とNIAIDの所長の職から退任したファウチ博士は、現在、これまでの経験をもとに、新型コロナ対策など公衆衛生の分野へのさまざまな提言を続けようとしています。

※以下、ファウチ博士の話

世界のいまの状況をどう見る?

Q)WHOの「緊急事態宣言」からまもなく3年になります。ファウチ博士は現在の世界の感染状況をどう見ていますか?

A)まだ相当な数の感染が起きていて、個々の国で感染者数、入院者数、死者の数の状況は異なります。世界で見ると、2~3年前に比べれば、はるかに良くなっています。

例えばアメリカでは、1日あたり80万~90万人の感染者が発生し、1日あたり3000人から4000人、死亡していた時期もありました。

現在、アメリカでは、依然として感染者数は多いですが、死者数は1日あたり約400人と、劇的に減少しました。とはいえ、これはまだ受け入れがたいレベルです。

ニューヨーク(2023年1月)

ですから、パンデミックは収束し、すべてが順調だと言うのは不適切だと思います。

1~2年前に比べれば、はるかに良くなったとはいえ、感染者数、入院者数、死者数は相対的には非常に多いです。

要するに、以前よりは良くなりましたが、私たちはまだパンデミックのまっただ中にいるということです。

新たなパンデミックを防ぐために必要なことは?

Q)ファウチ博士の言うとおり、今はワクチンが開発され、治療法もあります。しかし、新型コロナはまだなくなっておらず、世界はまだそれに対応する必要があります。
現在の状況を緩和し、新たなパンデミックを防ぐために、必要なことは何ですか?

A)まず、私たちが世界中で、そして私の国アメリカでも、最初にしなければならないことは、ワクチンを受けていない人たちだけでなく、ワクチンを受けた人たちにも、最新の追加接種を受けてもらうよう、もっと努力することです。

もう一度、アメリカを例に説明します。

アメリカでは、総人口の約7割しかワクチンを受けていません。さらに、追加接種を受けた人は、このうちのたった半数しかいません。

また、非常に残念なことに、オミクロン株「BA.4とBA.5」に対応する最新の2価ワクチンを受けた人は、対象となる人のうち約2割しかおらず、高齢者では約4割しか受けていません。

コロナウイルス(オミクロン株)

ですから、アメリカだけでなく、世界中でやらなければならないことの1つは、人々が最新のワクチンを接種できるようにすることです。

ワクチンが、入院や死亡につながる深刻な事態になるのを防ぐのに極めて有効であることは明確だからです。

アメリカで急拡大「XBB.1.5」について

Q)現在、アメリカで急速に広がっているオミクロン株の「XBB.1.5」についてうかがいます。この変異ウイルスについて、いまわかっていることを教えて下さい。

A)「XBB.1.5」を以前の変異株と比較すると、免疫を逃れる性質はより強いことは間違いありません。言いかえると、ワクチン接種で得られる抗体だけでなく、実際の感染によってできる抗体でも、「XBB.1.5」からは、それほどうまく保護してくれません。

一方で、比較的、安心できる情報もあり、それは「XBB.1.5」が、ほかのウイルスと比べて、重症化を引き起こしにくいとみられることです。つまり、感染した人数に対する、入院者数や死者数の関係を見ると、アメリカでは例えばデルタ株の場合よりも少ないのです。

ですから、免疫をすり抜ける性質はありますが、現段階では、これまでよりも重症化を引き起こして入院や死亡が増加するということは、ないように思われます。

「XBB.1.5」で世界で何が起きる?

Q)「XBB.1.5」によって、アメリカやほかの国では、何が起きると考えられますか?

A)どの国でも、このウイルスによる感染が起こり始めると思います。そして、感染はいずれピークを迎え、その後、下がり始めます。すでに、その傾向が見えている国もあります。

本当の問題は、「XBB.1.5」に置きかわる次の変異ウイルスは何かということです。そしてそれが、これまでのウイルスよりも免疫をすり抜ける性質が強かったり、より重い症状を引き起こしたりするか、ということです。

現段階で「XBB.1.5」よりも免疫をすり抜ける性質が強い変異ウイルスが存在するようには見えません。しかし、ご承知のように、これまでにも新しい変異ウイルスに予想を裏切られたこともありますので、状況をしっかり見て、注意深く状況を追いかけていくしかありません。

新しい変異ウイルスに備えるには?

Q)こうした新しい変異ウイルスに備えるためにはどうしたらいいのでしょうか?

A)「免疫学的な監視」を継続する必要があります。つまり、新しい変異ウイルスの出現を確認し、リアルタイムでゲノム解析を行い、免疫をすり抜ける性質がより強かったり、より重い症状を引き起こすようであれば、その新しい変異ウイルスに対応できるよう、ワクチンを更新する必要があります。

ウイルスの監視は、我々が行うべき重要な要素であり、どういうウイルスが流行しているのか知る必要があるのです。例えば、日本では何が流行しているのか、米国では何が流行しているのか。また、他の国々では何が流行しているのか。アフリカ、南米、アジア、あるいはほかの国々で、何が起きているのか、というふうに。

中国の「ゼロコロナ」政策終了について

Q)中国が「ゼロコロナ」政策を終了したことについてうかがいます。今後、中国で「感染爆発」が起きるリスクを、どう考えていますか?

A)中国が膨大な数の感染者と死者の発生に苦しむことになるのではないかと非常に懸念しています。

中国は非常に長い期間、とても厳しい方法でロックダウンを行っていましたが、その期間を、ロックダウンの解除に向けて、国民の準備をするために活用することができていませんでした。

混雑する上海の病院(2023年1月)

あるモデルでは「中国ではこれから4月までの間に、60万から100万人の死者が出る可能性がある」という予測もあり、もしそうなれば非常に悲劇的です。

中国での感染爆発を懸念しています。これから起きるというより、実際には、すでに起きていると思います。

世界と日本の感染対策をどう見る?

Q)この3年間、世界全体の感染対策についてお聞きします。各国のコロナ対策については、どのように評価していますか?

A)非常にばらつきがあります。非常にうまくいった国もあれば、そうでない国もあります。

アメリカは科学的な観点からは非常にうまくいきました。

記録的な短期間でワクチンを開発しました。2020年1月にウイルスが特定されてから11か月の間に、何万人もの人を対象にワクチンを適切にテストし、複数のワクチンの候補が非常に有効で安全であることが示されました。

そして実際に人々への接種が行われました。まったく前例のないスピードでワクチン接種が行われたのです。

しかし、公衆衛生上の対応について言えば、アメリカはうまく対応できませんでした。ご承知のように、アメリカでは新型コロナによる死者が100万人を超えており、これは世界中のどの国よりもひどいからです。

うまくいった国もあります、と言いましたが、対人口比で死者数を見ると、日本は相対的にうまくいった国です。

日本がうまくいったのは、マスクの着用を相当しっかりと守ったからだと考えています。

そして日本では、かの有名な『3密の回避』※、閉鎖的な空間を避け、人混みを避け、密接な接触を避けるようにしていました。

※『3密の回避』は英語では“3 Cs to avoid”、「Closed spaces」、「Crowded places」、「Close contact settings」の3つのキーワードのイニシャルから「避けるべき3つのC」という

私は、このことが感染の拡大を防ぐのに非常に重要だったと思います。ほかの多くの国では、『3密の回避』は守られませんでした。

さらに、日本人はマスク着用に非常に積極的でした。というのも日本ではマスク着用が社会的に受け入れられていたからです。

これに対して、アメリカでは、マスクをすることはあまりなく、文化的にも受け入れられることではありませんでした。一方、日本を含むアジアでは、人々は自然にマスクをすることを受け入れていました。このことが、日本での感染対策に大きく貢献したと思います。

感染症法上の位置づけの移行は?

Q)日本では、新型コロナの感染症法上の位置づけを季節性インフルエンザと同じ分類に移行することを検討し始めたところです。その方針についてはどう考えますか?

A)定期的にワクチンを接種してもらうという目的なら、その戦略は有効だと思います。

しかし、1年の途中で新しい変異ウイルスが発生した場合、インフルエンザの季節が来るまで待たずに、治療とワクチン接種を行うべきでしょう。

インフルエンザと同じようなものとみなすことのメリットは、人々が毎年秋に、定期的にインフルエンザの予防接種を受けるという習慣があることです。年に一度、定期的に新型コロナのワクチンを接種してもらうことができれば、それはプラスに働くでしょう。

しかし、インフルエンザワクチンの準備をしていない時期に新しい変異ウイルスに感染する可能性もあるので、そこは柔軟に対応する必要があります。インフルエンザと同じように扱うことにプラスの面もありますが、難しい側面もあるということです。

屋内でのマスク着用推奨は今後どうすべきか

Q)マスクの着用について、いま日本政府が、屋内でのマスク着用の推奨を続けるべきか、検討しています。屋内でのマスク着用を推奨し続けるべきなのか、それともどうするかは個人の判断にすべきか、どのように考えていますか?

A)各地域での感染状況によって対応は変わると考えています。

例えば、アメリカでは、感染者数、入院者数、病院のベッドの空き状況によって、地域ごとに3種類に色分けしています。

感染者の割合が非常に低いときは緑、もう少し増えると、黄色、そして、割合が高くなるとオレンジ色というふうに分け、状況に応じてマスクの着用を呼びかけています。

ですから、日本でも感染者の割合が低いうちは、マスクをつけるかどうかは自分で判断してもらえばいいと思いますし、割合が上がってきたら、屋内でのマスク着用を推奨するべきだと思います。地域ごとの感染レベルによって変えるべきでしょう。

世界の感染対策はいつまで続く?

Q)今後の世界的な対策についてお尋ねします。新型コロナウイルスに対しては、世界はいつまで警戒を続けるべきでしょうか?

A)私たちは、今後ずっと、警戒を続ける必要があると思います。

私のモットーは「新たに発生する感染症への対応は永遠の課題」で、その永遠に続く課題に対応するためには、永遠の備えが必要であるということです。

PCR検査を受ける人々(ニューヨーク・2021年)

ですから、決して油断してはいけません。

新たに感染症が発生することは、歴史が証明していると思います。なぜなら、私たちは今、新型コロナという新しい感染症のまさに典型的な事例を経験しているわけです。この100年以上の間で最悪の世界的流行です。

そして、今後も新しい感染症や既存の感染症の再拡大に悩まされることになるでしょう。ですので、ご質問に対する答えは「私たちは常に準備し続けなければならない」です。

新型コロナの後遺症について

Q)新型コロナの後遺症については、どの程度の期間、どのくらい警戒を続けるべきでしょうか。

A)新型コロナの後遺症は実際にいま起きている現象で、深刻に受け止めるべきものです。

新型コロナに感染した人の数%から15%に、数週間から1年、それ以上も続く後遺症の症状があることが分かっていますが、正確な数字はわかっていません。

この後遺症が発生する根本的な仕組みもわかっていません。

しかし、それが実際に起きている現象であることは分かっています。ワクチンを接種すれば、後遺症になる可能性が低くなることも分かっています。

後遺症の正確なメカニズムを理解するために、私たちは多くの研究を行っています。仕組みを完全に理解するには、まだ多くの研究が必要です。

新型コロナ対策として最も必要なことは?

Q)新型コロナに対応するために、ファウチ博士が考える最も重要なことは何でしょうか?

A)非常に有効なワクチンがある以上、最も重要なことは、できるだけ多くの人にワクチンを接種してもらい、人々のワクチンを最新の状態に保つことだと思います。

そして先ほどの話のように、地域の感染の割合が上昇した場合には、屋内の人が集まる状況ではマスク着用を推奨するべきです。

ファウチ博士自身の今後について

Q)ファウチ博士は、2022年12月、アメリカ政府の首席医療顧問を退任されました。今後は、世界の感染症対策に向けて、どのようなことをされるのでしょうか?

A)アメリカ政府という場以外で、これまでやってきたことを続けます。

例えば、今回のように報道機関とのやりとりも続けるし、執筆活動もするし、講演活動もします。

そして、アメリカ国立衛生研究所での54年の経験と、NIAID所長としての38年間の経験を生かすために、人々に求められたらアドバイスをしていくつもりです。

これからも感染症やグローバルヘルスの分野に積極的に携わっていくつもりです。

また皆さんとお目にかかる機会はあると思います。私がいなくなるわけではありません。

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