2022年12月2日
ウクライナ ロシア ヨーロッパ

「地獄のような冬になる」ウクライナ外相 反転攻勢への決意とは?

首都キーウに防空警報が鳴り響く中、インタビューの場所は、急きょ、外務省の建物の地下にあるシェルターになりました。
水道管が丸出しの冷えきった地下室で、クレバ外相は、ロシアや中国との関係や向き合い方など、私たちの質問に答えました。
そして、ロシアのミサイル攻撃で停電や断水が広がるこの冬について、きわめて厳しい見通しを語りました。

(ウクライナ取材班 別府正一郎 / 田村佑輔)

※以下、クレバ外相の話

この冬はどれくらい厳しいものになる?

地獄のような冬になるでしょう。ロシアは攻撃をやめようとしていません。ですから、ウクライナに防空システムや発電機などをできるだけ早く提供することが極めて重要です。日本政府が、発電機などの支援を決めたことに感謝しています。

私たちは生き延びます。市民にとっては非常に困難な状況ですが、私たちは互いに助けあっていきます。

プーチンがもし私たちを打ち負かすことができると考えているとしたら、愚かなことです。もしそう考えているのだとしたら、彼はウクライナの人々のことを何も分かっていません。

今後の反転攻勢の見通しは?

私たちは反転攻勢を続けなければいけないし、続けていきます。私たちは自分たちの土地と国民を守っています。それが危機に瀕しているのです。

ロシア軍から領土を解放するたびに、拷問部屋や集団墓地が見つかっています。ロシア側による多数の迫害についても証言を聞きます。国民を拷問や苦しみ、悲惨な生活から救うために、領土の解放を続けていきます。つまり、これは単に領土のための戦いではなく、ロシアの犯罪者から国民を救うための戦いなのです。

東部ハルキウ州 イジューム近郊で確認された集団墓地(2022年9月)

当然のことながら、停電、断水、ミサイル攻撃を生き延びる道を探すことになります。生き残り、勝ち残るという、唯一の目標に向かって適応するのです。

ロシアとの停戦交渉の可能性は?

このインタビューが始まる2時間前にも、約70発のロシアのミサイルと無人機による攻撃を受け、ウクライナ全土が停電しました。4000万人の国民が断水の状態にあります。

これで、ロシアに交渉するつもりがあると言えますか?

首都キーウ ミサイル攻撃によって損壊した車と作業する消防隊 (2022年11月23日)

ロシアとの交渉について何か発言する人たちは、ロシア側には交渉する用意があることを示すものは何一つないという事実を理解すべきです。それなのに、交渉しろというのは、ばかげています。

「一部の国がウクライナに停戦交渉を促している」というような報道や議論があることは知っていますが、実際にはそのようなことは起きていません。誰もロシアとの交渉を始めろなどと私たちに指示をしたり、圧力をかけたりしてこないのは、現実を理解しているからです。

2022年11月中旬、ポーランドに着弾したミサイルについては?

「着弾したミサイルがウクライナの迎撃ミサイルではないか」という発言に対して、私たちは、「調査が必要だ」という立場です。ウクライナの検察当局は現在、ポーランドの検察当局と密接に連携しています。

ポーランドのミサイルの落下点とされる写真 (2022年11月15日公開)

適切な調査と証拠に基づき、着弾したのがウクライナの迎撃ミサイルであったとの結論が出れば、それを受け入れることには何の問題もありません。

ポーランドやヨーロッパの友好国は、ウクライナがより強大な敵と戦っていることを理解しています。ポーランドにミサイルが着弾した日、ウクライナは約100発ものロシアのミサイルなどの攻撃を受けていました。

私たちが意図的だったとか、真実を隠そうとしているとか非難する人は誰もいません。関係悪化の心配はありません。

ロシア非難に加わらないアジアやアフリカの国々をどう見る?

アジアのなかで軍事侵攻を支持しているような国はおらず、北朝鮮だけではないでしょうか。一方で、中立を保とうとするアジアの国々が多いのも事実です。

ウクライナに同情しているが、表向きはロシアとウクライナの双方に責任があるという立場をとったり、沈黙したままだったりする国々があります。

しかし、それは公正なことではありません。もしロシアが好きなように行動するのを許せば、世界のほかの国々にとって、国際法は存在しなくなるも同然です。国境は力によって変更することができ、侵攻を続ける加害者が戦争犯罪を犯し、市民を拷問し、殺すことを誰も止められないということを意味してしまいます。

損壊した車のそばを通る人々 ウクライナ ヘルソンにて(2022年12月)

もしアジアの国々が自分たちの安全保障について真剣に考え、国際法が尊重されるべきだと望むならば、国際法と主権と領土の一体性への支持のために、毅然とウクライナの側に立つ必要があるのです。

このことはアジアだけでなく、同じような立場をとるアフリカやラテンアメリカの国々についても同様に言えます。

私たちはそうした国々に働きかけを続けていきます。なぜならこれはロシアとウクライナという2つの異なるナラティブ(※)のあいだで起きている戦争ではないからです。
 (※)narrative。主張や言説、さらには物語とも訳せる。

「ロシアにも一理があり、ウクライナにも一理がある」というものではありません。ウクライナが体現する真実と、ロシアが吹聴するうその間で起きている戦争で、各国はどちらの側に立つのかはっきりとさせる必要があります。

中国の立場をどういうものだと理解していますか?

中国の指導部は状況を完璧に理解していると確信しています。

そして、彼らが2つの重要なメッセージを発しているように、私は受け止めています。

1つは、中国はこの戦争を決して支持していないと理解しています。この点で中国を信用しない理由はありません。

2つ目は、ロシアによる核兵器使用の脅しに対して、公に反対を表明したと受け止めています。

言葉を交わすプーチン大統領と習近平主席(2022年9月) 

しかし、中国がこの戦争を、自国の戦略的利益という大きな文脈から見ていることもまた事実でしょう。

ロシアは中国にとって、最も政治的に重要なパートナーです。多くの人は、中国という国の特徴や市場といった視点から物事を見がちですが、私の考えでは、中国にとって最も重要なことは、世界的な競争関係において、ロシアを政治的なパートナーにしておくことなのです。

しかし、中国の一貫した政策は、領土の一体性を尊重することであり、それは今後もそうであると確信しています。これは彼らの外交の柱なのです。それだけに、ロシアが他国の領土の一体性を侵害していることを見過ごしていることは、おかしなことです。

中国はバランスを取ったアプローチを進めていくことが必要です。中国がレッドラインを越えず、ロシアのウクライナに対する軍事侵攻を支持しないことが重要です。

2023年のG7議長国である日本への期待は?

G7による追加の対ロシア制裁や、ウクライナへの経済やエネルギー支援などについて、日本が真のリーダーシップを発揮することを期待しています。私は日本の外務大臣と良好な関係を保っていますし、ゼレンスキー大統領は日本の総理大臣とも話をしました。

私たちは日本を頼りにしています。来年のG7における真のリーダーシップに期待しています。

そして、機会があれば喜んで日本を訪問したいです。ウクライナと日本の関係をより高いレベルに持っていきたいと思っています。日本の総理大臣のご都合のよい時にいつでもウクライナにお迎えします。そして、さまざまな会合で日本の外務大臣ともお会いしていきたいです。

ちなみに、私はまだ日本を訪れたことがありませんが、実は私の息子の夢は、日本に旅行にいくことなのです。彼には「戦争が終わったら日本に行こう」と約束をしました。息子は日本のアニメの大ファンなのです。

私も以前に、息子と一緒に日本のアニメを見ました。みずからの剣を持ちかえ、二度と人を斬らないことを誓った男の物語でした。非常におもしろいアニメでした。息子と一緒に日本を訪れるという約束はぜひ果たしたいです。

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