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2023年4月5日
シエラレオネ 気候変動 アフリカ

地滑りで1000人犠牲に 貧困と気候変動の“危険なスパイラル”とは?

「轟音とともに巨大な岩と土砂が滑り落ち、集落が一瞬にして消えた」

温暖化によって、災害の激甚化が進んでいます。

西アフリカ・シエラレオネの首都フリータウンは、大規模な地滑りで一度に1000人以上が犠牲になるなど、“気候変動に極めて脆弱”な都市の1つとされています。

なぜ“脆弱”なのか。現地ではいったい何が起きているのか。取材しました。

(ヨハネスブルク支局長 小林雄)

“気候変動に極めて脆弱”なフリータウン

首都 フリータウン

大西洋に向かって突き出た半島の先端にある西アフリカ・シエラレオネの首都フリータウン。

18世紀末にイギリスで奴隷解放の機運が高まり、自由を得た黒人の帰還地となったことが名前の由来で、海岸と小高い丘陵地帯のあいだに街が広がっています。

フリータウン 人々でにぎわう市場

熱帯性気候で雨季と乾季に分かれていて、私が訪れた1月下旬は乾季のまっただ中。

強い日差しが照りつけていました。

近年は気温が上昇し、最高気温が35度近くになる日も多い首都では、エアコンもなく、飲み水も簡単に手に入らない状況にある人々を中心に体調を崩す人が続出しています。

4月下旬頃からは雨季が始まります。雨季の天候不順はより深刻な被害をもたらしています。

雨がなかなか降らなかったかと思うと急な豪雨がやってくることも多く、毎年のように大規模な洪水や土砂災害が発生しています。

2017年には大規模な地滑りで集落がまるごと飲み込まれ、少なくとも1100人が死亡する大惨事に。
地元の人は「轟音とともに巨大な岩と土砂が滑り落ち、集落が一瞬にして消えた」と話していました。

災害頻発の原因は“貧困”?

災害が相次いでいる背景にあるのが、「都市の無秩序な膨張」という現象です。

この50年でフリータウンはどう変化したのか。

私たちは衛星データ分析の専門家の協力を得て、1974年から現在までの衛星写真を元に市街地の変化を調査しました。

  • 1974年
  • 2023年

すると50年前は大半が森林で覆われていた半島で、半世紀かけて住宅が丘陵地の奥深くまで広がっていったことが衛星写真からはっきりとわかりました。

1974年におよそ8割を占めていた森林が、いまでは半分ほどにまで減少していたのです。

シエラレオネでは1990年代の激しい内戦に加え、2014年にはエボラ出血熱が流行。

さらに近年は気候変動の影響とみられる天候不順によって作物が育たず、貧しい農村部から首都へ移り住む人の流れは加速し、50年前には10万人ほどだったフリータウンの人口がいまでは120万人以上に膨れ上がっているのです。

首都に移り住んできた人たちは森を切り開き、その木材で家を建設。丘陵地の斜面や海岸のすぐそば、谷間の急斜面にまでびっしりと家が建ち並んでいます。

丘陵地に広がる住宅

貧困から多くの人が首都に移り住み、丘陵地の森や海岸のマングローブ林がなくなったことで土砂災害や洪水が起きやすくなり、2017年のような大災害につながったのです。

止まらない貧困と気候変動の悪循環

海岸沿いの低地にあるスラムで8人の子どもと4人の孫と暮らす54歳の女性。

去年、真夜中に洪水が起きたときは家族で家の屋根の上に登って難を逃れましたが、ことしの雨季に同じような災害が起きたらどうなるのか、不安で仕方がないと言います。

洪水の被害にあったフマ・カヌさん(54)

フマ・カヌさん
「30年以上ここに住んでいますが、1年に何回も洪水の被害にあうようなことはこれまでありませんでした。真夜中に洪水が起きて、真っ暗な中で幼い孫が流されたら助けることなどできません。それでもお金もないので、ここ以外に行くところもないのです」

国民1人当たりのGNI=国民総所得が、日本の4万2500ドルに対してわずか500ドルと、日本の85分の1しかないシエラレオネ。

世界の中でも最貧国の1つであるシエラレオネには、災害を防ぐための大規模なインフラ整備をする余裕はありません。

ゴミの収集や処分すら十分に行われておらず、川や溝に捨てられたゴミで排水路が詰まって、雨季の洪水被害を広げる原因にもなっています。

川にごみを捨てる人の姿も

貧困が都市を脆弱にし、わずかな気象の変化でも大きな災害につながってしまう。

そして被災した人々はさらに貧しくなり、危険な場所に住み続けることになる。

フリータウンが直面しているのは、そんな貧困と気候変動のスパイラル=悪循環なのです。

「力を結集すれば山は動く」

こうした状況をなんとか改善しようと、行政も取り組みを始めています。

2018年に就任したアキソイヤー市長みずから街頭に出て市民に訴えるのは「木を植えよう」というキャンペーンです。

市が苗木を配り、市民の手で地肌がむき出しとなった斜面や海岸に木を植えるよう呼びかけています。

目標は100万本ですが、予算不足で思うように進んでいません。それでもこれまでに半分ほどのおよそ50万本は植えました。

フリータウン市の植樹活動のようす

このほか、アメリカの気象当局の協力を得て気温や湿度などのデータ収集と分析を進めたり、街に山積みになっているゴミを撤去したりする取り組みを進めています。

ただ、市がとれる対策は地道なものばかり。

「この問題に立ち向かうのは素手で山を動かそうとするようなものではないですか」と問うと、アキソイヤー市長は微笑みながら、「確かに問題は大きいですが、人々が力を結集すれば山は動くんですよ」と答えてくれました。

フリータウン イボンヌ・アキソイヤー市長 

気候変動への対策は「緩和」と「適応」の2種類があると言われます。

温室効果ガスの排出を減らして気温上昇を抑える「緩和」、そして、温暖化によって起きるさまざまな気象現象への「適応」の2つです。

シエラレオネにとって「緩和」は大国の排出削減の行方を見守るしかなく、自分たちだけではどうすることもできない問題です。

2017年に海沿いのスラムでおきた洪水

そして、フリータウンに住む人たちはこれからさらに温暖化が進むであろう“環境”にひたすら「適応」していくことを強いられます。

貧困に苦しむ人たちにさらに追い打ちをかける気候変動。

山を動かすために力を結集しなければならないのは、シエラレオネの人たちだけではないと強く感じました。

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