2024年1月10日、都内で行われた記念式典。
そこにはきらびやかな衣装を着た女性たちが…。たくさん身につけたゴールドのアクセサリーも光り輝いていました。
実はこの式典、日本と中米のパナマの外交関係が樹立されて120年になるのを記念したものでした。
初めて見る衣装のことが気になってパナマの駐日大使夫人に話を聞くと…
「着付けに約4時間かかってるんです」
4時間?いったいどういうこと?大使夫人がぜひ取材してくださいと言ってくれたので、取材してきました。
(国際部記者 高須絵梨)
パナマの伝統衣装“ポジェーラ”
記念式典で女性たちが身につけていたのは、「ポジェーラ」と呼ばれるパナマの伝統衣装なんだそうです。
白い布地に赤などの鮮やかな糸で動物や植物の手縫いの刺しゅうが施されています。
式典の会場で着付けに約4時間かかることを教えてくれたのは、パナマのカルロス・ペレ駐日大使の夫人エリザベスさん。
「着付けの様子を見に来る?自宅で着付けをするから、ぜひいらっしゃい!」
ポジェーラに興味津々だったのに気づいたのか、自宅に招いてくれました。
いたるところに並べられた衣装とアクセサリー
後日、大使の自宅に取材に訪れると、ソファーには白い生地のポジェーラが並べられ、テーブルの上には、光り輝くゴールドのアクセサリー、髪飾り、メイクセットなどが所狭しと置かれています。
聞くとポジェーラとは、パナマの女性の民族衣装で、結婚式やカーニバルなど、お祝いのときに着るんだそう。
毎年7月22日にはフェスティバルもあり、100人ほどの女性が着用したポジェーラのデザインやダンスの腕前を競うのだといいます。
フェスティバルには15歳以上の女性なら誰でも参加することができ、80代の女性が参加するのも珍しくないんだそうです。
ポジェーラの歴史には諸説あり?
ポジェーラに関する参考文献や公文書は少ないということで、どういう経緯で現在のようなスタイルに至っているのかはっきりしないといいます。
そんな中、ポジェーラのフェスティバル運営関係者の女性、アナ・ジュリア・ウルティア・ボレロさんが貴重な写真を見せてくれました。
そこには、19世紀に撮影されたとみられるポジェーラを着た女性たちが写っていました。
アナさんは、こうした写真や文献を集めて、ポジェーラにまつわる歴史を後世に残していけるよう、政府と一緒に公文書をまとめようとしていると教えてくれました。
いよいよ着付け!
そして本題の、ポジェーラの着付け。
ヘアメイクから着付けまでを担当するのは、ミゲル・アントニオ・ドミンゲスさんです。取材した日が、42歳の誕生日でした。
ミゲルさんは、今回の式典に参加する女性たちの着付けをするために、パナマから来日しました。
日本にポジェーラの着付けができる人がいないのか尋ねると、ヘアメイクから着付けまでできるプロは、パナマ国内にも10人もいないんだそうです。
「取材で来てくれているので、急いでメイクも着付けもしますね!」
大使夫人のエリザベスさんから約4時間もかかると聞いていましたが、いったいどれくらい短縮できるのか…。
メイク
ミゲルさん、まずはメイクから取り掛かります。
ポジェーラを着るときには、女性は自分でメイクすることはなく、必ずプロにしてもらうのだそうです。
衣装に合わせるアイラインやシャドーは、かなり濃いめで華やかです。目元には、つけまつげも付けます。
メイクに取り入れる色は、ポジェーラの刺しゅうの色に合わせるといい、この日は複数のピンク色を使ってメイクを施していました。
髪
続いてはヘアセット。
髪が落ちてこないように、かなり強めに2つに結んで三つ編みをしてまとめていくのがポイントだと、ミゲルさん。
「痛い…」
ヘアセットをしてもらっている大使夫人のエリザベスさんからは、うめくような声が漏れていました。
見ていても、かなりきつく結んでいるのがわかりました。
着付け
そして、いよいよポジェーラの着付け。
式典で見たときはワンピースのように見えましたが、ポジェーラは上下で分かれていて、上から順番に着ていくんだそうです。
Tシャツのように衣装の首の部分から頭を通して着ていました。
そして、スカートは3重に巻いて履き、ウエストの紐をぎゅうっとかなりの力を入れて締めます。
ポジェーラで最も印象的なのが繊細な手縫いの刺しゅう。
上の部分とスカートの部分、両方に細かく施されているほかレースもあしらわれています。
刺しゅうのモチーフには、鳥、蝶、花などが用いられているということです。
また、アクセサリーは必ず魚をモチーフにしたものを身につけるんだそうです。
そのわけは、パナマという国名には、先住民の言葉で「魚などがあふれる場所」という意味があるからだということでした。
ポジェーラは地方によって、少しずつ刺しゅうの施し方などが異なり、アナさんによると大きく分けて11種類あるといいます。
また、多くの人たちは、先祖から受け継いできたポジェーラやアクセサリーを身につけるということで、まさにパナマの歴史・伝統を表していると言えるのかもしれません。
アクセサリー
ポジェーラの着付けが終わると、次に、数々のアクセサリーを身につけていきます。
まずは、ゴールドのネックレス。
少なくとも7種類のネックレスを身に付けるということで、絡まらないように、1つ1つピンで固定していました。
髪飾り
そして終盤。
「テンブレッケ」と呼ばれる髪飾りです。
式典の時には一見頭からかぶる1つの髪飾りかと思っていましたが、それぞれの飾りがすべて細かく分かれていました。
ミゲルさんによると、1人1人の頭の大きさに合わせて、刺す飾りの本数を変えていくんだそうです。
まさに職人技。
私もテンブレッケを一部頭につけてもらいましたが、飾りには貝殻、パール、クリスタルなどを使っていることもあり、一部だけでもかなりの重さでした。
昔は、鳥の羽や魚のうろこなどで装飾していたこともあったんだといいます。
靴
最後は、ポジェーラの色に合わせた専用の靴を履いて、終了です。
靴も装飾されていて、レース、パール、宝石などがあしらわれているものが多いんだそうです。
ポジェーラの着付けに時間がかかるわけは…?
ミゲルさんが急ピッチで着付けを行った結果、今回は約2時間で女性2人の着付けが終わりました。
ミゲルさんによると、メイクや着付けをするのにかなりの時間がかかるのは、工程が多いのはもちろんですが、通常は、音楽をかけて踊ったり、お酒やお茶を飲んだりと、家族や友人との交流を楽しむことも理由だといいます。
余談ですが、ポジェーラとアクセサリーの総額は、本物のゴールドのアクセサリーをどのくらい身につけるかによって大きく変わりますが、総額1000万円を超える場合もあるということでした。
パナマの伝統が詰まった衣装ポジェーラ。
それぞれの装飾に歴史的な意味があるだけでなく、衣装やアクセサリーが代々受け継がれていくことで、歴史を紡いでいるのだとも感じました。
そして、じっくり時間をかけて行われるポジェーラの着付けは、パナマの人たちが家族や友人らとの絆を確認する大切な時間なのかもしれません。
(2024年1月11日 BS国際報道で放送)